『栗田ターン』をしなければ勝てたのか?第二次世界大戦末期のレイテ沖海戦







1944年10月、大日本帝国海軍、連合艦隊は最後の大作戦を実施します。

「捷一号作戦」です。

レイテ沖海戦とは、このときにおきた海戦です。

そして、レイテ沖海戦で敵輸送船団を目前とした日本の主力艦隊がターンして戦線離脱するという謎の事態が発生します。

当時の艦隊を率いていた栗田提督の名をとって「栗田ターン」と呼ばれるものです。

 

いったいなぜ「栗田ターン」は起きたのかは今でも謎のままです。

 

しかし、そもそも「栗田ターン」がなければ日本艦隊は輸送船を撃滅し、フィリピンにおける戦況を変えることができたのでしょうか?

今回はその点を考察していきます。

 

フィリピンが占領されると、資源輸送が途絶える

 

「捷一号作戦」は、フィリピンでアメリカ艦隊を迎え撃ち撃滅し、フィリピンを死守することが作戦目的となっていました。

当時の日本は、絶対国防圏であるマリアナをアメリカに突破され、本土空襲の危機に瀕していました。

ここで、フィリピンが陥落すると、南方資源地帯と日本本土の輸送路が完全に寸断されます。

実際、史実でもフィリピンがアメリカ軍の勢力圏内に入ると一部の例外的輸送作戦以外では、南方から日本への輸送は一切不可能となりました。

 

絶望的状況!もはや空母は空っぽ、敵は1000機を超える機動部隊

 

マリアナ防衛を目指した戦いでは、日本の機動部隊「第一機動艦隊」は500機近い機動部隊を運用できていました。

機数だけなら、開戦以最大規模で真珠湾を超えます。

しかも、マリアナ諸島各地の陸上基地にも「第一機動艦隊」という基地航空隊がほぼ同数の機体を展開しています。1000機近い戦力を日本は持っていました。

しかし、地上基地の航空隊は各個撃破され、戦力をあっという間にすり減らします。

日本は空母決戦でも惨敗。

もはや空母機動部隊は壊滅し、太平洋戦争中に再建されることはなくなったのです。

 

こんな状況で迎えたのがフィリピンでの戦闘です。

かつて世界最強を誇った日本の機動部隊はわずか4隻「瑞鶴隊」「瑞鳳」「千歳」「千代田」、搭載機は100機少々で、アメリカの正規空母1隻分です。

 

計画では6隻240機の機動部隊を計画していましたが、それも揃いません。

しかし、用意できていたとしても焼け石に水でしょう。

増強を重ねたアメリカ機動部隊は1000機を超える機体を運用しているのです。

果たしてこれでどう戦えというのでしょうか?

 

空母を囮に戦艦を輸送船団に突っ込ませる

日本側は逆転の発想をします。

太平洋戦争で主力となっていた空母中心とする機動部隊を囮として脅威となるアメリカ機動部隊を引っ張り上げるのです。

そして、その隙にレイテ湾に戦艦部隊を中心とする主力艦隊を突っ込ませ、上陸中の敵輸送船団を殲滅するという作戦を練るのです。

 

まずは、アメリカ機動部隊が囮となった日本機動部隊に食らいつくかどうか。

また、食らいついたとしても、果たして無事に主力艦隊がレイテに突入できるのかなどの問題は多かったのです。

こうやって書いてしまうと簡単ですが、非常に精緻を極めた作戦が練られていくのです。

 

傷だけになりながら進む日本艦隊と釣られるハルゼー艦隊

 

日本艦隊の主力はアメリカ機動部隊に捕捉され、潜水艦、航空機の攻撃により多くの被害を受けます。

不沈戦艦と呼ばれた大和の姉妹艦である武蔵も圧倒的な航空攻撃の前にシブヤン海で沈むことになります。

 

戦艦武蔵をはじめ、潜水艦攻撃で重巡2隻、その他に多くの艦を航空攻撃で失い、損傷を受けながらも主力艦隊はレイテ湾を目指しました。

この間、アメリカ機動部隊から第五次にわたる航空攻撃を受けていたのです。

余りの被害の大きさに、一次レイテ突入を断念しますが、再びレイテをめざし進撃を始めます。

このころ、ちょうど小沢提督率いる日本海軍最後の機動部隊がハルゼーの機動部隊のつり上げに成功していました。

 

日本の主力艦隊レイテ湾に突入目前の戦闘

日本海軍の主力は満身創痍になりながらも、まだ46サンチ砲9門を搭載する世界最強の戦艦『大和』、40サンチ砲8門を積んだ世界のビッグ・セブンと呼ばれた戦艦『長門』、30ノット超える高速を誇る戦艦『金剛』『榛名』などの強力な戦力をもっていました。

少なくとも当時、アメリカ以外が相手であれば、震えのくる戦力です。

 

日本艦隊の前に立ちふさがったアメリカ艦隊は護衛空母6隻を中心とする輸送船団を護衛するための艦隊でした。

戦闘が開始されますが、この護衛空母と駆逐艦部隊も手ごわく、日本艦隊はかなりの被害を受けます。

日本側の戦果は護衛空母1隻、駆逐艦2隻、護衛駆逐艦1隻だけでした。

 

 

謎の「栗田ターン」発生!

