寝床や椅子から立ち上がった瞬間、ふらついたり目の前が真っ暗になる「立ちくらみ」。
多くの人が経験する、ありふれた症状ですが、駅などで転倒すれば大ケガをしかねません。
立ちくらみは、もともと低血圧の人に起こりやすく、若い女性に多い症状ですが、近年は高齢者の2割、75歳以上では3割の人が悩まされています。
頻繁に立ちくらみを繰り返す場合は、心臓や頭の病気がかくれている可能性もあるので要注意です。
今回は、立ちくらみの症状と原因、予防や対策などをお届けします。
さらに、子供に多い立ちくらみが起こる病気や、立ちくらみの主症状「めまい」をおこす病気も紹介していきます。
脳に流れる血液の減少で「立ちくらみ」が起こる
立ちくらみは、「起立性低血圧」や「体位性低血圧」とも呼ばれ、思春期や20~30歳代の女性、高齢者に多くみられる症状です。
立ち上がり、起き上がりで頭を急に持ち上げたときや、長時間の立ちっぱなしなどでふらつきやめまいがおこり、気が遠くなることもあります。
通常、頭の位置を上げたときに下半身に集まった血液(約500ml)は、心拍数の上昇と血管の収縮により、上半身に押し上げられます。
しかし、自律神経のバランスがくずれていると、血管をコントロールできず、脳への血液の供給が滞り、立ちくらみが生じます。
立ちくらみは「脳貧血」と言われることもありますが、血液に異常のある「貧血」とは異なり、主に血圧の低下でおこる症状です。
ちなみに低血圧は、立ちくらみがおこる「起立性低血圧」、体質が原因の「本態性低血圧」、病気や薬が原因の「二次性低血圧」に分類されます。
また、米ジョンズ・ホプキンス大学の研究では、中年期に起立性低血圧のある人は、認知症を発症するリスクが約1.5倍になると報告されています。
脳への血流が阻害されるためではと考えられ、高血圧や糖尿病と同様に認知症発症に影響するので、高齢者の頻繁な立ちくらみには注意が必要でしょう。
立ちくらみの症状
立ちくらみ(起立性低血圧)は、寝起きや長時間の座位から立ちあがるときに、数秒から数分間生じますが、軽い症状であればしばらく横になれば治まります。
通常の立ちくらみの症状は下記のようなものです。
- ふらつき
- めまい
- 気が遠くなる
- 視力障害
- 言語障害
- 首肩や腰の痛み
- 混乱
- まれに転倒や失神、けいれんなど
病気が原因かも?危ない立ちくらみの症状
立ちくらみの他に、こんな症状がみられたら、病気が原因かもしれません。
放置せずに内科を受診し、必要に応じて専門医を紹介してもらいましょう。
《危ない立ちくらみの症状》
- 筋肉のこわばり、手や身体のふるえ……パーキンソン病など
- ひどい頭痛や吐き気、身体の痺れ、話しにくい……脳の病気
- 脚の感覚の異常、背中の痛み……脊髄の病気
- 手足の痺れや痛み、筋力低下……末梢神経の病気
- 息切れや胸の痛み……心臓の病気
- 血便やタール状の便……消化器の病気
※倒れたり意識を失う立ちくらみも要注意です。
立ちくらみの原因
立ちくらみは、立ち上がりなどにより低下した血圧を正常に戻す機能が、何らかの原因でスムーズに働かずに生じます。
ではなぜ血圧を正常に戻す機能がスムーズに働かなくなるのでしょうか。
ここでは立ちくらみの原因について解説します。
立ちくらみの原因には重篤な病気が隠れている場合もありますので、注意が必要です。
慢性的な立ちくらみの原因は?
