子供や女性の声が聞こえにくい、テレビの音をつい大きくしてしまう……。
それは、65歳以降の3人に1人が患う「難聴」かもしれません。
難聴になると、聞こえない不自由さに加え、相手の話を聞き取れずに曖昧な返事をして誤解されてしまうなど、社会生活にも支障がでてきます。
多くの人が悩まされる難聴の原因は、加齢や病気、先天性など実にさまざまです。
近年は、大音量の音楽をイヤホンなどで聴く、若年者の難聴も増加しています。また、子供がおたふく風邪から難聴になることもあります。
今回は、NHK朝ドラ「半分、青い。」のヒロインの左耳が聞こえない設定で注目された「難聴」にスポットをあて、症状と原因や治療法などをお届けします。
そもそも音が聞こえるしくみは?
まずは、音が聞こえる仕組みから見ていきましょう。
外耳(耳介から鼓膜)
頭がい骨の外につく耳(耳介:じかい)で、音(空気の振動)を集めて、鼓膜に伝えます。
中耳(鼓膜から耳小骨)
鼓膜に伝わった空気の振動を、耳小骨(じしょうこつ)で増幅して内耳に伝えます。
内耳(蝸牛、有毛細胞から蝸牛神経)
蝸牛(かぎゅう)内のリンパ液が振動し、有毛細胞が刺激を受けて、振動を電気信号に変換します。
蝸牛で変換された電気信号は、蝸牛神経から大脳まで伝わり、側頭葉で音を認識します。
ちなみに蝸牛神経は、平衡覚を伝える前庭神経と合わさり、内耳神経(聴神経)と呼ばれています。
難聴は高音から始まる
難聴の初期症状は、子供や女性の高い声などの聞きづらさが一般的です。
体温計の電子音のような、高くて小さい音も聞こえにくくなるでしょう。
さらに、会話がぼそぼそ聞こえたり、騒音の中での会話が聞き取りづらくなってきます。
音を周波数ごとに聞き取ることが難しくなるためと考えられます。(軽度難聴)
会合や会議などが苦手になり、聞き返すことも多くなるでしょう。
音を素早く脳に伝えられないと、早口の話が理解しづらくなってしまうのです。
「さ行」「は行」「か行」の聞き間違え、鳥の声や雨音が聞こえにくいのも、難聴の兆候といえます。(中等度難聴)
難聴が進行すると、大声すら聞き取りにくい「高度難聴」や、ほぼ聞き取れない「重度難聴」に至るケースもあります。
難聴の患者さんの約1割が、高度・重度難聴と言われています。
補聴器を使用しても会話が聞き取れないことがあるので、日常生活に大きな支障が生じ、本人も周囲の人も大変苦労します。
多くの難聴はゆっくりと進行するので、本人が感じる前に、周囲の人が聴力の変化に気付くことも珍しくありません。
ネットなどで聴覚をチェックして、聞こえの異常などがあれば、耳鼻科で診てもらいましょう。
- ワイデックス:オンライン聞こえのチェック https://japan.widex.com/ja-jp/online-hearing-test
- シーメンズ:シミュレーションツール・テスト https://www.bestsound-technology.jp/app-and-tool/tool/
- ベルトーン聴力テスト https://www.beltonehearingtest.com/jp/
難聴になるとどうなるか?
難聴になると音が聞こえづらくなることでいろいろな問題がでてくることがあるでしょう。
まず難聴になることによって、日常生活に必要な音が聞こえない不自由さに加えて周囲の人とのコミュニケーションに支障がでてきます。
そしてまわりの音が聞きづらくなることによって身の危険を察知しづらくなります。
また、認知症などを発症するリスクも高まると言われており、自分に自信がもてず、孤立してうつ状態になってしまうケースもあります。
難聴は主に3タイプ
難聴には主に3つのタイプがあります。
伝音(でんおん)難聴
外耳と中耳に原因のある難聴です。
治療により、聴力が回復する可能性は高いでしょう。
感音(かんおん)難聴
内耳に原因がある「内耳性難聴」と、蝸牛神経や脳に原因がある「後迷路(こうめいろ)性難聴」があります。
治療による聴力の回復は、困難な場合が多いでしょう。
混合性難聴
伝音難聴と感音難聴が合併しており、治療は難しいため、補聴器のトレーニングで対応します。
難聴の原因と治療法は?
先ほどご紹介した難聴のタイプ別に、原因と治療などを紹介します。
伝音難聴の原因と治療
伝音難聴の一時的な原因は、外耳道炎や急性中耳炎、アレルギーや耳あかによる耳の詰まりなどで、薬物療法や処置で症状は改善します。
滲出性中耳炎や鼓膜穿孔(慢性中耳炎)、耳硬化症などが原因の場合は手術が検討されるでしょう。
外耳や中耳の奇形、腫瘍や頭部外傷なども原因となります。
治療が難しい症例でも、補聴器で内耳まで音が届けば、聞こえる可能性は高いでしょう。
感音難聴の原因と治療
内耳性難聴では、蝸牛に障害があると音がひずんだり、聞こえなくなります。
後迷路性難聴は、音は聞こえても、言葉が聞き取れません。
これらは加齢による難聴が多く、おたふく風邪や髄膜炎、妊娠中の母体の風疹感染やメニエール病、聴神経腫瘍や頭部外傷なども原因となります。
急性の突発性難聴などは、早期に薬物治療を行えば治ることもありますが、多くは治療が難しいので補聴器で対処します。
重度難聴の場合は、人工内耳手術が検討されるでしょう。
混合性難聴の原因と治療
混合性難聴は伝音難聴や感音難聴と同様、加齢や遺伝、大きな音のする職場、大音量の音楽、腫瘍などの疾患や薬の副作用などが原因です。
症状に応じて薬物療法や手術、補聴器などで対応します。
耳の症状からみる、難聴の原因疾患は?
