口を大きく開け閉めすると、あごが痛い!
まず、この症状が1週間以上続いたら、病院で診てもらいましょう。
顎関節症(がくかんせつしょう)の可能性があれば、「口腔外科を併設した歯医者さん」の受診がおすすめです。
顎(あご)の痛みの原因はさまざまですが、特に顎関節症の症状は、2人に1人が経験するといわれています。
自然に治る場合もありますが、思わぬ病気が隠れていることも。
そこで今回は、「顎の痛み」で疑われる疾患と、顎関節の病気で最も多い「顎関節症」の詳細をお届けします。
顎のどこが痛みますか?
顎と一言でいっても範囲は意外に広く、頭の骨の下で、口の上を上顎(じょうがく)、下を下顎(かがく)と呼びます。
「上顎」は、耳の前から目の下、上の歯がつく骨までをさし、「下顎」は耳の前から下の歯がつく骨、そしてあごの先端までをさします。
顎関節は、側頭骨(そくとうこつ:耳の周りの骨)にあるくぼみ(下顎窩:かがくか)および、その前の突起(関節結節)と、下顎骨にある下顎頭 (かがくとう) で構成されます。
上下の骨の間には、関節円板というクッションがあり、下顎骨を動かす複数の筋肉により、口が開閉されます。
耳の前が痛む
顎の関節や筋肉が痛み、大きく口を開けられない、口の開閉時に音がする、ものが噛みにくいなどの症状があれば、顎関節症が疑われます。
歯科口腔外科を受診しましょう。
また、自己免疫疾患である関節リウマチは、全身の関節におこる疾患なので、顎が痛むこともあります。
倦怠感や体重減少、他の関節の腫れや痛み、朝のこわばりなどがみられたら、リウマチ科や膠原病科を受診してください。
耳の下が痛む
唾液腺炎(顎下腺炎、耳下腺炎)は、細菌やウイルスの感染、アレルギーや自己免疫などが原因でおこります。
代表的なムンプスウイルスの感染でおこる流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)は、小児に多い疾患です。
耳鼻咽喉科か口腔外科を受診しましょう。
リンパ節炎は、感染による炎症や腫瘍などが原因で、リンパ節が腫れて痛みます。
耳の下だけでなく、耳の後や首が痛む場合もあります。
また、耳にも痛みがあれば、中耳炎や内耳炎の可能性があるので、耳鼻咽喉科を受診しましょう。
目の異物感や口の乾燥を伴う、シェーグレン症候群でも、耳の下が痛みます。
膠原病(こうげんびょう)という自己免疫疾患で、治療はリウマチ膠原病内科が専門です。
親知らずの周囲に炎症が起きる、智歯(ちし)周囲炎になると腫れて痛み、口が開けづらくなります。
悪化すると、発熱や頭痛を伴い、痛みで夜も寝れなくなるので、早めに歯科を受診しましょう。
目の下が痛む
蓄膿症(慢性副鼻腔炎)では、鼻水や鼻づまり、悪化すると頬や目の奥の痛み、頭痛などがみられます。
耳鼻咽喉科の受診をおすすめします。
顔に突発的な激痛がおこる三叉(さんさ)神経痛は、走るような痛みが数秒から、長くても数十秒でおさまるのが特徴です。
三叉神経は、おでこ、ほほ、顎に分布していますが、ほほと顎に発症しやすいでしょう。
脳神経外科や神経内科、麻酔科(ペインクリニック)で、治療が受けられます。
鼻の下や顎の先が痛む
虫歯を放置すると、顎の骨に膿が溜まって歯茎が腫れて痛みます。
さらに、副鼻腔炎や頭痛、顎関節症を引き起こすこともあるので、早めに歯科を受診しましょう。
また、転倒や打撃でぶつけて痛いときは、整形外科を受診してください。
顎骨骨髄炎、根尖性歯周炎、顎骨嚢胞、歯根嚢胞、顎骨腫瘍、エナメル上皮腫、歯肉がんなどの病気でも、顎が痛みますので、異常を感じたら専門医を受診しましょう。
顎関節疾患で最も多い、顎関節症のセルフチェック
ここからは顎の痛みの原因として最も多い、顎関節症(がくかんせつしょう)について解説していきます。
あなたの症状は、虫歯や歯周病につぐ第3の歯科疾患といわれる、顎関節症かも知れません。
患者さんは女性に多く、20~30歳代をピークに、10歳代後半から増加傾向にあります。
まずは、セルフチェックしてみましょう。
- 口を大きく開けにくい(人差し指から薬指の3本が、縦に入らない)
- 口を大きく開閉した時に痛む
- 口がまっすぐ開かない
