膝の裏を曲げたり伸ばすと痛い、歩くのが辛い……
膝の痛みというと、関節の前や内外の痛みが注目されますが、膝の裏(膝窩:しつか)の痛みに悩まされる人も以外と多いものです。
膝の裏には、脚の後面の大きい筋肉付き、太い血管や神経が通り、免疫を担うリンパ節があり、膝の曲げ伸ばしで大きな負担がかかる部位なので、さまざまな原因で、障害を受けやすいと言えるでしょう。
今回は、スポーツや事故のケガのほか、思い当たる原因のない膝の裏の痛みもとりあげました。
また、中年以降の女性に多い、膝の裏が腫れる疾患もご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
膝の裏は、腫れやすく傷めやすい部位
膝関節は、太もも(大腿骨)と、すね(脛骨)と、お皿(膝蓋骨)の骨からなり、軟骨やクッションとなる半月板で、骨を適合させ衝撃を和らげています。
関節を覆う袋(関節包)は、潤滑と軟骨に栄養を与える役割の関節液で満たされ、内外と前後の靭帯とともに、関節がずれるのを防いでいます。
太ももの筋肉は膝の裏ですねの骨に付き、ふくらはぎの筋肉は膝の裏でふとももの骨に付き、おもに膝関節を曲げる働きをしています。
また膝裏には、膝窩動・静脈や坐骨神経(総腓骨神経・脛骨神経)、膝窩リンパ節などが、脂肪組織とともにあります。
それでは、スポーツや事故、加齢や運動不足などで、膝の裏が痛くなる疾患をみていきましょう。
スポーツや事故で、すねをぶつけた
すねが後方に押されるような力が膝に加わると、後十字靭帯を傷めます。
膝の裏が腫れて曲げると痛い、後十字靭帯損傷
後十字靭帯損傷では、膝の裏に腫れや皮下出血が生じ、曲げると痛みます。
受傷直後は、痛みのため立ち上がりや歩行ができず、重症例では靭帯付着部の剥離(はくり)骨折をおこすことがあります。
また、半月板や前十字靭帯、側副靭帯の損傷を合併する場合もあるので、注意が必要です。
後十字靭帯はすねをぶつけるコンタクトスポーツで多発
後十字靭帯は、脛骨の後方と大腿骨の前方をつなぐ太い靱帯で、脛骨が後ろにずれないように働いています。
転んだときや、スポーツ中の衝突などで、すねを硬いところにぶつけて、後十字靭帯が引き伸ばされたときに受傷することが多いのです。
ラグビーやサッカー、アメリカンフットボールや柔道のようなコンタクトスポーツ、スキーの転倒などで多発するでしょう。
また、交通事故では、車の助手席ですねをダッシュボードにぶつけて、後十字靭帯を損傷します。
後十字靭帯損傷の治療は、ほぼ保存療法
軽症の場合は、膝の裏の腫れや痛みは軽いですが、膝の不安定感と、立ち上がりや階段の下りでの痛みが長びくケースもあるので、早めの整形外科受診をおすすめします。
剥離骨折との鑑別にX線検査、半月板や靭帯、軟骨損傷との鑑別にMRI検査が行われます。
後十字靭帯損傷は、靭帯が完全に断裂することはまれで、修復されやすい靭帯なので、ほぼ保存療法で治療します。
痛みには消炎鎮痛剤が処方され、テーピングや専用のサポーターなどを使い、早期から運動療法を施します。
急性期を過ぎれば、膝の裏の腫れや痛みは和らぎますが、歩き始めやダッシュ、ジャンプの着地などで、膝の力がカクンと抜ける症状が残ることがあるでしょう。
また、後十字靭帯の完全断裂や合併症がある場合は、自分の腱を移植する靭帯再建術が検討されます。
アスリートやスポーツ愛好者は、できれば近隣のスポーツ専門の整形外科で相談されるとよいでしょう。
ケガをしていないのに、膝の屈伸で膝裏が痛い
膝の裏の筋肉や腱が痛みの原因です。
下り坂を走ると痛む、膝窩筋腱炎
膝窩筋腱炎では、長時間椅子に座っていて立ち上がる瞬間や、下り坂を走るときに、膝の裏の主に外側が鋭く痛むことが多いです。
膝窩筋は、膝の裏にある筋肉で、膝の関節を曲げたり、すねの骨(脛骨)を内側にねじるときに働きます。
膝関節に負担をかけすぎたり、変形性膝関節症をかばう動作などで、膝窩筋腱に炎症が生じて痛むのでしょう。
膝の屈伸や歩行で痛みが強い場合は、安静と消炎鎮痛剤、ステロイド注射などで治療します。
痛みが和らいできたら、膝の裏を伸ばすストレッチなどの運動療法や理学療法が施されます。
走るスポーツの人は、下り坂のランニングを制限し、代わりにエアロバイクなどの筋肉トレーニングをしましょう。
治療後に膝の裏に違和感が残るときは、テーピングが有効な場合があります。
長さ20cmの5cm幅の伸縮性テープを2枚用意して、ご自分で簡単に貼れます。
詳しい貼り方は、コチラの動画を参考にしてください。
※ピップスポーツ簡単テーピング(膝の裏側の違和感)
膝を伸ばすと痛む、太ももやふくらはぎの腱