難聴にともなう症状により、さまざまな疾患が疑われます。
耳が痛い場合
- 急性中耳炎
- 鼓膜炎
- 外耳炎
- 帯状疱疹ウイルスの感染
- 外傷
- 外耳道異物
- 聴神経腫瘍 など
耳から液体が出る場合
- 外耳炎
- 中耳炎
- 外傷
- 悪性腫瘍
- 真珠腫性中耳炎 など
耳鳴りをともなう場合
- メニエール病
- 内耳炎
- 突発性難聴
- 音響外傷
- 聴神経腫瘍
- 外リンパ瘻(ろう)
- 帯状疱疹ウイルスの感染
- 耳硬化(じこうか)症 など
耳がつまった感じ
- 外耳炎
- 耳管狭窄症
- 滲出性中耳炎
- メニエール病
- 突発性難聴
- 外リンパ瘻(ろう) など
難聴の検査方法は?
純音聴力検査
純音聴力検査ではヘッドホンからの音を聞く「気導聴力」と、耳の後ろの骨からの振動聞く「骨導聴力」を測定します。
周波数別に、聞き取れる最小の音を調べる検査です。
測定結果をグラフ化(オージオグラム)して、聞こえる音の強弱と高低をチェックし、伝音難聴と感音難聴の鑑別に利用します。
語音聴力検査
語音聴力検査は、はっきりと正確に言葉を聞き取れるかを調べる検査です。
ヘッドホンから流れる単音が聞きづらい場合は、内耳機能が低下した加齢性難聴などが疑われるでしょう。
難聴の原因や人工内耳の適応、補聴器の適合などを調べるのに有用です。
上記の検査に加え、必要に応じて有毛細胞の反応を調べる「耳音響放射検査」、蝸牛神経や脳幹の機能を調べる「聴性脳幹反応」などが行われます。
また、最近は難聴の原因遺伝子を特定する「難聴遺伝子検査」を、保険適用で受けられるようになりました。
検査の対象に条件(先天性・家族性・若年性など)はありますが、検査により早い段階での適切な治療が期待できるでしょう。
40歳から始まる「加齢性難聴」
75歳以降は、約5割の人が難聴になります。
年齢とともに、聞こえづらくなる加齢性難聴
「加齢性難聴」とは、加齢以外には原因のない難聴のことです。
一般的には、40歳代から高音域の難聴が始まってきます。
60歳代では、多くの人が聞こえの悪さを自覚できる「軽度難聴」になるでしょう。
70歳代以降の難聴は、ほとんどの音域で「中等度難聴」まで進んでしまいます。
加齢性難聴の主な原因は、有毛細胞の障害
耳小骨で増幅された空気の振動は、かたつむりの殻に似た蝸牛内のリンパ液に伝わります。
その振動を、蝸牛内の約15,000個の有毛細胞が感知して、電気信号に変えます。
加齢性難聴は、音の強弱にも関与する有毛細胞が減少することでおこります。
蝸牛の内側に並ぶ有毛細胞は、それぞれ担当する周波数が異なります。
蝸牛の入口近くの高音域を担当する有毛細胞は、全ての音にさらされるため障害を受けやすいので、高い周波数から聞こえにくくなるのです。
さらに、音の情報が伝わる蝸牛神経から、脳幹─間脳─大脳(側頭葉で音を認識)の経路のいずれかに、トラブルがおきても難聴が発生します。
加齢性難聴は、根本治療の方法がないので、症状があらわれたら早めに補聴器を使用し、聴力の低下を防ぐことが重要になってきます。
加齢性難聴の予防
加齢性難聴の予防には、「耳に負担をかけない生活」が重要です。
テレビや音楽を大きな音で聴かないように、またヘッドホンの使用は控えましょう。
規則正しい生活と食事や運動を心がけ、騒音のする所にはなるべく行かないようしてください。
大きな音がする職場では、耳栓の使用をおすすめします。
時には、自然の中など静かな環境で、聴力をいたわることも大切でしょう。
「突発性難聴」は、1週間以内の治療が有効
突発性難聴は、起床時や睡眠中、作業中などに突然聞こえにくくなります。
難聴の程度は、耳が詰まった感じだけの軽い症状から、全く聞こえない重度の難聴までさまざまです。
難聴発症の前や後に、耳鳴りやめまい、吐き気や嘔吐などが生じることがありますが、めまいの発作は繰り返しません。
両耳同時よりは、片耳だけを患う人が多いでしょう。
突発性難聴の原因は、内耳の循環障害やウィルス性ではないかと言われています。
内耳の血流が悪くなる原因は、血管の詰まりやけいれん、出血などでしょう。
また、ウィルス性では風邪の原因ウィルスなどが候補にあがっていますが、未だ不明です。
過労やストレス、不規則な生活なども要因となるようですので、注意しましょう。
突発性難聴は、症状と純音聴力検査で診断します。
症状が似ている聴神経腫瘍などを除外するために、脳波の検査やMRI検査を行うことがあります。