 

栗田提督が率いる主力艦隊の目的は、レイテ湾の突入による敵輸送船団の撃破です。

栗田提督は艦隊を立て直そうとしますが、この間も航空攻撃を受けるなど、陣形の立て直しに時間がかかってきます。

護衛空母とはいえ航空機を搭載し、航空攻撃は仕掛けてくるのですから対応するのは簡単ではありません。

 

栗田提督は当初レイテ湾突入を目指していましたが、この後謎の電報が入ります。

それは、北方に敵の有力な機動部隊を発見したという情報でした。

そして、その情報を信じた栗田艦隊はその敵を目指し反転し戦場を去って行きます。

しかし、そこに敵はいなかったのです。

 

当時の通信情報技術では、誤報や通信が届かない、重要な通信がずっと後になって届くなどは、普通にあることだったのです。

これがいわゆる「栗田ターン」です。

栗田艦隊は、レイテに突入することなく、戦場を去ったことで戦後大きな批判にさらされますが、彼は黙してその理由を語りませんでした。

 

「栗田ターン」の理由

 

いわゆる「栗田ターン」といわれるのが、通信の混乱から生じたのだろうというのが、ひとつの説です。

また、栗田艦隊は5次にわたるアメリカ機動部隊の航空攻撃を受け、散々被害を受けていました。

サマール沖海戦でも護衛空母と駆逐艦の猛反撃で、少なくない被害を受けています。

 

しかし、栗田提督は「正規空母」を叩いたと思い込んでいます。

戦果が上がったと判断していました。

問題は、ここで「栗田ターン」をしないで輸送船団と戦っていたらどうなっていたかです。

果たして、レイテに上陸しようとしていた輸送船団を撃滅できたのでしょうか?

 

「栗田ターン」が無かった場合

 

もしそのままレイテ湾に突入していれば、輸送船団を撃滅できて少なくともフィリピンの戦いの中では一時的に有利な局面が生まれたのではないかという主張が昔からあります。

 

迎え撃つアメリカ戦力は、スリガオ沖海戦で砲弾を消耗したといわれているルデンドルフ提督の艦隊であろうと長年思われてきました。

砲弾を消耗したといわれていても戦艦6隻、重巡4隻を中心とした強力な艦隊です。

駆逐艦も一線級攻撃力を持つフレッチャー級など27隻です。

 

しかし、日本海軍が輸送船団にたどり着くまでには敵はこの艦隊だけでないのです。

輸送船団を厳重に護衛するのはアメリカ海軍にとっては常識です。

この海戦で初めて行われた神風特攻隊の攻撃で、護衛空母1隻を失っていましたが、その時点で運用できた航空機は200機に近いと想定されます。

 

サマール沖海戦では、不意を突かれたアメリカ護衛空母からの10数機単位の、散発的な攻撃でも、日本海軍は大きな損害を受けています。

すでに米軍が確保していた地上基地との連携による反復の航空攻撃を受ける可能性は非常に高かったでしょう。

ハルゼーの機動部隊が釣り上げられた状態でも、アメリカには十分な航空戦力があったのです。

損傷艦も多い日本艦隊は、レイテの輸送船団に到達する前に、全滅させられた可能性もあります。

それほどまでに、当時の日本海軍とアメリカ海軍の戦力は隔絶していました。

 

もし、航空支援がないとしても、ルデンドルフ提督の艦隊が阻止活動に出た場合、駆逐艦の数の差で圧倒されてしまう可能性は高いです。

戦艦よりも、駆逐艦の方が脅威かも知れません。

栗田艦隊がターンしなければ、そのまま艦隊は何の成果もなく、全滅していた可能性が高いのではないかというのが最近では有力な説となっています。

 

すでに局地的戦闘でも勝利が難しい状況

 

レイテ沖海戦を最後に、大日本帝国の連合艦隊は艦隊の組織的運用を行った作戦ができなくなります。

日本海軍はこの海戦から神風特攻隊を実施し、その戦法が常態化していくのです。

一部の例外を除いて、日本海軍の攻撃は特攻しか通用しなくなったのです。

もう、局地的な戦闘でも日本海軍がアメリカ海軍に対抗するのは困難になっていました。

 

輸送船団を守る戦力であっても、日本海軍の全力をもってしても打ち抜くことは困難であったというのが当時の現実です。

栗田ターンが無ければ輸送船団を撃滅できたかもしれないという考えは、当時のアメリカの戦力を過小評価したものであり、また日本の戦力を過大評価しすぎたものです。

 

結果として、間違った情報によるターンであったとしても、それによって死ななくてよかった人間が助かったのは事実ではないでしょうか。

既に戦況は「栗田ターン」があったか、なかったかでどうこうできるレベルには無かったということです。










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