- 加齢により血圧をコントロールできない
- 自律神経が正常に機能しない
- パーキンソン病や多系統委縮症、神経障害の病気
- 糖尿病やアミロイドーシス
- 副腎や甲状腺ホルモンの病気
- 脳卒中や腫瘍
- 心不全や心筋梗塞
- 薬の副作用
など
※多系統委縮症:小脳や自律神経などの神経細胞が脱落し、進行する神経変性疾患
※アミロイドーシス:アミロイド(異常蛋白質)の沈着による臓器・組織の障害
動脈硬化があり、血圧を制御できない高血圧の高齢者は立ちくらみがおこりやすく、転倒事故の原因になっています。
また、思春期に立ちくらみが多いのは、血圧や脈拍を制御する自律神経が未完成なためで、遺伝性もあるといわれています。
なお、初めておこる立ちくらみの原因は、脱水や出血による血液の減少、副腎機能の異常、薬の副作用などです。
貧血も立ちくらみの一因
「貧血」は赤血球や酸素を運ぶヘモグロビンが不足して、全身に十分な酸素を供給できな状態なので、立ちくらみの原因になりえます。
病院では血液検査の後、疑われる原因疾患に応じて、内視鏡や超音波、CTや尿検査などが行われるでしょう。
貧血の約7割の「鉄欠乏性貧血」は、内服薬や注射で鉄分を補う治療により改善します。
病気(胃十二指腸潰瘍・胃がん・大腸がん・食道がん・子宮筋腫・白血病・慢性腎不全など)が原因の場合は、各専門医に託されます。
自己診断で安易にサプリメントを多量に摂取すると、健康を害する場合もあるので、必ず専門医に相談してください。
立ちくらみの検査
立ちくらみの検査では消化器からの出血や栄養不足による貧血、不整脈による失神がないかを確認する検査が優先されます。
血液検査、心電図や心エコーなどの検査が行われるでしょう。
ほかに原因となる病気がなければ、血圧や神経などの検査を行い診断します。
- 血圧と心拍数測定:5分臥床後、1分起立後、3分起立後の3回
- 神経学的診察:反射、バランス、筋力、感覚、歩行など
- ティルト試験:電動検査ベッドを用いた、自律神経の機能を調べる検査
立ちくらみの原因疾患の治療と薬物療法
立ちくらみの原因となる病気があればその病気の治療、原因の病気がなければ薬物療法と食事療法、生活習慣の改善が指示されるでしょう。
薬物療法は、精神安定薬や自律神経調整薬、血圧を上げる薬などが処方されるでしょう。
薬(高血圧、狭心症、うつ病、睡眠障害、パーキンソン病など)の副作用が原因の場合は、薬の変更や中止が検討されます。
長期間の安静臥床(寝たきり)が必要な人には、毎日上体を起こしたり、軽い運動などがすすめられるでしょう。
立ちくらみの予防と対策は、生活習慣の改善
基本的な事ですが、立ちくらみが起きやすいという方は「ゆっくりと立ち上がる」、「ゆっくり起き上がる」習慣を身につけましょう。
足の屈伸運動をしてから立ち上がると、立ちくらみがおこりにくくなります。
特に起床時は、「ゆっくりと体をおこしてから、水を1杯飲む」と自律神経が切り替わり、血圧が上がるのでおすすめです。
長時間の同じ姿勢や長時間の入浴は、立ちくらみがおきやすいので、なるべく避けてください。
また、多量の食事や飲酒の後、運動直後なども立ちくらみがおきやすいので、注意が必要です。
立ちくらみを感じたら、椅子などに腰かけてベルトやボタンをゆるめ、休息をとってから再度立ち上がれば大丈夫な場合が多いでしょう。
脚に溜まった血液を押し上げてくれる「弾性ストッキング」も有効なので、担当医にご相談ください。
過労やストレスは、自律神経を乱して立ちくらみを起こりやすくします。
十分な休息をとり、生活習慣を見直しましょう。
軽い運動や趣味などで、ストレスを発散してください。
適度な運動や筋トレは、血圧が下がりにくくなるので、立ちくらみの予防になります。
食事は腹八分を心がけ、適量の水分と塩分を摂取し、アルコールはなるべく控えてください。
