「中高年になり、健康のためにと始めた運動で、膝を傷めてしまった……」
近年、健康意識の向上にともない、年齢を重ねてもスポーツを楽しむ人が増えてきました。
特に中高年者は、医療機関のすすめもあり、熱心に取り組む人が多いようです。
もちろん運動は、健康寿命を延ばすために、必要不可欠な要素ですが、やり過ぎは禁物です。
加齢変性(年齢による劣化)やオーバーユースにより、関節や筋、骨などを傷めてしまうことがあるからです。
今回は、そんなスポーツや運動などを楽しむ中高年によくみられる膝のケガについて、症状から予防法まで詳しくご紹介していきます。
『膝のケガ』こんな症状は、急いで病院へ!
スポーツ中のケガや事故などで、膝につぎのような症状がみられたら、早めの整形外科受診をおすすめします。
- 受傷後、激痛とともに、1時間以内に関節がひどく腫れる
靭帯の損傷、半月板の損傷、膝関節内の骨折が疑われます。
- 腫れと痛みがあり、膝が完全に伸びない(ロッキング)、膝屈伸時に雑音やひっかかり、振動(弾かれる感じ)がある
半月板損傷が疑われ、保存療法では治癒せず、手術が検討されることが多い症状です。
- 強い外力により発症し、受傷時に何が切れたように感じる、受傷後1時間以内に腫れ、痛くて動かせない
靭帯の損傷が疑われ、靭帯の完全断裂では、手術の適応となる場合は多いです。
- 受傷直後の激痛で立っていられず、関節の屈伸ができない、15分から1時間以内にひどく腫れ、異常な向きに変形する
膝関節とその周辺の骨折が疑われるので、添え木などで固定して、整形外科へ急いでください。
膝のケガは半月板や靭帯を傷めるケガが多い
半月板損傷
半月板は、太ももの骨とすねの骨の間にある、三日月形の線維が豊富な軟骨です。
膝関節内の内側と外側に1枚ずつあり、衝撃を吸収するクッションの働きを担います。
また、関節を安定させて、動きをスムーズにする働きもあります。
バスケットやバレーボールのジャンプ着地時や、サッカーやラグビーでの横からのタックルなどで半月板損傷はおきます。
膝を曲げて捻った時に発生しやすく、ダンスや水泳の平泳ぎでも傷めることがあります。
外側より、内側の半月板のほうが傷めやすい(約5倍)と言われています。
強い力で受傷すると、靭帯や軟骨の損傷を合併しやすいでしょう。
また、加齢により半月板を傷めやすくなってる人や、生まれつき半月板が幅広く分厚い人は、弱い力でも切れたり裂けたりします。
受傷直後は、腫れや痛みが強く、関節を動かしたり、体重をかけると痛みが増します。
物がはさまったような痛みや、膝を伸ばすときにひっかかりを自覚したり、動かした時に音が出る、膝がガクンと崩れる感じがすることもあります。
関節の間に切れた半月板の一部がはまると、膝が完全に伸びなくなり、痛くて歩けないケースもみられます。
症状や膝を動かす検査などで、半月板損傷が疑われたら、MRI検査で診断を確定します。
受傷直後は、局所の安静と消炎鎮痛剤の内服や湿布、塗り薬で痛みを抑えます。
膝に多量の関節液がたまっていれば、注射針で抜いたり、局所麻酔剤やステロイド剤、ヒアルロン酸を注入する場合もあるでしょう。
軽症であれば、装具やテーピングなどでサポートし、膝関節や太ももの物理療法(電気治療や温熱療法など)と運動療法が施されます。
保存療法で改善せず、日常生活に支障がある症例では、手術が検討されます。
通常は関節鏡を使い、損傷した部分を切り取ったり、縫い合わせる鏡視下手術が選択されるでしょう。
正常部分はできるだけ温存する、部分切除のみの場合は、術後すぐに歩けますが、スポーツ復帰には約2~3ヶ月要します。
縫合した場合は、数週間は松葉杖歩行となるので、スポーツ復帰には約4~5ヶ月かかってしまいます。
膝靭帯損傷
膝は、主に4つの靭帯で支えられており、スポーツや交通事故などで強い力が作用すると、傷ついたり断裂します。
内側側副靭帯の損傷が一番多く、次いで前十字靭帯に発生、後十字靭帯は少なく、外側側副靭帯の損傷はまれです。