- 硬い物を食べると、顎や顔が痛い
- 口の開閉時に、カクッなどの音がする
- 食事で顎が疲れる
- 大きく舌を出したとき、まっすぐ出ない
- こめかみやほほの下を押すと痛い
*複数あてはまれば、顎関節症の可能性があるでしょう。
顎関節痛、開口障害、雑音が三大症状
「あごが痛む、口が開きづらい、あごを動かすと音がする」が、顎関節症の三大症状です。
顎関節に負担をかけ続けると、関節内でクッションとなる関節円板が前方にズレてしまうことがあります。
口を大きく開けたときに関節円板のズレが戻ると、開閉時にカクンと音がします。
ズレが戻らない場合は、顎関節痛や開口障害などの症状がおこります。
患者さんの約7割に、関節円板のズレがみられるとの報告があり、診断にはMRI検査が有用でしょう。
また軽症では、あごの周りの筋肉の痛み、関節包や靭帯の炎症だけの場合もあります。
口を大きく開けようとすると痛む
口を開く時や食物をかむ時に、耳の前や顔、頭が痛みます。
頬やこめかみの筋肉、顎関節の痛みで、圧痛があります。
口が大きく開かない
関節そのものの動きが制限されたり、痛みのために口が開けづらくなります。
また、開ける時に顎が左右に揺れたり、スムーズに開かないなどの症状がみられますが、自然に治癒することもあるでしょう。
あごを動かすと音がする
カクン、コキコキなどの弾ける音や、ゴリゴリ、ザラザラなどの擦れる音がします。
顎関節の音は、人口の約20%にみられるとされ、口の開閉時に生じる雑音のみの症状であれば、治療は不要とも言われています。(東京医科歯科大学 木野准教授)
顎関節症は多彩な要因が集まり、原因になります
筋肉や関節の障害、精神的な要因や日常生活の習慣などが重なり発症します。
口を開閉する筋肉や顎関節の構造的弱さや噛み合わせの不良の他、さまざまな要因があります。
歯の噛み合わせ
噛み合わせが悪い、入れ歯や差し歯が合わないなどにより、あごが歪んで慢性的な筋肉の痛みが起こるといわれてきました。
しかし現在、日本歯科医師会では、噛み合わせだけを原因とする説に否定的で、多因子病因説をとっています。
噛み合わせを含め、さまざまな因子が重なり、顎関節症の原因になるとする説です。
食いしばり、歯ぎしり
食いしばる習慣や歯ぎしりの癖がある人は、あごや歯に大きな負担がかかるので、顎関節症の原因になります。
何かに熱中したり精神的な緊張、不安や気分の落ち込み、激しいスポーツや寒さを感じたときなどに、強く食いしばることが多いでしょう。
また、上下の歯を常に接触させていると、あごの筋肉が慢性的に緊張し、血流が悪くなって痛みます。
これを歯列接触癖(TCH)と呼び、顎関節症患者さんの8割近くにみられるとの報告があります。
食事の負担
横のテレビを見ながら食べたり、片側だけで噛むと、顎にアンバランスな負担がかかり、関節に歪みが生じます。
硬いものを食べたり、ガムを強く噛み続けても、顎が痛くなることがあるでしょう。
また、加齢などで噛む力が弱くなると、食物の咀嚼で、顎の筋肉が疲労して痛みます。
生活習慣
近年は、顎に負担のかかる、日常生活の習慣が注目されています。
頬杖(ほおづえ)、スマホの長時間操作、うつぶせで読書、管楽器やバイオリンの演奏、下顎を突き出す癖、爪や筆記具などを噛む癖、高い枕や固い枕の使用、うつぶせ寝、手枕や腕枕などの習慣が、顎に負担をかけます。
コンタクトスポーツや球技、ウインタースポーツやスキューバダイビングなどの運動も原因になります。
仕事での緊張
緊張が持続し、強いストレスを感じる仕事、パソコン作業、精密製品や重い物を扱う作業、人間関係のストレスなどは、食いしばりの原因となり、顎に痛みをおこします。
顎関節症は頭痛や肩コリなどの合併症も伴うことも
顎関節症が長引くと、さまざまな症状を伴うことがあります。
頭痛、首や肩・背中の痛みとこり、腰痛、耳の痛みや耳鳴り、難聴やめまい、眼の疲れや不眠、舌の痛みや味覚の異常。
さらに、自律神経失調症やうつ病、嚥下困難や呼吸困難、四肢のしびれなどがみられる場合もあります。
これらの症状と顎関節症との因果関係が不明なケースでも、顎関節症の治癒とともに、症状が軽減すれば合併症と考えてもよいでしょう。
顎関節症の診断と分類は?
