口の中がヒリヒリと痛い、腫れたり、ただれて食べ物がしみるなどの症状は、皆さん何度か経験することでしょう。
ほほの内側を誤って噛んでしまったり、硬い物や熱い物を食べたときの、一時的な傷による痛みは心配いりません。
しかし、炎症がなかなか治まらず、痛みが長びくときは要注意です。
口の中の痛みが長引いたり、異常が長引いている場合、口の中の「がん」など、こわい病気が隠れている場合もあります。
そこで今回は、口の中に痛みをおこす病気やケガを、症状別に紹介していきます。
専門医(歯科、口腔外科、耳鼻咽喉科など)を受診するときなどの目安にしてください。
口の中がヒリヒリ痛い
口の粘膜がヒリヒリするときは、やけどや傷、感染症などが疑われます。
熱い飲食物による軽いやけどや、入歯や歯ブラシ、硬い食品などによる小さな傷は、数日で回復するでしょう。
歯のかぶせものや入歯などが原因で、いつも同じところに口内炎ができるときは、歯科医に相談してください。
アフタ性口内炎
「アフタ性口内炎」は口の中や舌、唇や歯ぐきなどにできる一般的な口内炎で、通常7~14日ほどで自然に治癒します。
円形の小さい潰瘍(かいよう:皮膚・粘膜に生じる深い欠損)は、灰白色の膜でおおわれ、周辺は赤くなりヒリヒリ痛みます。
患部に触れると強く痛み、刺激のある食べ物などがしみます。
原因は、ウイルス感染や免疫力低下、胃腸障害やストレスなどと考えられていますが、いまだはっきりしません。
痛みが2週間以上続くときは、他の疾患(ベーチェット病や舌がんなど)も疑われるので、口腔外科や耳鼻咽喉科を受診しましょう。
治療は義歯の調整やステロイド剤・抗菌剤の軟膏、貼付薬や坑ウイルス薬、レーザー治療などが施されます。
カタル性口内炎
「カタル性口内炎」は、口の中の粘膜が境界のはっきりしない炎症をおこし、焼けるように感じたり、刺激物がしみてヒリヒリ痛みます。
粘膜が赤く腫れてザラザラしたり、ひび割れや白いただれ、赤い斑点や水泡がみられ、口臭がすることもあるでしょう。
ほほの内側を噛んだり、入れ歯や歯の詰め物などの刺激、ストレスや過労が原因とされています。
また虫歯や歯周病、薬の副作用や喫煙なども要因となるようです。
口の中を傷めたときに免疫力が低下していると、感染症をおこして炎症がひろがり、症状が悪化しやすいです。
熱い飲食物や刺激物を控え、入歯や矯正器具、歯並びなどの調整で物理的な刺激を減らしてください。
抗生物質の軟膏やトローチなどを使用すると、治癒が早まるでしょう。
歯磨きやうがいなどで、口の中を清潔に保つことは、治療や予防の助けになります。
通常7~10日ほどで治りますが、痛みが長引くときは他の疾患の可能性もあるので、口腔外科医に相談してください。
ヘルペス性歯肉口内炎
「ヘルペス性歯肉口内炎」は口の中の粘膜にアフタ(小潰瘍)ができて、歯肉などが赤く腫れてただれる、単純性ヘルペスウィルスの感染症です。
患部に触れたり飲食や会話で痛く、安静にしても痛みが治まらず、顎下リンパ節などが腫れることもあります。
全身の倦怠感や発熱が生じ、しばしば入院が必要になるでしょう。
治療は、抗ウイルス薬や消炎鎮痛薬、抗生物質などが投与されます。
なお、ステロイド軟膏やロキソニン、ボルタレンなどの非ステロイド系鎮痛薬を使用すると、感染が増悪する場合があるそうなので、注意が必要ですね。
口腔カンジダ症
口の中の痛みや味覚障害をおこす「口腔カンジダ症」は、真菌による感染症です。
偽膜と呼ばれる白苔が粘膜をおおい、剥がすと粘膜が赤くただれてヒリヒリ痛むでしょう。
慢性化すると白苔は剥がれにくく、表面が厚くなります。
口腔カンジダ症は、免疫力の低下や口の中の微生物のアンバランスにより発症します。
糖尿病や副腎皮質ステロイドの服用、唾液の減少や抗生物質の長期使用などが原因になるでしょう。
薬物療法は、抗真菌薬のうがい薬、塗り薬、内服薬などが処方されます。
扁平苔癬(へんぺいたいせん)
