突然の首の痛みで目が覚め、動かすことができない……
誰もが経験する寝違えであれば、2~3日で治まる心配のいらない首の痛みのことが多いでしょう。
しかし、首の痛みの原因はさまざま、病気を知らせるサインの場合もあります。
首には大切な神経や血管、内分泌線があり、食道と気管が通り、首の骨と筋肉で頭を支えます。
首の痛みは、これらの何れかの部位に、異常が生じた結果かもしれません。
今回は、その中でも多くみられる頚椎や頚筋の病気を、原因から対処法まで詳しく解説していきます。
首のどこが、痛みますか?
首の前
のどぼとけの裏の喉頭(こうとう)に、声帯があります。
喉頭を患うと、声のかすれや息苦しさが生じます。
喉頭のうしろの咽頭(いんとう)に病気があると、のどの違和感や痛み、食べ物が飲みこみづらいといった症状がみられるでしょう。
扁桃腺やリンパ節が腫れると痛みますし、のどぼとけ(甲状軟骨)の下方にある甲状腺に炎症がおきると、ホルモンのアンバランスによる症状が現れます。
あごの下
顎下腺(がくかせん)や耳下腺(じかせん)、舌下腺(ぜっかせん)などの唾液腺が炎症を起こすと、腫れて痛みます。
顎下リンパ節が腫れたり、痛むこともあります。
首の横
首の横にある、胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)や斜角筋群(しゃかくきんぐん)、肩甲挙筋(けんこうきょきん)などを傷めると、動かしたり押すと痛みます。
首や腕にいく神経の通り道なので、障害を受けると、痛みやしびれが生じることも。
また、脳に血液を供給する重要な血管、総頚動脈の通り道でもあります。
首の後ろ
頚椎という7つの背骨があり、骨のトンネルには脊髄(頚髄)が走っています。
首の後ろで頭を支える大小の筋肉や頚椎、骨をつなぐクッションの椎間板や神経に障害がでると、痛みやしびれの原因になります。
どんな症状がありますか?
首が痛い
- 首を動かすと痛い……頸椎の疾患や首の筋肉などを傷めた可能性があります。
- 安静にしていても痛い……神経の炎症や筋肉などを酷く傷めた場合が多く、腫れや熱感を伴うこともあります。(しこりがあれば、腫瘍も疑われます)
- 触れたり押されると痛い……筋肉の損傷や、細菌により化膿した「せつ・よう」の可能性があります。痛みが強く、発熱することもあります。
- のどが痛い……飲み込み時に痛みがある場合は、咽頭や食道に炎症や腫瘍があるかもしれません。
首が腫れたり、しこりがある
リンパ節や唾液腺、甲状腺などの病気が疑われます。
リンパ節は、風邪や虫歯などで腫れますし、甲状腺の急性期は、飲み込む時に痛いことも。
良性や悪性の腫瘍も原因となるので、異常を感じたら専門医の診察を受けましょう。
首の痛みはさまざまな病気が考えられます
甲状腺の病気
バセドウ病、亜急性甲状腺炎、橋本病、甲状腺良性腫瘍、甲状腺悪性腫瘍など。
女性に多く、頻脈や多汗、痛みや発熱、腫れやしこりなどがみられます。
内分泌内科を受診しましょう。
リンパ節の病気
急性リンパ節炎、慢性リンパ節炎、リンパ節の腫瘍など。
腫れて、押すと痛いしこりは、急性リンパ節炎の場合が多いです。
急に大きくなり、押しても動きづらく、痛みのないしこりは、悪性も疑われますので、ご注意ください。
血液内科を受診しましょう。
唾液腺の病気
流行性耳下腺炎、耳下線腫瘍、唾石症(だせきしょう)など。
耳の下が腫れて痛む流行性耳下腺炎は、小児がかかる「おたふく風邪」です。
悪性の腫瘍は、痛みがあり、さわっても動きにくいのが特徴。
唾石症は、主に顎下腺に石が生じ、腫れて痛みます。
耳鼻咽喉科を受診しましょう。
下咽頭と食道の病気
悪性腫瘍は、喫煙者やアルコール多飲者に多く、首の違和感やつかえる感じ、飲み込み時の痛みなどが症状です。
異物(魚の骨や義歯など)の誤飲にも注意してください。
耳鼻咽喉科、気管食道科、頭頚部外科を受診しましょう。
皮膚の病気
せつ、よう、急性蜂巣炎(ほうそうえん)
黄色ブドウ球菌などに感染、化膿すると腫れて、痛みがでます。
高齢者や糖尿病患者など、免疫力が低下した人が発症しやすいですね。
蜂巣炎は、赤く腫れて痛みが強く、高熱がでることも。
皮膚科を受診しましょう。
突然首が痛む、その原因と対策は
突然首が痛くなったときに考えられる、原因と対策をみていきましょう。
一番多い、首の筋肉・関節・椎間板を傷めた場合
首の筋肉・関節・椎間板は、体重の約10%ある重い頭を支え、さまざまな方向に動かします。
悪い姿勢を長時間続けたり、重い物持つのに力んだりすると、これらに大きな負担がかかって、疲れたり傷めてしまいます。
さらに、加齢により首の筋肉が弱くなったり、関節や椎間板が変性をおこすと、首の痛みが生じやすくなります。
慣れない作業や激しい運動をした後は、首の筋肉の繊維が傷つき、筋肉痛をおこします。
パソコンやスマホなどで、猫背になり頭が前に出たり、下向きの時間が長いと首の筋肉が疲れて硬くなり、ちょっとした動作でも傷めることがあります。
また、枕が合わず首を曲げたまま寝ていると、硬くなった首の筋肉を寝返りや起床時に傷める「寝違え」が生じるでしょう。
スポーツや寝違えなどで首を強く捻ると、7つの頚椎(首の骨)がつくる関節の軟骨や靭帯、関節包を傷める「捻挫」がおこります。
さらに、首の椎間板が変性したり大きな負担がかかると、中心の髄核が後に飛び出し、神経を圧迫することがあります。
突然の首の痛みを早く治すコツ
突然、首が痛くなったら、まずは首に痛みを感じる姿勢や動作を避けてください。
重い物を持ったり、肩に重いカバンをかけるのもよくありません。
リュックサックのほうが、首への負担は少ないですよ。
首が熱っぽいときは、短時間のアイシングや冷湿布を使用してもよいでしょう。
温湿布や使い捨てカイロなどで、首を温めないでください。
熱い風呂は避け、ぬるめの湯にさっと入るか、シャワーだけにしましょう。
首の痛みが軽くなってきたら、ぬるめの風呂でゆっくりと温めて血行を良くすると、治りやすいですよ。
アルコールは、首の炎症を悪化させるので、控えたほうがよいです。
首の痛いところを揉んだり押したりすると、炎症がひどくなり痛みが強くなります。
痛いときは、無理なストレッチも止めましょう。
首にタオルやマフラーなどを巻き付けて、頚椎カラーのかわりにすると、首の安静が保てるのでおすすめです。
安静にしていても我慢できないくらい首の痛みが強いときは、整形外科を受診しましょう。
首の痛みと手足の痺れが出たら要注意!