顎関節症の三大症状(顎関節痛・開口障害・雑音)のうち、どれか1つ以上あり、他の疾患が認められないときに、顎関節症と診断します。
通常は、症状の出かたや経過を伺って、顎関節や噛む筋肉、口の中などを診察します。
さらに必要に応じて、X線検査やCT検査で、骨の異常などを診ます。
また、骨以外の関節構造や筋肉は、MRI検査により調べ、類似疾患と鑑別する場合があるでしょう。
顎関節症に世界的な診断基準はありませんが、日本では以下に分類されます。
日本顎関節学会の分類
- 噛む筋肉の障害
- 関節包(関節液を入れ、関節を包む袋)や靭帯の障害
- 関節円板の障害
- 変形性関節症
日本歯科医師会の分類
- 関節円板が前方にずれて、関節の音がする
- より大きくずれて、口が大きく開けられない 食品を噛むとき痛い
※来院患者の約6割が、上記2つの症状です
- 開口時に、筋肉の働きが悪く、ほほや耳の前の筋肉が痛んだり、関節の捻挫のような状態
- 関節の骨が変形している(顎関節症を長年患った人や、高齢者に多い)
いきなり歯を削る治療を受けるのは、避けましょう
日本顎関節学会は、初期治療として、歯を削る噛み合わせの調整(咬合調整)を受けないように、すすめています。
噛み合わせを良くするためとして、歯を削ってしまうと、顎関節症の症状が改善しなかった場合に、元の状態に戻せないからです。
現在、顎関節治療の主流は、スプリント(マウスピース)と開口訓練、習慣や癖を改善する行動療法、消炎鎮痛剤や理学療法などです。
スプリントは、歯科用プラスチック(レジン)などの装具を歯列にかぶせる、保存的な治療法です。
前歯だけ、上顎か下顎、両顎と、症状に合わせて選択し、噛みしめ時の負担を減らして、顎の位置を安定させる効果が期待できます。
スプリント作成費用の目安は、保険適用の3割負担で、5,000円前後でしょう。(初診料や検査費用は別途必要です)
また、装着から2週間後には、必ず専門医の診察を受けることが必要とされています。
開口訓練は、患者さん自身の指で口を開けるストレッチを、医師の指導のもとに行うものです。
噛む筋肉の痛みが強くなく、関節円板のズレで口が開けづらい患者さんに有効でしょう。
上下の歯を接触させる癖が、主たる原因の一つといわれており、この癖を直すことで症状が改善することが明らかになりました。
室内の目に付くところに「歯を離す」などと書いたメモを複数貼っておき、気が付いたら実行する方法が奨められています。
痛みが強い時には、消炎鎮痛剤が処方されるでしょう。
また、近赤外線レーザーや皮膚への電気刺激などの理学療法も、症状を改善させることがあります。
これらの保存療法で症状が軽快しないケースでは、局所麻酔下でズレた関節円板を整復したり、注射による治療や円板を切り離す内視鏡手術が検討されます。
自宅でも、医師の指導のもとに行う、アイシングやマッサージなどが有効な場合があります。
そして、何よりも大切なのは原因となっている生活習慣の改善でしょう。
食いしばりの他、原因の項目であげた日常生活での癖を直すように心掛けてみてください。
首や顎のストレッチも、症状軽減の助けになります
首のストレッチ
- 耳を肩に近づけるように、頭を横にたおして、30秒間保持し、元に戻します。
- 次に、鼻を脇に近づけるように、頭を斜め前にたおして、30秒間保持します。
- たおす側の手を頭に触れ、ゆっくりと気持ちよい程度に、首の筋肉を伸ばしましょう。
反対側の手は、下へ伸ばし、肩が上がらないように気を付けてください。
30秒ずつ3回がおすすめですが、痛みを感じたら中止してください。
顎のストレッチ
- 普段の力で、奥歯を噛み合わせます。
- そのまま、下顎をゆっくりと前に突き出し、15秒間保持します。
- 次に、下顎を左に動かして15秒、右に動かして15秒保持して、元に戻します。
無理をせず、気持ちよい程度の力で行ってください。
日常生活の見直しで、完治を目指しましょう
パソコンやスマホの普及で、若年者の患者さんが増えている顎関節症をみてきました。
口を開け閉めしたときの雑音だけなら、多くの場合治療は不要ですが、口の開閉時に痛みがあり、大きく開けられなくなったら、顎関節の専門医を受診しましょう。(専門医・指導医一覧 http://kokuhoken.net/jstmj/certification/list.shtml)
また、生活習慣や食いしばりの改善が、治療の助けとなり、予防につながります。
ぜひ、日常生活の癖などを見直して、顎の痛みをしっかりと治しましょう。
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