歩いたり椅子に座るとお尻が痛い、お尻から足にかけて痛みや痺れがある……
お尻や脚に痛みがあると、普段の動作がとてもつらいですよね。
お尻のふくらみは、大殿筋(だいでんきん)、中殿筋、小殿筋、梨状筋(りじょうきん)などからなり、下半身の動作を制御しています。
もし、お尻の筋肉や神経にトラブルがおきると、日常生活にさまざまな支障を生じかねません。
そこで今回は、お尻に痛みをおこす疾患の症状をご紹介しますので、ぜひ早期発見の参考になさってください。
日常生活動作を支える、お尻の筋肉

お尻の筋肉は何層にも重なり、主に骨盤から大腿骨(太ももの骨)にのびて、股関節を動かすときに働きます。
そして、歩く、走る、立ちあがる、階段を昇るなどの動作で大きな力を発揮しています。
また、股関節を安定させ、膝関節を伸ばして固定し、立つ姿勢を保持する大切な仕事も見逃せません。
さらに下肢を支配する人体最大の坐骨神経などが、お尻の筋肉の間を通るので、さまざまな症状の原因となることがあります。
それでは、症状や状況から、お尻の痛みの原因となる疾患(肛門の病気以外)を探っていきましょう。
歩くとお尻が痛い

歩くとお尻が痛い場合は、腰や股関節、筋肉や神経の疾患が原因になります。
腰やお尻の痛みが強く、脚にも痛みや痺れがある
腰やお尻の痛みが強く、脚にも痛みや痺れがある場合、坐骨神経痛による、お尻や脚の痛み、歩行障害が考えられます。
坐骨神経痛は、お尻から太もも、すねやふくらはぎから足先まで、痛みや痺れがでます。
進行すると、感覚が鈍くなったり力が入らず、歩行障害や排尿排便障害が生じることもあります。
薬物療法や理学療法、神経ブロック療法などで治療しますが、効果がなく日常生活に大きな支障があるケースでは、手術が検討されるでしょう。
主に腰の疾患が原因と考えられていますが、日常生活動作や姿勢、ストレスや生きがいなども、腰やお尻などの痛みに影響すると言われています。
症状や年齢、基礎疾患などにもよりますが、生活スタイルを変えたり、運動療法を取り入れた治療も効果が期待できますので、専門医とご相談のうえ、ぜひ取り組んでみてください。
※坐骨神経痛の詳細は、こちらの記事も参考にしてください。
「坐骨(ざこつ)神経痛の原因と症状!治し方のポイントはツボにあり!」
腰は痛くないのに、お尻や脚に痛みや痺れがある
腰は痛くないのに、お尻や脚に痛みや痺れがある場合は、梨状筋症候群による、お尻や脚の痛みが考えられます。
梨状筋(りじょうきん)というお尻の筋肉が坐骨神経を締め付けると、お尻に痛みや脚に痺れが生じます。
梨状筋は、背骨の下の骨盤にある仙骨という逆三角形の骨の内側から、大腿骨の外側の出っ張り(大転子:だいてんし)に付いて、股関節を外旋(足のつま先を外側に向ける)させます。
ランニングやゴルフなどの運動、草刈りなどの中腰やしゃがみ作業、長時間のドライブやデスクワークなどで疲労して硬くなった梨状筋が、下を通る坐骨神経を圧迫すると発症します。
お尻の梨状筋部が硬くて圧痛があり、お尻から脚にかけてピリピリとした痛みや痺れがしつこく続きますが、腰に痛みはありません。
立ち上がるときや腰を反らしたとき、正座で下腿を外側に開いた姿勢、脚を伸ばした座位でつま先を外側に向けたときなどに、症状が強くなります。
理学療法や薬物療法、ブロック注射などが有効ですが、まれに梨状筋を切離する手術が検討されることもあります。
運動療法では、梨状筋のストレッチが特に有効とされていますので、おすすめです。
ただし、坐骨神経痛の原因となる他の疾患(腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症など)との鑑別が必須ですので、整形外科医にご相談の上、開始してください。
歩いたり立ち上がるとき、お尻や脚の付け根が痛い
歩いたり立ち上がるとき、お尻や脚の付け根が痛い場合は、変形性股関節症による、お尻の痛みが考えられます。
変形性股関節症は股関節が変形して、脚の付け根が痛くなる疾患ですが、お尻の後や外側が痛むこともあります。
中年以降の女性に多く、股関節の軟骨がすり減ってくると、立ち上がりや歩き始めに痛くなり、進行すると安静時も痛く、歩行がつらくなります。
X線などで診断し、生活改善や薬物療法、理学療法や運動療法で治療しますが、症状が軽減せず日常生活に支障がある場合は、手術が検討されるでしょう。
※変形性股関節症の詳細は、こちらの記事も参考にしてください。
「あなたの股関節痛、もしかしたら変形性股関節症かも?症状や治療について」
検査で異常がないのに、腰やお尻、脚に痛みや痺れがある
検査で異常がないのに、腰やお尻、脚に痛みや痺れがある場合は、上・中殿皮(じょう・ちゅうでんひ)神経障害による、お尻の痛みが疑われます。
上・中殿皮神経障害では、腰やお尻から脚にかけて、痛みや痺れがあります。
長時間椅子に腰掛けたり、仰向けに寝ると症状が悪化し、上体を斜め前に倒すと痛む、歩きにくい等もこの疾患の特徴です。
上殿皮神経は、背骨から出てお尻の上部の皮膚にのびる神経で、骨盤の骨と筋肉を覆う膜に(筋膜)挟まれると、神経が締め付けられて障害をうけます。
中殿皮神経は、背骨の下の仙骨から出てお尻の中部の皮膚にのびる神経で、靭帯に挟まれると同様に障害され、痛みや痺れが生じます。
MRI検査などでは診断できず、上殿皮神経は背骨の中心から約7cm外方、中殿皮神経は約3.5cm外方を押すと、痛みや痺れが強くなり、局所麻酔剤を注射すると症状が和らぐことで、殿皮神経障害と診断します。
神経ブロック注射で治療しますが、数回施しても改善しない症例では、神経の圧迫を開放する「末梢神経剥離手術」が検討されるでしょう。
お尻がピリピリ痛み、やがて発疹や水ぶくれが……