「扁平苔癬」では、口の中の粘膜と舌や唇がただれ、触れると痛んで食べ物がしみます。
ヒリヒリ痛む赤い粘膜が、白いレースに覆われているように見えるのが特徴の、治りにくい病気です。
原因は不明ですが、免疫の異常や遺伝、薬物や感染症、歯科金属やストレスなどが考えられています。
ステロイドや抗生物質の軟膏などで治療しますが、約1%は悪性化するといわれています。(北海道大学歯学部口腔診断内科サイトより)
歯科金属の調整、消炎鎮痛薬や精神安定剤などが処方されることもあるでしょう。
白板症(はくばんしょう)
「白板症」は口の中の粘膜や下の歯茎、舌などの表面が白く硬くなり、こすってもとれません。
患部がただれると、接触痛があり食べ物がしみるでしょう。
中高年の男性に多い、原因不明の病気ですが、悪性化することがあるので、痛みがあるときは注意が必要です。
初期のがんあるいは、がん化する可能性(約8~10%)を疑い、生検検査が行われることもあります。
禁煙とビタミンAなどによる薬物療法が無効の場合は、手術が検討されるでしょう。
口腔乾燥症(ドライマウス)
唾液量が減り、口内が乾燥する「ドライマウス」は、ストレス社会において増加している現代病といわれています。
初期症状は口内がネバネバ・ヒリヒリして、虫歯や口臭が増えます。
重症になると乾燥により舌がひび割れて、痛みのため食事や会話に支障が出るでしょう。
加齢やストレス、薬の副作用や糖尿病、口呼吸の習慣などが原因になります。
やわらかい食品が増え、噛む時間が短くなったため、唾液の分泌量が減ったことも原因のひとつでしょう。
治療は保湿用の洗口液やスプレー、ジェルやマウスピース、夜間口呼吸防止テープなどが処方されます。
症状によっては、人工唾液や薬物療法などが検討されることもあります。
禁煙や食事指導、水分補給などの生活習慣の改善も、治療に役立ちます。
口腔灼熱(しゃくねつ)症候群
「口腔灼熱(しゃくねつ)症候群」は口の中全体がヒリヒリ・チクチク痛んだりジンジン痺れる、中高年の女性に多い症状です。
口の粘膜に異常は認められず原因も不明ですが、更年期障害や口内の疾患などが関与していると考えられています。
口腔外科で診察を受け、疾患が見つからないときは、神経障害やホルモンの異常、心理的な治療などが検討されるでしょう。
口の中の傷やできものが痛い
口の中のケガやできものの痛みが治まらず、腫れたり化膿するときは、口腔外科で診てもらいましょう。
痛みがなくても、できものが大きくなるときは要注意、腫瘍も疑われますので、専門医へ。
※あなたの街の専門医(日本口腔外科学会サイト) https://www.jsoms.or.jp/public/machi/
口の中のケガ
転倒や打撲、スポーツや交通事故などで、口の中が切れると強く痛みます。
小さな傷の出血は、清潔なガーゼで圧迫すれば止まります。
止血できないときは、縫合が必要な場合もあるので、口腔外科を受診してください。
歯が折れたり抜けたときは、その歯を牛乳に浸すか、口に含んで歯科医へ急ぎましょう。
歯を水道水で洗ったり、歯の根に触れてはいけません。
30分以内であれば、特殊な接着剤で元に戻せる可能性がありますので歯科医に相談しましょう。
褥瘡(じょくそう)性潰瘍(外傷性潰瘍)
舌の縁やほほの粘膜などに、やや盛り上がった潰瘍やただれができて、触れると痛みます。
口の中の粘膜が物理的に繰り返し刺激されると、血流障害による粘膜の壊死がおこり、潰瘍が生じます。
入れ歯やとがった歯、歯の詰め物やインプラントなどが原因になるでしょう。
原因となっている刺激を取り除けば、7~14日ほどで治ります。
患部の治療には、軟膏やうがい薬が処方されるでしょう。
治療せずに放置していると、がんのリスクが高まりますので、ご注意ください。
口腔がん
「口腔がん」は40歳以降に増加する口の中の悪性腫瘍で、年間に男性約5,000人、女性約2,000人が患うといわれています。(東京都杉並区歯科医師会サイトより)
