顔が突然痛むけどすぐに治まる、顔がピリピリ痛んで赤いブツブツができる、鼻や歯が痛い、あごや頭が痛む……。
顔の痛みは、症状も原因もさまざま、なかにはいろいろな検査を受けても異常なしの顔面痛もあるでしょう。
日本人の3人に1人は、慢性的な顔や歯などの痛み(口腔顔面痛)に悩まされると言われています。
顔には感覚器が集まり、痛みにも敏感なので、悪化させると仕事や日常生活にも支障がでてしまいますね。
そこで今回は、顔に痛みをおこす疾患の症状とりあげ、その治療法もご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
慢性的な顔や歯などの痛みは、「口腔顔面痛」
口腔顔面痛とは、口の中の痛みと顔の痛みの総称で、50~60歳代の女性に多くみられる疾患です。
口腔顔面痛の顔面は、目と耳より下、首より上、耳の前の範囲をさしますが、緊張性頭痛や顎関節症も含むとされています。
歯や歯肉、顔や顎関節、首や肩などに症状があらわれ、持続性の鈍痛や断続的な激痛がみられます。
口腔や顔の痛みの診断が難しいため、治療しても改善しにくい症例が少なくありません。
歯に原因がない歯の痛みが最も多く、噛む筋肉や神経の障害、片頭痛や心因性などが原因と考えられています。
また、あごの関節や目・耳・鼻・咽頭の病気、神経や血管の異常、脳腫瘍や脳動脈瘤なども口腔顔面痛をひき起こします。
口腔顔面痛の治療は、原因が多岐にわたるため、複数の診療科の協力が必要になります。
できれば専門医、専門病院での治療をおすすめします。
- 日本口腔顔面痛学会 指導医・専門医・認定医名簿 http://jorofacialpain.sakura.ne.jp/?page_id=297
- 日本口腔外科学会 あなたの街の専門医 https://www.jsoms.or.jp/public/machi/
- 日本ペインクリニック学会 専門医一覧 https://www.jspc.gr.jp/shisetsu/senmonimap.html
ぶつけた覚えがないのに、顔が突然痛む
思い当たる原因がないのに突然顔が痛むときは、三叉神経痛(さんさしんけいつう)や舌咽神経痛(ぜついんしんけいつう)などが考えられます。
ほほやあごに電気が走る「三叉神経痛(さんさしんけいつう)」
顔が痛む通称「顔面神経痛」は、「三叉神経痛(さんさしんけいつう)」という疾患のことです。
三叉神経は、三又に枝分かれして、おでこ、ほほ、下あごの感覚を脳に伝達します。
この三叉神経に障害がおきると、主に片側の顔面に電気が走るような激痛が生じますが、麻痺や言語障害はありません。
この「三叉神経痛」は60歳~70歳代に多くみられ、ほほからあごが突然痛んで、数秒~数十秒でおさまることが多いでしょう。
また、化粧などで顔面(特に小鼻の横など)に触れたり、歯磨きや会話、食事のときにピリッと痛み、安静時はあまり痛みません。
三叉神経痛には、
- 神経が血管や腫瘍に圧迫される…「特発性:典型的:真性」
- 三叉神経以外に原因がある…「症候性」
- 水痘帯状疱疹ウイルスと関連して生じる…「帯状疱疹後神経痛」
などがあります。
三叉神経痛の患者数は、40歳以降加齢とともに増加して再発を繰り返しやすく、男女比は1:2から2:3とされています。
三叉神経痛の診断と治療
診断には、X線検査や頭部MRI検査、CT検査や血液検査などが行われるでしょう。
治療は、抗てんかん薬(カルバマゼピン)や、神経障害性疼痛の薬(リリカ)などが処方されます。
また、神経ブロック注射や放射線によるガンマナイフ治療、手術などが検討される場合もあるでしょう。
痛む神経の周囲に麻酔薬を注射する神経ブロックは、痛みを軽減し、興奮した神経を鎮める効果が期待できます。
神経ブロック療法は、内服薬や理学療法で効果がない人や、手術後も痛みが残る人にすすめられます。
加齢により動脈硬化を起こした血管が三叉神経を圧迫している症例では、血管を移動する手術が有効です。
手術顕微鏡による手術では、全身麻酔下で後頭骨に小さな穴を開けて、神経の圧迫を取り除きます。
通常は、手術時間は約3時間、入院期間は1週間ほどになるでしょう。
手術は、薬物治療で効果がない、副作用が強い、三叉神経痛の根治を希望するなどの患者さんが対象になります。
まずは、かかりつけの内科や神経内科を受診し、必要に応じて脳神経外科やペインクリニックなどを紹介してもらいましょう。
神経の疾患は長期間患うと、元に戻りにくくなるので、なるべく早く受診されることをおすすめします。