スポーツでは、バスケット・バレーボール・テニス・スキー・サッカー・ラグビーなどで、ジャンプ着地時や相手との接触で受傷し、複数の靭帯損傷や半月板損傷を合併することもあります。
受傷時は痛くて動かせず、関節が腫れたり、足を着くと膝がガクッと崩れることもあります。
前十字靭帯が切れると、バシッという断裂音が聞こえることがあり、関節内に血がたまります。
受傷後約3週間は、膝の痛みと動きの制限がありますが、次第に軽減してくるでしょう。
しかし、適切な治療をしないと膝の不安定感が残り、やがて半月板や関節軟骨を傷め、慢性的な痛みや腫れに悩まされることがあります。
膝関節にストレスをかけるテストと触診などで診断し、MRI検査で確定します。
受傷時は、包帯やテーピング、装具やギプスで固定し、消炎鎮痛剤で痛みを和らげます。
筋肉が衰えやすいので、早期から痛みのない範囲で運動療法を始めます。
内側側副靭帯は自然治癒しやすいですが、前十字靭帯は治りづらいので、アスリートや重労働者は手術が選択されるでしょう。
40歳以降は、加齢変性が膝のケガの要因になります
加齢により、特に内側の半月板が変性をおこして、傷つきやすくなっています。
O脚の人はリスクが高く、階段の昇降や立ち上がり時などの、ちょっとした動作でも受傷します。
高齢者では、歩いていて方向転換しただけで膝を傷めるケースもあるほどです。
60歳以上の40%に、痛みのない半月板損傷が見られたとの報告もあるので、自覚症状がなくでも普段からの注意が必要ですね。
膝のケガを防ぐには?
重労働者やスポーツを楽しむ人、以前膝のケガをしたことがある人は、膝を傷めやすいので、普段から予防に努めましょう。
太ももの筋肉トレーニング
膝の運動を支える太ももの筋肉を鍛えて、膝への負担を減らしましょう。
特に太ももの前の内側にある、内側広筋を意識して、筋トレを行うと効果的ですよ。
腰かけて、足に適度なおもりを付けて、足首を反らして、膝を伸ばします。
膝の屈伸が痛い人は、脚を伸ばして床に座り、後方に手をつき、膝裏にクッションを入れて、膝を伸ばしきるように力を入れましょう。
仰向けに寝て、伸ばした脚を床から15cmくらい上げる方法もよいです。(足首は反らし、反対側の膝は立てます)
5秒5回を目標に、1日2~3回行いましょう。
無理せず、痛みを感じたら中止してください。
※膝関節のトレーニングについてはコチラも参考にしてみてください
宏洲整形外科医院 http://www.hiroshima-seikeigekaiin.jp/exercise/chu-bu-ex
スポーツを楽しむ人は、スクワットやマシン、ダンベルなどを使った、より負荷のかかる筋トレもおすすめです。
膝関節のストレッチ
膝周囲の筋肉が固いと、運動時に関節への負担が大きくなるので、ストレッチで筋肉の柔軟性を回復させます。
また、膝痛が長期化すると、屈伸がしづらくなり、歩行障害の原因になるので、普段からストレッチを心がけましょう。
低めのイスに浅く腰かけ、片足を軽く前に伸ばします。
両手を膝の上に重ねて置き、垂直方向にゆっくり力を加え、膝を伸ばしきって2~3秒保ちます。
伸ばしたり、曲げたりを10回繰り返しましょう。
立位で片足をイスに乗せ、膝の上に両手を重ねて乗せます。
体の重心を前に移動させながら、膝を前に突出して、深く曲げましょう。
限界まで曲げたところで、2~3秒保ち元の姿勢に戻します。
曲げたり、伸ばしたりを10回繰り返しましょう。
1日6セットを目標に、無理せず行ってください。
現在、膝に痛みのない人も両足行うと、膝痛の予防になります。
膝への負担を減らす
- 有酸素運動などの適度な運動を心がけ、体重をコントロールしましょう。
- 激しいスポーツや、膝に負担のかかる重労働などは、なるべく避けるようにしましょう。
- 長時間の正座や横坐りは避け、歩行時はクッション性の良い靴を選びましょう。