初期はほとんど痛まないとされますが、がんが進行するとさまざまな症状がみられます。
舌や歯肉、上顎や下顎の内側、唇などに潰瘍ができて痛みます。
出血や腫れ、変色やしこりなどがみられ、飲食物がしみるでしょう。
食事や会話がしづらく、リンパ節が腫れることもあります。
口の中が慢性的に刺激を受けると、遺伝子に異常がおこり発症します。
原因は入れ歯や歯の詰め物、タバコやアルコール、刺激の強い飲食物などです。
超音波検査や細胞診検査、組織検査などで診断し、CTやMRI検査で治療法を決定するでしょう。
治療は、手術や放射線、抗癌剤の治療の他、免疫療法や温熱療法、レーザー治療などが症状に応じて検討されます。
口腔がんは、早期発見と早期治療が行われれば、ほぼ治るがんです。
しかし、自覚症状に乏しいために、がんの発見が遅れることも多いでしょう。
がんが進行してしまうと、治りにくくなってしまいますので、日頃の口内のチェックが大切ですね。
※口腔がんのセルフチェックをしましょう。
・日本口腔外科学会 https://www.jsoms.or.jp/public/soudan/selfcheck/
・日本歯科衛生学会 https://www.jdha.or.jp/health/topics2-1.html
※口の中のケガや病気の詳細は、こちらの動画も参考にしてください。
・日本口腔外科学会 口腔外科相談室 https://www.jsoms.or.jp/public/movie/
舌が痛い
舌をケガしたときの対処法や、舌が痛む病気をご紹介します。
舌を噛んで痛い
転倒や打撲などで舌を噛むと、血がでて強く痛みます。
小さい傷で出血がわずかな場合は、唾液の働きで自然に血は止まるでしょう。
止血は圧迫が基本ですので、血が止まらないときは、出血部を上顎の内側や歯ぐきの裏側に押しあてて圧迫してください。
さらに、清潔なガーゼを使い、指で患部をつまむように圧迫する方法も有効なので、お試しください。
強く噛んだときは、出血量が多いので窒息にも注意が必要です。
口の中に血液が溜まっているときは、横向きに寝かせ、血液を飲み込まないように気をつけて、吐き出させてください。
舌を押しこまないように注意ながら、患部を清潔なガーゼで圧迫して、口腔外科へ急ぎましょう。
また、舌の筋肉が切れたときは、縫合など適切な処置をしないと、後遺症が残りますので、専門医の治療が必要です。
舌痛症
「舌痛症」は、舌がヒリヒリ痛んだりビリビリ感じる、口腔灼熱症候群の一つです。
診察や検査をしても舌に病変はなく、症状は患者さんの自覚症状のみです。
毎日2時間以上の舌の痛みが、3ヶ月以上続くとされ、仕事や日常生活に支障がでる場合が多いでしょう。
舌の両側に焼けるような、刺すような痛みが繰り返し生じ、口の乾燥や味覚障害を伴うこともあります。
食事中は舌の痛みが軽減し、痛みのための睡眠障害はみられません。
舌痛症は、ホルモンの異常や心理的ストレスが要因と考えられていますが、いまだ原因は不明です。
舌に痛みをおこす疾患を除外する検査で診断し、認知行動療法や薬物治療などの対症療法を行います。
舌がん
「舌がん」は、口の中のがんでは最も多く、舌の縁に発生しやすい悪性腫瘍です。
症状は、しこりや潰瘍、白い膜などで始まり、痛みの有無は人によります。
舌に慢性的な刺激が加わり、潰瘍やしこりが長期におよぶことが、がん発生の誘因と考えられています。
治療は、手術や放射線、抗がん剤による化学療法などが検討されるでしょう。
がんが最大径2cm以下で、周囲へひろがらず、リンパ節に転移していなければ、治療成績は良好とされています。
歯ぐきが腫れて血がでる
歯ぐきが赤く腫れて痛み、出血したり膿が出る場合は「歯周病」が疑われます。
歯や歯ぐきのすき間に歯垢や歯石がたまり、「歯肉炎」がおこります。
歯肉炎が悪化すると、歯を支える骨(歯槽骨:しそうこつ)が溶ける「歯周炎」になってしまいます。
進行すると、抜歯や手術になるケースもあるので、注意しましょう。
