日本人の多数が信仰する大乗仏教とは?成立や思想はどのようなものか?







歴史を学ぶ過程で宗教は必ず付きまといます。

中国発祥の道教儒教、インドで生まれた仏教、戦国時代に宣教師によって布教されたキリスト教など、日本史だけでも複数の宗教が取り上げられています。

 

現在日本人の大半は仏教を信仰していますので、その歴史も古く、日本史には仏教が絡むキーワードや事件が頻繁に出てきます。

今回はそんな仏教に関するキーワードのひとつである「大乗仏教」について、その成立や思想についてご説明しましょう。

 

大乗仏教が成立した場所と時代

紀元前200年ごろにはマウリヤ王朝が崩壊し、インドの西北部には異民族が侵攻してくるようになりました。

紀元前1世紀後半には北方遊牧民族がクシャーナ王朝を興します。

一方、同時期にインドの南部にはアーンドラ王朝が成立します。

大乗仏教はクシャーナ王朝・アーンドラ王朝の両国で成立することになります。

 

大乗仏教が成立する以前の仏教信仰

 

大乗仏教が成立する以前はその対義語として使われる小乗仏教(部派仏教・上座部仏教とも)が信仰されていました。

小乗仏教は「出家して厳しい修行を積んだ者のみが悟りの彼岸に渡ることができ、衆生(一般人)は渡れない」という思想です。

それに対し大乗仏教は「釈迦はより多くの人々を救済したかったはずである。修行者は衆生(一般人)にも釈迦の教えを広めて、みんなで悟りの彼岸へ渡ろう」という思想です。

このように釈迦の教えのことを舟に、苦からの解脱(悟り)を彼岸に例えて多くの人が乗れる大きな舟という意味で大乗仏教、限られた者しか乗れない小さな舟という意味で小乗仏教と言われています。

 

大乗仏教は仏教の宗教改革によって成立した

自分の悟りを求めることを自利(じり)といいます。

対して、他人を救済することを利他(りた)といいます。

 

小乗仏教には利他の精神が欠如していました。

そして大乗仏教を成立させた改革信者たちはこの点に最大の疑問を抱きました。

 

改革信者たちはその疑問を解決するため釈迦の真意を見つめ直しました。

釈迦は個人の能力に応じて言葉を選び、教えを説きました。

それは自分と同じ悟りを人々に悟らせようとしたからです。

そして改革信者のたどり着いた答えは、釈迦の真意は決して難しい教理を分析したり、自分だけが悟りを開ければよい、などといった利己的な考えではないはずだということでした。

これが大乗仏教の思想のはじまりとなります。

 

大乗仏教を広める運動

大乗仏教を成立させた改革信者たちは上記の考えのもと、従来の小乗仏教を攻撃するに至りました。

「従来の小乗仏教は例えるならば一人の小舟を用意し、自分だけが悟りの彼岸に渡れればよいという利己的なもの。それは小乗仏教と呼ぶのが似つかわしい矮小な考えである。」と。

 

さらに自分たちがたどり着いた思想を掲げ

「釈迦の教えは衆生(一般人)を根こそぎ乗せることのできる大船を用意し、ともに悟りの彼岸に渡ろうという慈悲に満ちたものである。自分たちが引き継ぐ仏教もそのような釈迦の真意を実現するための大乗仏教と呼べるものでなければならない」

と主張したのです。

 

かくして大乗仏教を広める運動はインド中に広まっていきました。

それがやがてインドばかりか中国を席巻(せっけん)し、朝鮮半島を経て日本で大輪の花を咲かせることとなります。

 

大乗仏教の代表思想 空

大乗仏教の基礎を築いたのは「空(くう)」の思想です。

 

「空」は大乗仏教で最初に説かれる思想であり、大乗仏教と言えば「空」といえるほどの代表的な思想です。

大乗仏教の立役者であり、仏教中観派の祖といわれるナーガールジュナ(龍樹:りゅうじゅ)が主張しました。

 

空は梵語(サンスクリット語)でシャーニャと言い、固定的な実体のないことを意味しています。

固定的な実体のないことを表す言葉として仏教には「諸法無我(しょうほうむが)」というものがあり、同義語として扱われますが「空」のほうがより徹底して「ない」という意味を強調しています。

 

ナーガールジュナが「空」を主張した理由は釈迦が入滅した後に小乗仏教の最大勢力だった説一切有部(せついっさいうぶ)という仏教の宗派が「真理は実在する」という考えを強調し、それが発展して実有論(じつうろん)をとり、ある種の固定概念に執着するようになってしまったためです。

このような宗派を小乗仏教だとみなしたナーガールジュナは、大乗仏教の立場からこれに徹底的に対立し、一切の固定的な実体を否定して空を力説しました。

「すべてのものは関係性、つまり縁起によって相互依存的に成立する。だからどこにも固定的な実体はなく、空なのだ」と。

 

空の思想によって知恵の完成を説く経典群の総称を「般若経(はんにゃきょう)」と呼びます。

日本の多くの寺院で読まれている「般若心経(はんにゃしんぎょう)」はその中のひとつにすぎません。

 

般若心経のすごいところは膨大な般若経の教えをわずか二百六十字余りで言い表していることです。

その経典の中には有名な「色即是空(しきそくぜーくう)、空即是色(くうそくぜーしき)」という言葉がありますが、これは「色(しき)、すなわちすべての形あるものは縁によって仮に成立しているものであるから真理は空であり、空である存在は見方を変えればすべて形あるもの、つまり色であるとも言える」と説いています。

 

大乗仏教の空がゼロの発見につながる

 

空は実は数字でいうところのゼロを表しています。

「○○を欠いている」という意味です。

 

言い方を変えれば「ないのに、存在する」ということで、なにもないわけではないのです。ゼロは1~9までの数字とは異なり、自然数としては存在しません。

しかし、10が1と0から成立して1~9を超えるように、ゼロはほかのすべての数字を包含して無限に表現できる数です。

 

ゼロの発見によって当時はなかった十進法という数え方の概念が成立し、またマイナスの概念も生まれました。

インドで発見されたこのゼロの概念はアラビアを通じてヨーロッパに伝えられ、近代科学を生み出して現代の情報テクノロジーの発展に大きく貢献しています。

なぜならコンピューターはすべての情報を1(ON)と0(OFF)の2通りだけで判断、かつ表現しているからです。

 

まとめ

 

大乗仏教の成立や思想について説明しました。

日本に伝来した仏教は本記事で紹介した大乗仏教のことを指しています。

大乗仏教は紀元前1世紀後半にクシャーナ・アーンドラの両国で成立しました。

大乗仏教は「釈迦は仏教の修行者だけが救済されるのではなく、修行者がより多くの人々を救済するべきだ」という考えから成立しました。

また、大乗仏教の代表思想である「空」からゼロの発見につながり、それが現在世界中のすべての社会を動かしているといっても過言ではない、情報テクノロジーへの発展に大きく貢献しています。










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