暑い時期は脱水になりやすく、軽い熱中症になると立ちくらみがおきるので、十分な補水に努めましょう。
食後や飲酒後はゆったり過ごし、急に立ち上がらないようにしてください。
食後のコーヒー・紅茶・緑茶は、カフェインが血圧を上げるのでおすすめですよ。
立ちくらみの予防と対策まとめ
- ゆっくりと立ち上がる、起き上がる
- 朝はゆっくりと体を起こしてから、水を1杯飲む
- 長時間の同じ姿勢は避ける
- 長時間の入浴を避ける
- 多量の食事や飲酒の後、運動直後は立ちくらみが起きやすいので注意する
- 血流が良くなる「弾性ストッキング」を試してみると改善されることがある
- 過労やストレスをできるだけなくす
- 食事は腹八分を心がける
- 適量の水分と塩分を摂取する
- アルコールはなるべく控える
- 食後のコーヒー・紅茶・緑茶は、カフェインが血圧を上げるのでおすすめ
朝に立ちくらみする子供達、朝起きるのが苦手な子は「起立性調節障害」かも
朝起きられない子供が、立ちくらみやめまいを訴えたら「起立性調節障害(OD)」かもしれません。
「起立性調節障害(OD)」は自律神経が未発達な学童に多い
起立性調節障害は、低血圧症により、脳の血流が一時的に低下する、学童に多い病気です。
血圧を調整する自律神経が未発達なため、学童の5~10%が患うとされています。
体を活動的にする交感神経が午前中に働かず、午後から活性化するため、朝弱く夜寝つけない生活になってしまいます。
身体、精神、環境などの要素とストレスが、起立性調節障害を発症させる原因と考えられています。
中学生以降は、特に女子に多くみられる傾向があり、近年は成人も発症するケースが増えています。
若年者におこる立ちくらみのなかには、「体位性頻脈症候群(POTS)」と呼ばれる、血圧が低下せずに心拍数が増加して生じる、原因不明の疾患もあります。
「起立性調節障害(OD)」の症状。朝は起きれず、でも午後は元気
起立性調節障害は「だらしない」、「さぼっている」と誤解されやすい症状があらわれます。
- 立ちくらみやめまい、吐き気や転倒
- 腹痛や頭痛、胸苦しい
- 少しの運動で動悸や息切れ
- 寝起きが悪く、午前中は不調で午後は改善する
- 嫌なことがあると、すぐ気分が悪くなる
- 寝付きが悪く、イライラや短気
- 顔色が悪く、倦怠感や食欲不振など
「起立性調節障害(OD)」検査と治療、生活指導
「起立性調節障害(OD)」は血圧と心拍数測定(10分臥床後、起立時、10分起立後の3回)で診断します。
血液検査では、貧血は認められません。
適度な運動と規則正しい生活、水(2L)と塩分(10g)の摂取がすすめられます。
昼間はなるべく横にならず、座ったり立ち上がるように心掛けましょう。
ゆっくりと立ち上がる癖をつけ、長い時間立ち続けないようにしてください。
症状によっては、血管を収縮させる薬や漢方薬、カウンセリングが処方される場合もあります。
起立性調節障害の「朝起きられない」という症状や周囲の理解不足から、不登校につながる場合もあるので、慎重な対応が必要ですね。
「さぼり」「だらしない」と決めつけず、過度の叱咤激励は避けましょう。
周囲の人は、心身の病気として見守り、子供が出来ることから評価してあげてください。
立ちくらみの症状「めまい」をおこす病気は?
自分の体の位置や姿勢が認識できず、目がまわったり、くらくらする状態が「めまい」です。
耳の奥の三半規管で認識する「平衡感覚」、体の筋肉や関節の状態、「視覚」から得た情報を脳がまとめて、体の位置・姿勢を把握します。
この情報をつかさどる器官に異常がおこると、脳が情報を処理できず、くるくる回るめまいや、ふらふらするめまいが生じます。
どちらのめまいも、吐き気や嘔吐を伴うことが多いでしょう。
回転性めまいの原因疾患は?
