カナダ出身のレナード・コーエンは、シンガーソングライターはもちろんのこと、執筆活動をするなどマルチな才能を発揮しました。
しかし、2016年に82年の生涯を閉じてしまい、その亡くなる前にリリースされた「You Want It Darker」がレナード・コーエンの遺作となりました。
ここではその遺作の解説を通してレナード・コーエンのその偉大さを改めて振り返ります。
稀代のシンガーソングライターの死が意味するもの
難解至極にして稀代の名曲と言われる「ハレルヤ」をはじめ、数々の傑作を残したカナダの小説家にして詩人、そしてシンガーソングライターのレナード・コーエンが2016年11月7日に故郷のカナダ・モントリオールで亡くなりました。
享年82です。
2016年度のノーベル文学賞を受賞したいボブ・ディランと親交があり、レナード・コーエンの代表作「ハレルヤ」はボブ・ディランにも大きな影響を与えています。
レナード・コーエンと言えば「ハレルヤ」と言われるほどに「ハレルヤ」ばかりが取り上げられますが、稀代のシンガーソングライターは深遠なる深みがある独特の歌詞はもちろんのこと、優れたメロディーメーカーだったのです。
死の直前にリリースされたアルバム「You Want It Darker」(2016年)は、ひと言で言って名盤です。
既に82の齢となり、声はしわがれ、歌声の抑揚はほとんどありませんが、しかし、人生の深みを知り尽くした男の今生へのさようならを言っているかのように淡々としながらもずしりと心に響くそのレナード・コーエンの歌世界は表題通り、闇を求めるかのように暗いのです。
しかし、それは誰しもに聞き捨てならぬ何か心をざわつかせずにはいられない切迫力をもって 聞き手に迫って来るのです。
このレナード・コーエンが最後に到達した歌世界は余りにも深遠巨大で、闇が無限と親和性を持っていることからか、非常に透徹した、それでいてやけに静寂が漂うこのレナード・コーエンが生み出した世界は、最早レナード・コーエンが死を目前にして思い至った静かに胸に去来したであろう長い人生の数々の場面をも思わすにはいられない名作中の名作と言える傑作盤なのです。
レナード・コーエンが人生を締めくくるに当たり「You Want It Darker」を世に送り出したことは、何人にとっても悦ぶべきことで、この名作で幕を閉じたレナード・コーエンという人のその才能の偉大さは惜しんでも惜しみ切れないものと言えます。
デビュー作にして既に老成していたレナード・コーエン!
「Song of Leonard Cohen」(1967年)で、シンガーソングライターとしてこの世に登場したレナード・コーエンは、それ以前には、カナダで詩人、小説家として既に活動を始めていました。
「Song of Leonard Cohen」を聴くと、そのレナード・コーエン節とも言える独特の歌いぶりは死ぬまで変わっておらず、唯、声が若いと言うことと、曲調が最後のアルバム「You Want It Darker」よりも華やかなことを除けば、既に老成していたとも言えます。
しかし、そんなレナード・コーエンも直ぐにはその評価が高かったわけではありません。
よくレナード・コーエンといえば「ハレルヤ」が引き合いに出されますが、「ハレルヤ」が名曲としての評価を確かなものにするまでに20年の歳月がかかっているように、レナード・コーエンの評価が定まるのも時間がかかっています。
ただ、レナード・コーエンにはそのはじめから熱狂的なファンがいて、彼らがレナード・コーエンという稀代の難解なシンガーソングライターを世に送り出す後押しをしたことは否めません。
普通であれば、難解な歌詞で、一聴しただけでは何を歌っているのかが解らない歌詞を歌うシンガーソングライターが、浮き沈みの激しいショービジネスの世界でずっと第一線で活躍できたことは、奇跡に近く、ボブ・ディランなどの支持があったとは言え、熱狂的なファン無くしてレナード・コーエンは死すまで第一線で活躍することは不可能だった筈です。
それにしてもレナード・コーエンの魅力とは何だったのでしょうか。
それは、淡々と語りかけるように歌うレナード・コーエンの歌声によるところが大きいと思います。
淡々と歌うことで尚更レナード・コーエンの歌詞が生きてくるのです。
あまり抑揚が無いようでありながら、しかし、その歌いぶりは、感情が露わに現われていて、耳の傍で囁くように歌うレナード・コーエンの歌声は、時代を追う毎に枯れて行き、更に深みが増しながら、その歌声はますます切迫感を持って冴え渡るのです。
名曲「ハレルヤ」誕生!
そんな中で5年の歳月をかけて名曲「ハレルヤ」が生れるのです。
「ハレルヤ」はアルバム「Various Positions」(1984年)に収録された曲で、ボブ・ディラン、ジェフ・バックリィなど様々なアーティストにカヴァーされ続けています。
稀代のシンガーソングライターは亡くなってしまいましたが、レナード・コーエンが残した作品の数々は永遠に残る筈で、これからも数多くのアーティストにカヴァーされ続けるでしょう。
つまり、レナード・コーエンの魂はずっと生き続け、そして、レナード・コーエンがこの世に残した作品の数々は絶えず人の心を揺り動かさざるを得ないのです。
Leonard Cohen – Hallelujah
遺作「You Want It Darker」の意味するものは?
今改めて「You Want It Darker」を聴いてみると、何か予言を聞いているような感覚になりぞくぞくっとし、この「You Want It Darker」を制作しているときにレナード・コーエンの胸に去来したもの何なのかと言うことを問わずにはおれません。
多分、それは、「死」を前にした人間のこの世からの去り方の折り目正しい振る舞いであり、もう、全てを達観したかのような、それでいて、まだ、この世でやり残ししたものがあるという叫びにならない叫びのようなものが聞こえて来るような歌声なのです。
とにかく、淡々と語りかけるように歌われる歌の数々がこうも感動を誘うのかという奇跡の作品が閉じ込められた「You Want It Darker」は百年後にもまだ、名盤の一つとして数えられているに違いない傑作なのです。
それにしても偉大な才能がまた一人亡くなってしまいました。
まとめ
稀代のシンガーソングライターにして小説家、詩人の顔を持つレナード・コーエンが2016年に亡くなりました。
その彼の遺作「You Want It Darker」(2016年)が到達した深淵至極な歌世界は聴くものの心を大きく揺さぶって仕方がないのです。
もしかしたならば、レナード・コーエンは自分の死が近いのを知っていたのかも知れませんが、それにしてもレナード・コーエンが最後に行き着いたその歌世界は、訥々と聴くものに語りかけるように抑揚を極力抑えた歌いぶりで、それが返って途轍もない説得力を発揮していてその印象は強烈なのです。
消える前にパッと輝くろうそくの灯火のようなこの「You Want It Darker」が放つ威光は、百年経っても失われることがない名盤の一つとして語り継がれることでしょう。
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