突発性難聴の治療は発症後、1週間以内の治療開始が有効と言われています。
薬物療法は、ステロイドや血管拡張薬、ビタミン剤などの内服や点滴が処方されます。
治療を始めて早期に症状が改善する場合は、聴力が回復しやすいでしょう。
※治療の結果、完全に治癒するのは約3割で、改善が約5割、さまざまな治療をしても残りの約2割は改善しないそうです。(慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイトより)
若い女性は、「急性低音障害型感音難聴」に注意
若い女性に多い急性低音障害型感音難聴は、突然低音が聞こえにくくなったり耳が詰まった感じがする、原因不明の疾患です。
音の歪みや低温の耳鳴りなどが生じますが、めまいはしません。
早期に薬物治療を行なえば、症状は改善し聴力の回復も期待できますが、再発しやすい疾患でもあります。
過労やストレス、睡眠不足などが要因と考えられますので、日常生活の改善とストレス解消が、予防と対策のポイントでしょう。
めまいと耳鳴りがする難聴は、「メニエール病」かも
メニエール病は、通常片側の耳に難聴と耳鳴り、そして回転性のめまいが生じます。
めまいの発作を繰り返すと、高度難聴に至るケースもあるでしょう。
内耳のリンパ液の増加が原因と考えられているので、利尿剤や循環改善薬などで治療します。
さらに、めまい薬やステロイド薬が処方されることもあります。
メニエール病も再発しやすい疾患なので、要因となる過労やストレスに気をつけましょう。
子供の「ムンプス難聴」は、おたふく風邪から
5~9歳に多い「ムンプス難聴」は、おたふく風邪(流行性耳下腺炎)の原因である「ムンプスウイルス」が、内耳に感染しておこります。
おたふく風邪患者の約0.01~0.5%に難聴が発生するといわれ、片耳を患うことが多いです。
急性に発症し、耳鳴りやめまいを合併することもあります。
ムンプス難聴の治療は、中等度の難聴は補聴器、高度難聴は人工内耳が検討されます。
ムンプス難聴は、重度の難聴になりやすく、聴力が回復しにくい疾患です。
お子さんの耳を守るためにも、ワクチン接種により、おたふく風邪を予防することが大切ですね。
「ヘッドホン・イヤホン難聴」と呼ばれる音響外傷
「音響外傷」は、大きな音を聞くことで、内耳の有毛細胞が障害をうける難聴です。
コンサートやクラブの大音量でおこる難聴は、一過性の場合が多いでしょう。
最近はスマホや携帯音楽プレーヤーの普及で、ヘッドホンやイヤホンを長時間使用する人が増えています。
大きめの音を長時間聞き続けることで、少しずつ内耳が傷つき、聞こえづらくなってきます。
治療は薬物療法ですが、聴力が回復しないこともあるので、注意しましょう。
ヘッドホン・イヤホン難聴の予防は、音量を控えめにして、1時間以上連続使用しないことです。
新しい治療法「人工聴覚器」とは?
「人工中耳」や「骨導インプラント」は、中耳炎の手術後の難聴や、補聴器を使えない人が適応になります。
人工中耳は耳小骨を、骨伝導インプラントは側頭骨を振動させて、内耳に音を伝えます。
「人工内耳」や「EAS」は、薬物治療が無効な感音性難聴や、補聴器で高温が聞き取れない人が適応します。
人工内耳は、内耳に挿入した電極からの電気刺激で、音を聞きます。
EASは、「残存聴力活用型人工内耳」と呼ばれ、補聴器の機能も持った人工聴覚器です。
人工内耳は、症状が改善しない突発性難聴の治療にも有用と言えるでしょう。
「聞こえ」に異常を感じたら早めに難聴外来へいきましょう
難聴というと、「耳が遠い高齢者」のイメージですが、老若男女が悩まされる疾患なのですね。
早期に治療を開始すれば、お薬や手術で治る難聴もあります。
薬物治療などで聴力が回復しなくても、補聴器で対応することが可能な場合も多いです。
補聴器は症状に応じて、日々進化しているので、根気よく調整してもらい使いこなしましょう。
また、人工聴覚器という選択肢もあるので、「難聴は治らない」と諦めずに、専門医とよく相談して、前向きに治療に取り組んでください。
難聴はゆっくり進行すると気がつきにくいものですが、他の疾患と同様、早期発見・早期治療が重要です。
音が聞き取りづらい、聞こえていても鮮明に聞き分けにくいなどの症状がみられたら、「難聴外来」の受診をおすすめします。
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