物を飲み込むときに痛む「舌咽神経痛(ぜついんしんけいつう)」
舌咽神経痛(ぜついんしんけいつう)は、咀嚼や飲み込み時に、耳の周りや下あご、のどの奥などが発作的に痛みます。
お喋りやくしゃみ、あくびなども引き金となり、強い痛みのため食事が困難になる場合もあります。
舌咽神経が血管や腫瘍に圧迫されて発症する、40歳以降の男性に多い疾患です。
舌咽神経痛の診断と治療
MRI検査で診断し、抗てんかん薬で治療しますが、眠気やめまい、ふらつきなどの副作用がでることがあるので、異常を感じたら担当医に相談しましょう。
薬物療法で痛みをコントロールできず、日常生活で支障がある場合は、神経の圧迫を取り除く手術が検討されます。
顔がピリピリ痛み、水ぶくれができる「帯状疱疹(たいじょうほうしん)」
帯状疱疹(たいじょうほうしん)は、以前かかった「水ぼうそう」のウイルスによって引き起こされる疾患です。
多くの人は、水ぼうそうが治癒した後も、「水痘・帯状疱疹ウイルス」が神経に潜伏し続けます。
過労やストレスなどで、体力や免疫力が低下したときに、そのウイルスが活性化して、神経を伝わり皮膚に症状をおこすのです。
顔の帯状疱疹では、三叉神経の第1枝(おでこ)にできやすいです。
片側の神経に沿って、ピリピリした痛みやかゆみ、知覚の異常が生じ、その後赤いボツボツが帯状にあらわれ、やがて水ぶくれから、かさぶたになるでしょう。
帯状疱疹の治療
帯状疱疹の治療は、皮膚科で「抗ウイルス薬」の内服薬が処方され、重症の人は入院して点滴静注が行われます。
抗ヘルペスウイルス薬は、発疹がでてから3日以内の投与が有効とされているので、早めの受診が大切です。
痛みが強い場合は鎮痛剤、細菌感染を伴うときは抗生物質が処方されます。
抵抗力が落ちているときに発症しやすいので、なるべく安静を心掛け、身体は冷やさないようにしましょう。
ほとんどの大人にうつることはありませんが、水ぼうそうを患っていない小児や免疫力の低下している人には感染の可能性があるので、接触しないようにしてください。
頭痛や吐き気、発熱やリンパの腫れなどを伴う場合もありますが、通常2~4週間ほどでかさぶたがとれて、治癒します。
顔の帯状疱疹では、目や耳の疾患、顔面神経麻痺などの合併症をおこすことがあるので、注意が必要です。
帯状疱疹後神経痛
また、皮膚の症状が治まってからも、痛みが3ヵ月以上続く「帯状疱疹後神経痛」に悩まされる場合があります。
60歳以上の高齢者に多く、発生率は約3%といわれています。(日本皮膚科学会HPより)
初期に重症だった患者さんが患いやすいので、早期の抗ウイルス薬投与や神経ブロックによる痛みのコントロールが、帯状疱疹後神経痛の予防になるとされています。
治療は抗うつ薬や抗けいれん薬、神経障害性疼痛の薬(リリカ)や鎮痛薬(トラムセット配合錠)、漢方薬などの薬物療法、神経ブロック療法や低出力レーザー治療などが施されるでしょう。
ほほ以外の部位も同時に痛む
ほほの痛みに伴い鼻や歯が痛む場合は、副鼻腔炎(ふくびくうえん)や歯性上顎洞炎(しせいじょうがくどうえん)などが考えられます。
ほほや鼻の奥が痛い「副鼻腔炎(ふくびくうえん)」
副鼻腔炎は、ほほの裏側や両眼の間、おでこの裏側や鼻の奥にある、副鼻腔という骨の空洞に炎症がおきる疾患です。
細菌やウイルスの感染により、粘膜の炎症が長引き、粘膜が腫れあがって膿がたまった状態が、慢性副鼻腔炎(蓄膿症)です。
アレルギー(ハウスダストや花粉など)や喘息なども、副鼻腔炎を慢性化させる原因となるでしょう。
副鼻腔炎の症状は、ほほや両眼の間、おでこの痛みと頭重感、膿や粘調の鼻水と鼻づまりなどです。
さらに、口呼吸になりいびきをかいたり、嗅覚障害や後鼻漏(鼻水がのどに流れる)、ポリープ(鼻茸:はなたけ)などの症状があらわれることも。
風邪が治ってからも、鼻水や鼻づまりがしつこく続くときは、耳鼻咽喉科を受診するとよいでしょう。
副鼻腔炎の診断と治療
副鼻腔炎の検査は、電子ファイバースコープなどによる鼻腔内の観察と、X線やCTによる画像検査が行われ、診断されます。
治療は、抗生物質や消炎鎮痛剤、鼻水の排出を促進する内服薬や点鼻薬、膿の吸引や薬を含む蒸気を吸うネブライザー療法が有効です。
薬物療法で効果が見られず、ポリープ(鼻茸)がある場合は、手術がすすめられるでしょう。
「内視鏡下鼻内副鼻腔手術」では、局所麻酔で時間は約30分、日帰り手術が可能な病院もあります。