日頃から、ブラッシングや歯科でのクリーニングなど、お口のお手入れが大切ですね。
歯が原因でない歯痛
「非歯原性歯痛(ひしげんせいしつう)」は、歯を治療しても良くならい歯痛で、口腔顔面痛とも呼ばれます。
歯の神経や歯の周りの組織以外の、さまざまな原因により歯の痛みが生じます。
原因は、口を開閉する筋肉のしこりや神経痛、頭痛や心臓疾患、副鼻腔疾患や精神疾患で、原因不明の場合もあるようです。
症状により、歯科・耳鼻科・ペインクリニック・脳神経外科・循環器内科・心療内科の治療が必要になるので、担当の歯科医とよく相談してください。
口内炎や歯痛に効くツボ
口の中の痛みを和らげるツボやトリガーポイントをご紹介します。
専門医の治療と併せて、お試しください。
ツボ指圧は、痛気持ちよい程度の強さで、ゆっくりと3秒ほど押して離すを、数回繰り返しましょう。
治療中に痛みが強くなるときは、中止してください。
口内炎が痛い
- 口内点(こうないてん):手のひら側で、中指のつけ根にある横じわの中央
- 曲池(きょくち):肘を曲げるとできる、肘の内側の横じわの親指側先端
- 労宮(ろうきゅう):手のひらで、軽く握ったときに中指の先が当たる、中指の骨のきわ
- 手三里(てさんり):肘を曲げるとできる、肘の内側の横じわの親指側先端から、指幅3本手首寄り
- 合谷(ごうこく):手の甲側で、親指と人差し指の骨が合わさる点から、やや人さし指寄り
歯が痛い
- 歯痛点(しつうてん):手のひら側で、中指と薬指が分かれるところ(親指と人差し指ではさみ、強めに押しもむ)
- 下関(げかん):口を開けたときに突き出る、耳の前の顎(あご)の骨の、前方下のくぼみ
- 巨骨(ここつ):肩の後側で、鎖骨と肩甲骨のつなぎ目の内側にあるくぼみ(首や肩のこりもあるときに)
- 手三里(てさんり):肘を曲げるとできる、肘の内側の横じわの親指側先端から、指幅3本手首寄り(上の歯痛に)
- 温溜(おんる):手の甲を上にして、手首の親指つけ根と、肘を曲げるとできる横じわの親指側先端の中間点(下の歯痛に)
- 曲池(きょくち):肘を曲げるとできる、肘の内側の横じわの親指側先端
- 合谷(ごうこく):手の甲側で、親指と人差し指の骨が合わさる点から、やや人さし指寄り
歯ぐきが腫れて痛い
- 内庭(ないてい):足の人差し指と中指が分かれるところ
- 合谷(ごうこく):手の甲側で、親指と人差し指の骨が合わさる点から、やや人さし指寄り
- 手三里(てさんり):肘を曲げるとできる、肘の内側の横じわの親指側先端から、指幅3本手首寄り
虫歯がないのに、歯が痛い
虫歯ではないのに歯が痛むときは、筋肉のしこり(トリガーポイント)が原因かもしれません。
押してみて、歯にひびくしこりが治療点なので、ひびきが弱まるまで、30秒間ほど持続圧迫します。
3~5秒間の圧迫を数回繰り返す方法や、しこりを1方向に横切るように10回ほどもむ方法も、有効なのでお試しください。
- 咬筋:下顎で、強く噛んだときに緊張する筋肉
- 顎二腹筋:顎のつけ根から舌の真下を通り、下顎の先までの筋肉で、えらのやや前方の骨のきわ
- 側頭筋:強く噛むと緊張するこめかみの筋肉で、目尻から指幅3~4本耳寄り
口の中に異常を感じたら、セルフチェックをしてみましょう
口の中に痛みをおこす病気やケガを見てきましたが、いかがでしたか。
あなたの口の痛みに該当するものは、ありましたか。
もし、その痛みや腫れ、できものなどが2週間以上続いているときは、専門医の受診をおすすめします。
特に中年以降の人は、痛みがなくても粘膜が白や赤に変色し、潰瘍やしこりがあれば、口の中のがんも考えられます。
口の中のがんは、自分で直接見て発見することが可能ながんの一つです。
40歳を過ぎたら、早期発見のために、月に一度は口の中をセルフチェックしましょう。
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