膝の裏で骨に付く、ふくらはぎの筋肉(腓腹筋:ひふくきん)や太ももの筋肉(ハムストリングス:半腱様筋・半膜様筋・大腿二頭筋)にトラブルがあると、特に膝を伸ばしたときに痛みます。
仕事やスポーツで脚の筋肉に負担をかけすぎると、筋肉の腱の付着部で炎症をおこして、膝の裏が痛みます。
また、筋力が低下したり、疲労して筋肉が硬く強張ってしまうと、膝を伸ばした時に筋肉の付け根が引っ張られて、痛みが生じるでしょう。
膝の裏の痛みが強いときは、消炎鎮痛剤を使い安静を保ち、痛みが和らいだら筋トレとストレッチが有効です。
膝に疾患があり、膝の裏が腫れて痛い
膝の裏に液が溜まって、腫れて痛む疾患です。
中年女性に多い、ベーカー嚢腫(のうしゅ)・膝窩嚢腫
膝の裏が腫れて、曲げると違和感や圧迫感があるので正座がつらく、膝を伸ばしても痛いことがあります。
発症年齢は55~70歳、特に50歳以上の膝の悪い女性に多くみられる疾患です。
変形性膝関節症や関節リウマチ、半月板や靭帯の損傷などで、膝関節内に増えた関節液が、膝の裏の袋に溜まって濃縮され、ふくらみになります。
まれに嚢腫が破れて周囲の組織に液が漏れると、炎症をおこして痛むでしょう。
また、腫れが静脈を圧迫すると、血栓ができることもあるので注意が必要です。
アスリートや子供の、膝の裏も腫れます
ベーカー嚢腫は、膝をケガしやすいアスリート、反張膝(はんちょうしつ)やスポーツをする子供にも発症します。
反張膝とは、膝関節が後側に弓状に反ってしまう状態で、小児に多くみられます。
若年者の場合は、膝の使いすぎなどで、膝の裏にある滑液包(クッションとなる、滑液が入った袋)に炎症がおき、滑液(潤滑と代謝の役割をする液体)が溜まって腫れます。
ベーカー嚢腫の診断と治療は?
他の腫瘍との鑑別が必要なときは、エコーやMRI、関節造影で診断します。
ベーカー嚢腫は、大きさが30mmまでは痛みが少ないとされています。
しかし、腫れがなかなかひかないで、膝関節の屈伸がしづらく、神経や血管を圧迫して痛みがある場合は、注射針で関節液を抜きステロイド薬を注入します。
保存治療で効果がなく、日常生活に支障があれば、嚢胞を切除する手術が検討されるでしょう。
また近年では、鏡視下における手術が好成績をおさめています。
膝裏の滑液包へ関節液が流れる、一方向の弁があるため、膝関節内の過剰な関節液が膝裏に溜まると考えられています。
鏡視下手術では、その関節液の通り道を拡げると共に、併発している関節軟骨や半月板の損傷の治療も同時に行えます。
何もしていないのに、膝の裏が痛い
膝の裏を叩くとひびく、神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)
思い当たる原因がないのに、膝の裏が腫れてきて痛みます。
神経鞘腫は、末梢神経にできる良性の軟部腫瘍で、20~50歳に多い疾患です。
膝の裏を叩くと、足全体へひびくような痛みが生じるのが特徴です。
ベーカー嚢腫との鑑別が必要なので、MRIや超音波検査で診断し、手術で除去します。
膝の裏のリンパ節が腫れることも
膝の裏が腫れて痛み、曲げると違和感が生じます。
膝の裏には、膝窩リンパ節があり、身体の免疫と循環に重要な働きをしています。
病気などで炎症がおきると、膝の裏にしこりを触れたり、痛みや熱感がでることがあります。
普段と違う身体の異常を感じたら、病院で診てもらいましょう。
また、運動不足や長時間のデスクワークなどでも、リンパ液が滞り、膝の裏が腫れることがあります。
同じ姿勢をなるべく避け、気が付いた時には、足首をよく動かすようにしましょう。
入浴(40度で10分間くらい)や、足先から太ももに向けてのマッサージも有効ですので、お試しください。
脚がむくんで痛む、下肢静脈瘤
下肢静脈瘤でも、膝の裏やふくらはぎ、太ももなどが痛むことがあります。
静脈の逆流防止弁の働きが悪くなって、静脈がコブのように皮下に浮いてきます。
症状は、だるさや痛み、むくみなどですが、悪化すると潰瘍ができたりしますので、放置せずに専門医を受診してください。
近年は、下肢静脈瘤専門のクリニックも増えていますので、気軽に相談しましょう。
ビリビリ・ジンジン・チクチク痛む、坐骨神経痛
膝の裏は、太ももからの坐骨神経の通り道なので、神経痛が生じることがあります。
腰に疾患があり、お尻や脚に痛みや痺れがあれば、坐骨神経痛が考えられます。
麻痺や運動障害がでる前に、整形外科を受診しましょう。
※坐骨神経痛の詳細は、こちらの記事も参考にしてください。
「坐骨(ざこつ)神経痛の原因と症状!治し方のポイントはツボにあり!」
https://lifehack-analyzer.com/sciatica/
原因不明の膝裏の痛みには、トリガーポイント治療!