- 段差や階段の昇降、自転車のこぎ出しや立ち上がり時などは、膝に大きな負担がかかるので、注意しましょう。
また、運動の前後のストレッチや体操は、膝への急な負担を減らすので、ケガの対策には欠かせません。
膝の痛みを和らげるテーピング療法
整形外科での治療と共に、自分で伸縮性のテープを膝に貼る、テーピング療法をおすすめします。
膝のテーピングは、傷めた関節を保護し、弱くなった筋肉をサポートしてくれます。
キネシオテープは、傷ついて炎症を起こしている部分の血流を促し、腫れや痛みを軽減させる効果が期待できますよ。
大腿四頭筋テープ(だいたいしとうきん:5cm幅、長さ30cmのテープに12cmの切れ込み)
脚をのばして座り、太ももの前上部に、切れ込みのない方のテープを固定する(Y字の谷がお皿の上にくる位置に貼る)
膝を曲げながら、テープを膝に向かって貼っていき、膝を立てて、Y字の外側のテープでお皿を包みこむように貼る
Y字の内側のテープも同様に、お皿を包むように丸く貼り、Y字テープの端が双方重なるようにする
※半月板や靭帯の損傷におすすめ
半月板テープ(5cm幅、長さ15cmのテープに10cmの切れ込み)
膝を曲げて座り、立てた膝の皿の下10cmに、切れ込みのない方のテープを固定する
Y字の内側のテープを、お皿を囲むように、上に向かって貼る
外側のテープも同様に貼り、お皿を両側から包むような形で完成
※半月板の損傷におすすめ
内側靭帯テープ(5cm幅、長さ15cmのテープに10cmの切れ込み)
脚を伸ばして座り、膝の内側に、切れ込みのない方のテープを固定する
膝を曲げながら、上側のY字テープをお皿を囲むように、膝の外側に向かって貼る
下側のY字テープも同様に貼り、お皿を上下から包むような形で完成
※内側側副靭帯の損傷におすすめ
5cm幅、長さ10cmのテープを、膝を伸ばして内側の靭帯に沿って、テープの中央を少し引っ張って貼る方法も有効です。
外側側副靭帯の損傷には、内側と同様の方法で、膝の外側の靭帯にテーピングしてください。
前十字靭帯テープ(5cm幅、長さ52cmのテープ)
膝を軽く曲げて、お皿の下にテープの中央を固定する
外側のテープを膝の裏側に向けて貼り、そのまま太ももの後外側に沿って貼リ上げる
内側のテープも同様に太ももの後内側に沿って貼り上げて完成
※前十字靭帯の損傷におすすめ
通常、テープは引っ張らずに貼りますが、スポーツ時は、テープの端以外は適度に引っ張って、固定力を調整してください。
強く引っ張りすぎて貼ったり、長時間貼り続けると、かぶれやすいです。
かゆみを感じたら、皮膚を押さえながら、テープをゆっくり剥がしてください。
かぶれにくい人は、2日間くらい貼っておいてもよいでしょう。
入浴でテープが濡れたら、ドライヤーで乾かしてください。
テープの角を丸くカットすると、剥がれにくですよ。
※コチラの貼り方も参考にしてください。
ピップ簡単テーピング http://www.pip-taping.com/movie/parts/hiza/
トワテック キネシオロジーテープ https://www.towatech.net/research/features/kine_cate/6
中高年になっても、スポーツを楽しみましょう
中高年に多い膝のケガと、その対策をご紹介しましたが、いかがでしたか。
膝のケガを放置すると、関節が不安定になり、筋肉が衰えてきます。
不安定な膝は、軟骨や半月板などを傷めやすく、変形性膝関節症になってしまうことも多いです。
特に半月板は加齢変性がおきやすいので、中高年者や過去に膝をケガした人は、たとえ痛みがなくても注意が必要です。
普段から、膝に負担をかけない生活を心がけ、筋トレやストレッチ、テーピングなどで、膝のケガを予防してください。
ぜひ、適切な治療と対策で膝のケガを防ぎ、中高年になっても、健康的にスポーツや運動を楽しみましょう。
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