山での転倒・転落事故は午後2〜3時に集中しています。
その要因は3つあります。
日帰り山行ではこの時間帯に疲れがピークに達するというのがひとつ。
二番目の理由は、下りだから体は楽だと安心しているため。
そして、最後が、下り道を歩く技術を習得していないためです。
昔から山登りは「登りは体力、下りは技術」といわれています。
初心者は往々にして、山頂に達してしまえばもうつらいことはない、あとは下るだけだから楽勝だと考えがちです。
しかし、それは大きな間違いです。
技術がないうえに疲れが溜まっていて、しかも転倒すれば大ケガを招きかねない下り道にこそ注意しなければならないのです。
下り道の転倒は超危険!
例外はありますが、転倒する場合、人間は移動方向に倒れます。
静止していればまず転ぶことはありません。
前進しようとすると体重は前に移動します。
そのとき、つまずくなどなんらかの原因で体のバランスを崩すと前に倒れます。
それが上りだったらどうでしょうか。
体の前の大地はすぐそこにありますから転倒しても被害は微細です。かすり傷程度で終わるでしょう。
しかし、下りはそういうわけにはいきません。
大地は靴よりも下の方にあります。転倒すると着地するまで距離があります。
それだけ勢いがつきますからダメージは大きくなるのです。
ということは、下りでは絶対に転倒してはいけないのです。
裂傷程度ですめばいい方でしょう。骨折やネンザに及ぶと命取りになる恐れもあります。
下りはそれほど怖いのです。
下り道の基本はゆっくり、歩幅を小さく
山で歩くときはゆっくりと、それも小さな歩幅というのが原則です。
それは下りでも同じことです。
ゆっくりというのは体重移動だと思ってください。
前に出した足が着地したところで後ろ足から前足に体重を移動させるのが山での歩き方です。
平地では早く体重移動させても問題はありません。
障害物が少なく、危険がないからです。
しかし、登山路は平坦ではなく、段差や石、根などの障害物がたくさんあります。
靴底全体を着地させたらまずその場所の安定を確かめます。
そのとき、体重はまだ後ろ足に残しておきます。
そして、安全を確認したところで体重を前足に移します。
このとき、決して急いではいけません。ゆっくりと、です。
歩幅を大きくすると後ろ足に体重を残すのが難しくなります。
急な下りや狭い段差など特に注意しなければならないところでは特に歩幅を小さくします。
歩幅を小さくするもうひとつの理由は、足腰にかかる負担を小さくするためです。
下りで大きく踏み出すとヒザにショックが伝わり、半月板や軟骨を傷める原因になりかねません。
靴はカカトを密着させてしっかり締める
上りではつま先を密着させますが、下りではカカトを登山靴の内部に密着させます。
そうするには、靴ヒモを締める前にカカトの部分で地面をトントンと2、3回軽く蹴ります。
そして、きつめに結びます。
そうすれば靴の中で足が前に移動せず、指先を守ることができます。
結び終わったらズボンの裾で結び目をカバーします。
そうしておけば木の枝などに靴ヒモを引っ掛けることを予防できます。その意味ではスパッツも有効です。
ソックスの役割も重要
ライトトレッキングと呼ばれる軟らかいタイプの靴ならそうでもありませんが、がっちりした登山靴の場合、薄手のソックスを着用していると足と靴との間に空間ができます。
いくら靴ヒモでしっかり締めてもこの空間を埋めることはできません。
そこで、厚手のソックスを用い、足と靴との間の空間を埋めておきます。
すると靴の中で足はソフトに、しかもしっかりと固定されます。
ソックスについては別項で詳しく説明していますから、ぜひそちらもごらんください。
トレッキングポールの信頼しすぎは危険
以前、次のような事故が発生しました。
大きな段差を下る際、ダブルストックを両方とも下の岩に下ろして体重をかけた途端、先端が滑って顔面から着地してしまったのです。
その人は眼鏡をかけていたためレンズが割れ、額を切って顔中が血だらけになりました。
幸い下山するのに支障はなく、帰宅後に病院で縫ってもらってほどなく全快しました。
このエピソードの教訓はいくつかあります。
ソフトに着地するためトレッキングポールを利用するのはいいのですが、全体重をかけてしまうのは危険です。
これが足なら体重を移動させるのは当然ですが、トレッキングポールは非常に不安定です。
あくまでも補助と捕らえるべきでしょう。
トレッキングポールの役割をおさらいしてみましょう。
まず、腕の力を推進力の補助として利用します。
次に、バランスが崩れたときすぐ修正するのに役立ちます。
そして、下るときヒザにかかる負担を軽減し、下山する場合は後ろふたつの機能が非常に役立ちます。
一方、トレッキングポールには弱点もあります。
初心者が最初からトレッキングポールを使うと、これに頼った歩き方を身につけてしまうことです。
前述した事故はその典型といってもいいかもしれません。トレッキングポールは山登りに使われ始めてまだ歴史が浅く、使い方についての考え方はまだ固定されていません。
ゴムキャップを付けるかどうかという意見はいまだにまっぷたつに分かれていることからそれは想像できるでしょう。
下山時の木の根や落ち葉は要注意
下山時に転倒する大きな原因はほかにもあります。
それが木の根と落ち葉です。
登山道に多くの木の根が露出した「木の根道」は珍しくありません。
いつもならつまずく程度でそれほど問題にはならないのですが、雨や露で濡れると非常に滑りやすくなり、危険です。
そのため、普段から木の根を避けて歩く癖をつけていた方が賢明です。
歩くという行動は条件反射によるものです。
頭で考えなくても、右足が出たら左足、左足が出たら右足と勝手に出ていくものです。
雨が降ったからといって急に変えるのは難しいでしょう。
落ち葉が厄介なのはそれが降り積もったときです。
地肌が見えないほど積もると実際の登山道がどうなっているかが分かりません。
気づかずに段差に足を乗せると転倒します。
落ち葉が厚いと滑る可能性も高くなります。
その危険を避けるためすり足歩行をするベテランがいます。すり足とは足を上げずに歩くことです。
足裏を常に地面につけたままで移動します。すり足でよく知られているのが相撲です。
もっとも、相撲では右手と右足、左手と左足を同時に出すナンバという移動方法を採用しています。
その方が頭がブレず、安定しているというのがその理由です。急坂で落ち葉が溜まっているときはぜひ試してみてください。
まとめ
急な下りではしばしば立ち木を手でつかみ、体重を支えます。
そうすればブレーキをかけやすく、ヒザにかかる負担を減らすことができます。
しかし、立ち枯れしているケースもままあります。
体重をかけた途端に折れたという経験は、ベテランなら少なからずあるのではないでしょうか。
また、上りならロープや鎖を使わなくても登れるケースでも、下りではそういうわけにはいきません。
このように、下山時は注意しなければならないことがたくさんあります。
下り道は決して油断せず、安全を確かめながら一歩一歩下っていくようにしてください。
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