お尻がピリピリ痛み、発疹や水ぶくれができる場合は、水痘(すいとう)・帯状疱疹(たいじょうほうしん)ウイルスやヘルペスウイルスの感染症による、お尻の痛みが考えられます。
帯状疱疹は、お尻や腰の片側に、最初ピリピリと刺すような痛みが生じ、やがて帯状に発疹(赤い斑点)と小さな水ぶくれができる疾患です。
人は水痘・帯状疱疹ウイルスに感染すると、「水ぼうそう」になりますが、治癒後もウイルスは神経に潜在し帯状疱疹として発病します。
中高年に多く、過労やストレスなどで免疫力が低下すると、胸や背中、顔などにも発症しますが、その後の再発はまれです。
帯状疱疹としては、他人に感染しませんが、乳幼児に水ぼうそうとして、うつる場合があるので注意が必要です。
抗ウイルス剤を内服しますが、高齢者の帯状疱疹などでは入院点滴治療を施すケースもあるでしょう。
帯状疱疹後の神経痛が強い症例では、ペインクリニックで神経ブロックなどの治療をします。
ヘルペスウイルスによる性感染症の、性器ヘルペス(単純ヘルペスウイルス2型)でも、性器やお尻に発疹や水ぶくれができて痛みます。
免疫力が低下していると再発を繰り返し、接触感染するのでタオルや便座なども要注意です。
抗ヘルペスウイルス外用薬や内服薬で治癒しますので、皮膚に違和感を感じたら早めに皮膚科を受診しましょう。
お尻の痛みには、トリガーポイント療法がおすすめ

近年、坐骨神経痛様の痛みをおこす原因の一つが、トリガーポイントと考えられています。
トリガーポイントとは、痛む箇所と離れたところにある、治療ポイントとなる、筋肉のしこりです。
お尻の痛みのトリガーポイントは、お尻や脚などに点在しますので、探し出してセルフケアしましょう。
- 大殿筋……お尻の下の横じわ付近
- 中殿筋……お尻の上外側付近、脚を外側に挙げたときに緊張する筋肉
- 梨状筋……尾てい骨と、股関節の外側の出っ張った骨を結ぶ線の中央付近
- 腰方形筋……腰の背骨の中心から、外方へ3~5cmの縦長のエリア
- 脊柱起立筋……腰の背骨の中心から、外方へ1~3cmの縦長のエリア
- 腹直筋……腹部中央の、縦長の筋肉の恥骨付近
- ハムストリングス……太ももの後にある縦長の筋肉の中央付近で、内側と外側の2点
- 小殿筋……股関節の外側にある、出っ張った骨の上方、脚を外側に挙げたときに緊張する筋肉
- ヒラメ筋……ふくらはぎの内側で、すねの骨の後方の縦長の筋肉
押してみて、お尻のいつもの痛い箇所にひびく、お菓子のグミのようなしこりがトリガーポイントです。
気持ちよくひびく程度の強さで、20~30秒の持続圧迫を数回繰り返しましょう。
押す角度を変えてみると、より効果的な場合があるのでお試しください。
治療中、お尻の痛みが強くなる場合は、中止してください。
原因のないお尻の痛みが増悪するときは、病院で診てもらいましょう
普段より激しい運動をしたり、旅行で歩き過ぎたなどでお尻が痛む筋肉痛であれば、数日で回復するので心配はいりません。
スポーツの後はアイシングをしたり、湿布や塗り薬で治療し、痛みが強いときは、熱い風呂やアルコールは避けてください。
痛みのピークを過ぎたら、ぬるめの入浴などでお尻を温め、軽いマッサージやストレッチをしましょう。
ただし、痛みや痺れが強く、お尻の神経や筋肉の疾患が疑われるときは、整形外科を受診してください。
思い当たる原因がないのに、お尻が痛み出したり、痺れがでたら神経や内臓の病気が隠れているかも知れません。
特に、夜間や安静にしていてもお尻が痛み、徐々に強くなるときは、要注意です。
骨盤内臓器(子宮、卵巣、膀胱など)の疾患や直腸がんの転移の場合もあるので、早めに専門医にご相談ください。
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