平衡感覚に障害があると、くるくる回る「回転性のめまい」がおこります。
なかでも多いのは「良性発作性頭位めまい症」によるめまいでしょう。
これは三半規管内の異常で、頭が動いてるように感じて、めまいが発生します。
起床時の頭の動きで、めまいの発作がおきやすい疾患です。
また、寝返りや上向き、洗顔やお辞儀などもきっかけになります。
治療は、薬物療法や耳石置換法、体操による平衡訓練などが有効でしょう。
※耳石置換法は、こちらのサイトを参考にしてください。
NHK健康チャンネル https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_591.html
「メニエール病」では、三半規管内の水が増えることで、回転性のめまいが生じます。
メニエール病の特徴は、難聴や耳鳴りを合併し、治療しても再発を繰り返すことです。
メニエール病の治療は、めまいや吐き気を抑える薬物療法ですが、利尿剤や血流改善薬、ステロイド剤などが有効な場合もあります。
症状が改善せず日常生活に支障があるケースでは、手術が検討されるでしょう。
めまいの原因が、突発性難聴、前庭神経炎、ハント症候群、中耳炎などの場合もあるので、異常を感じたら耳鼻咽喉科を受診しましょう。
回転性のめまいに伴い、しびれや脱力、ろれつが回らない、二重に見えるなどがあれば、脳出血や脳梗塞が疑われるので、救急病院や脳神経外科を受診してください。
立ちくらみ・ふらつくめまいの原因はさまざま
立ちくらみが続く、ふらついたり、よろめくめまいの原因は、腫瘍や中枢神経の変性、心臓病や自律神経失調症などです。
めまいや立ちくらみがしつこく続くときは、神経内科や脳神経外科、循環器内科などを受診しましょう。
高齢者の約3割は、ふらつくめまいを訴えると言われています。(加齢性平衡障害)
検査で大きな異常が見つからない症例では、首の筋肉の過緊張や血圧低下、うつ状態などが原因と考えられています。
立ちくらみ・めまいは、ツボ押しでセルフケア
立ちくらみや原因不明のめまいは、ツボを押して症状を和らげましょう。
押すと心地よくひびく箇所が、治療ポイントになります。
いた気持ちいい強さで、ゆっくりと3秒ほど押してください。
症状が軽減するまで、数分間ツボ押しを繰り返しましょう。
立ちくらみ・めまいに効くツボ
- 中渚(ちゅうしょ):手の甲側、薬指と小指の骨の間で、狭くなっているところ
- 外関(がいかん):手首の甲側の横じわ中央から、肘に向かって指2本分上がったところ
- 内関(ないかん):手のひら側の手首の横じわ中央から、肘に向かって指2本分上がった、2本のすじの間
- 足の臨泣(りんきゅう):足の甲側、薬指と小指の骨の間で、狭くなっているところ
- 太谿(たいけい):足の内くるぶしのすぐ後ろのくぼみ
- 翳風(えいふう):耳たぶの後下部にあるくぼみ
- 瘈脈(けいみゃく):耳の後ろのつけ根で、下1/3のところ
- 竅陰(きょういん):耳の裏側の中央で、骨のきわにあるくぼみ
突然の立ちくらみやめまいには、手や耳の後のツボで対応しましょう。
普段からツボを押して、症状が和らぐツボを特定しておくと、いざという時に役立ちますよ。
なお、症状が悪化するときは、ツボ押しを中止してください。
たかが「立ちくらみ・めまい」と見逃さないで
学童から思春期そして高齢者と、どの年代でもみられる「立ちくらみ・めまい」の情報をお届けしました。
とても身近な症状ですが、身体の異常を知らせる大事なサインですので、回数が増えたりしつこく続くときは要注意です。
さまざまな病気が原因でおこる場合もあるので、いつものことと見逃さず、病院で診てもらいましょう。
なお、めまいの原因の特定が難しい場合などは、めまいの専門医の受診もご検討ください。
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