その膝裏の痛みの原因は、トリガーポイント(痛む箇所から離れた治療ポイント)かもしれません。
膝の裏にひびくトリガーポイントを探してみましょう
膝の裏を、スポーツやケガで傷めた覚えがないのに痛みがある。
病院で診てもらっても、原因がはっきりせず、なかなか良くならない……。
さまざまな治療を続けても、症状が改善しないときは、「トリガーポイント」と呼ばれる筋肉のしこりが原因の場合もあります。
太ももの後や膝の裏、ふくらはぎの筋肉を、親指や人差し指、あるいは指を揃えて探ってみてください。
お菓子のグミのような丸いしこりや、すじ状のしこりを押してみて、膝裏のいつも痛い箇所にひびけば、トリガーポイントの可能性があります。
膝の裏にひびかないしこりでも、押す角度を変えてみると普段の痛みが再現されることがあるので、お試しください。
それでは、膝の裏に痛みをおこす、代表的なトリガーポイントをご紹介していきましょう。
膝の裏の痛みには、このトリガーポイント
- 膝窩筋……膝の裏で、やや外側
- 腓腹筋……膝裏の横じわから、3横指(人差し指から薬指までの指3本分の幅)下の左右2点
- 足底筋……膝裏の横じわ中央の少し上
- ハムストリングス…… 太もも後面で、お尻の下と膝裏のほぼ中間の左右2点
- ヒラメ筋……ふくらはぎの内側で、脛骨(すねの骨)の後方の中央付近
※これらのトリガーポイントを目安に、その周辺で膝の裏にひびく筋肉のしこりを捜してみてください。
トリガーポイントを見つけたら、あとは押すだけ!
膝の裏の痛みが再現されるポイントを見つけたら、気持ちよくひびく程度の強さで、20~30秒ほど押し続けてみましょう。
押しているうちに、患部へのひびきが弱くなってきたら、そこはトリガーポイントです。
圧迫を少し強めながら、20~30秒の持続圧迫を数回繰り返してください。
また、持続圧迫で症状が軽減しない場合は、「5秒押して3秒離す」を繰り返す方法を試してみてください。
少しでも症状に変化が現れたら、続ける価値のある治療法だと考えられます。
さらに、お風呂あがりで身体が温まり、全身の筋肉が緩んだ状態での治療は、より効果的なのでおすすめですよ。
治療後は、押した筋肉を30秒間ほど、ストレッチしましょう。
緩やかで気持ちのよい程度のストレッチは、治療効果の継続に役立ちます。
強すぎて痛みを感じるストレッチは、症状を悪化させるのでご注意くださいね。
普段から姿勢に気を付け、適度に運動しましょう
腰や股関節、膝関節などに疾患のある人は、無意識に患部をかばって、関節を少し曲げた姿勢になりがちです。
膝関節を曲げ気味で立ったり歩いていると、脚の後の筋肉が縮んでしまい、膝を伸ばそうとすると膝の裏が痛みます。
また、長時間のあぐらや正座、横坐りや椅子で脚を組むのも、膝の裏に負担をかけるので、なるべく控えてください。
普段から姿勢に気を付けて、適度な筋トレやストレッチを行うことが、膝窩痛の予防につながるでしょう。
コメントを残す