手術費用の一例として、鼻の片側の手術は、健康保険3割負担で約1万円です。(症状・術式で上下します)
ほほと歯や歯茎が痛い「歯性上顎洞炎(しせいじょうがくどうえん)」
歯性上顎洞炎は、目の下にある上顎洞と呼ばれる副鼻腔が、炎症をおこす疾患です。
上の奥歯の根と上顎洞が近いため、放置された虫歯や歯周病の菌が上顎洞に感染し、膿がたまります。
近年は、インプラント治療が原因の上顎洞炎も増加しているので、治療時は慎重に歯科医師と検討してください。
急性の症状は、ほほと歯や歯茎の激痛、鼻づまりや膿の鼻汁、ほほが赤く腫れるなどです。
自然には治らないので、症状がみられたら歯科や口腔外科、耳鼻咽喉科を受診してください。
歯性上顎洞炎の治療
治療は、上顎洞の洗浄と抗生物質の投与、歯の根の治療や抜歯です。
症状が改善しない場合は、内視鏡下での手術が検討されることもあるでしょう。
こめかみと、あごや頭が痛い
こめかみの痛みと共に、あごや頭が痛い場合は、顎関節症や頭痛が考えられます。
こめかみやあごが、口の開閉で痛い「顎関節症(がくかんせつしょう)」
顎関節症になると、あごが痛くて口が開きづらく、あごを動かすと音がします。
咀嚼や口の開閉で、耳の前やほほ、こめかみなどに痛みが生じます。
歯の噛み合わせや食いしばり、生活習慣やストレスなどが原因と考えられています。
治療は、スプリント(マウスピース)と開口訓練や行動療法、消炎鎮痛剤や理学療法などです。
※あごの痛みの詳細は、こちらの記事を参考にしてください。
こめかみが締めつけられたり、ズキズキ痛む「頭痛」
頭痛には、こめかみから頭全体が絞めつけられるように痛む「緊張性頭痛」、こめかみや目、頭がズキンズキン痛む「片頭痛」「群発頭痛」などがあります。
薬物療法や神経ブロックで治療しますが、病気がかくれている場合もあるので、普段と違う頭痛を感じたら「頭痛外来」などの専門医を受診してください。。
※頭痛の詳細は、こちらの記事を参考にしてください。
検査を受けても異常なしの「非定型顔面痛」
原因のはっきりしない顔と歯の痛みを「非定型顔面痛」と呼びます。
上の奥歯周辺に、うずく痛み、締め付ける痛みが生じます。
三叉神経痛に似た部位が痛みますが、発作的というより持続性の痛みという傾向がみられます。
涙が流れる、顔がほてる、鼻がつまるなどの症状を伴うこともあるでしょう。
非定型顔面痛の症状は、痛み感覚の調節が上手くできない状態といわれ、自律神経と血管の関与や、心因性などが原因と考えられています。
脳神経外科、神経内科、耳鼻咽喉科、眼科、歯科、口腔外科などで検査を受けても異常はみられません。
非定型顔面痛の治療に鎮痛剤は無効で、抗うつ薬や抗てんかん薬、星状神経節ブロック療法などが有効です。
また、神経ブロックに近い効果が得られるレーザー治療、心理療法や認知行動療法などを行う病院もあるので、担当医とよく相談してください。
トリガーポイント治療で顔の痛みを和らげる
顔の痛みをおこす筋肉のしこりを治療することで、症状を緩和できる場合があります。
担当医にご相談のうえ、トリガーポイント治療を試してみてください。
筋肉を探り、押したときに顔の痛みにひびく、お菓子のグミのような筋肉のしこりが治療点です。
- 外側翼突筋…顎関節(耳の前で、口の開閉で動く骨)のやや前で、ほほ骨のすぐ下
- 咬筋…下顎周囲で、奥歯を食いしばるとき緊張する筋肉
- 胸鎖乳突筋…耳の後にある骨の突起から、胸骨(胸前面の骨)と鎖骨にのびる、縦長の筋肉の上・中・下のポイント
- 僧帽筋…首から肩にあり、肩をすくめたときに緊張する筋肉で、首の付け根と肩先の中間点
- 眼輪筋…目の周りに輪状にあり、まぶたを閉じるときに働く筋肉で、上まぶたの骨のきわ
トリガーポイントを見つけたら、痛気持ちよい程度の強さで30秒間押してみましょう。
押している間に、顔面痛へのひびきが軽くなれば、効果が期待できます。
治療中に痛みが強くなるときは、中止してください。
顔の痛みは、放置しない事が重要
顔に痛みをおこす、代表的な疾患の症状と治療を見てきましたが、いかがでしたか。
顔は、痛みにとても敏感な部位なので、患うと大変つらいものです。
正確な診断のもと、早期に的確な治療を開始すれば、痛みのコントロールと治療期間の短縮が期待できます。
原因となる疾患は、自然には治りにくいものが多いので、顔の痛みは我慢せず、早めに専門医を受診してください。
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