首の痛みに手足の痺れを伴うときは、中年以降に増える頚椎の疾患の可能性があります。
首の神経が圧迫される疾患に要注意
首の痛みやコリに悩まされる人は、全国で1千万人とも言われています。
そのうち約9割は一過性で心配いらない首の痛みのことが多いでしょう。
しかし、約1割の患者さんは、首の疾患が原因の痛みかもしれません。
首の疾患では、頚椎症や頚椎椎間板ヘルニア、後縦靱帯骨化症などが多くみられます。
いずれも首の神経が圧迫されて、さまざまな症状が生じます。
<グーパーで、セルフチェック>
神経の圧迫があるか見分ける、簡易的な方法をご紹介します。
【腕を伸ばして、素早くグーとパーを、10秒間繰り返してください】
10回以上できない場合は、神経が圧迫されているかもしれません。
20回以上できれば、圧迫は無いとされているので、目安にしてください。
治療は保存療法と生活習慣の改善
首の痛みの治療は、軽症であれば保存療法が選択されます。
薬物療法や理学療法、神経ブロック療法などが行われます。
さらに、治療と併せて生活習慣の改善も重要になってきます。
洗濯物干しなど上を向く姿勢は、神経の通り道が狭くなるので、注意が必要です。
また、長時間下向きの作業やゲームなどは、首に負担がかかるので避けましょう。
仕事中は姿勢に気をつけ、まめに休憩をとるようにしてください。
急性期の安静時以外は、痛くない程度に体を動かすよう心掛け、痛みが軽くなってきたら、筋トレやストレッチ、ウォーキングなどの適度な運動をしましょう。
枕や寝具が、ご自身の体に合っているかのチェックもお忘れなく。
顎が少し上がる程度の高さの枕と、寝返りしやすい寝具がおすすめです。
安静にしても首の痛みが2週間以上続いたり、手や足に痺れが生じ、細かい動作がしづらいときは、整形外科を受診してください。
特に、首に強い痛みと高熱があるときは、細菌感染の可能性があるので、病院へ急ぎましょう。
頚椎や頚筋の病気を詳しく解説
首の痛みの原因となる、骨や関節、靭帯や筋肉の疾患を解説します。
症状があれば、整形外科を受診しましょう。
頚椎捻挫(むちうち症)
自動車の衝突などで、頭が前後に大きく動き、首が鞭のようにしなり、受傷します。
首の筋肉や靭帯、椎間板などを傷め、首や肩の痛み、頭痛や吐き気、めまいや耳鳴りなど、症状は多彩です。
頚椎カラーによる安静や、薬物療法(消炎鎮痛薬、精神安定薬など)、理学療法(牽引、温熱、電気、マッサージなど)で治療します。
症状が長期化した場合は、外傷性頚部症候群と診断されることも。
長期間の安静が原因なので、受傷後2~4週間の安静の後は、ストレッチを中心とした体操を積極的に行います。
変形性頚椎症(へんけいせいけいついしょう)
年齢と供に、首の骨が変形したり、椎間板(骨の間のクッション)がつぶれて、首や肩から背中が痛むといわれています。
首を動かすと痛みが強くなりやすく、特に首を後に反らすと悪化、頭痛や吐き気を伴うこともあります。
長時間の仕事や同じ姿勢も負担になるので、避けましょう。
治療は、薬物療法やトリガーポイント注射、理学療法などの保存療法、頚椎カラーによる安静が指示される場合もあります。
中年以降に多い疾患ですが、X線で変形が認められても、症状がない人もいます。
頚椎症性神経根症(けいついしょうせいしんけいこんしょう)
脊髄から手へ伸びる神経のつけ根「神経根」が、加齢により変化した椎間板や骨によって、圧迫されて起こります。
首の後から背中や腕が痛み、上を向くと悪化、腕や手指にシビレが出ることも多いです。
中年以降に発症しやすく、特に60歳ごろから増えてくるでしょう。
日常生活で、首を後方へ反らせないように気を付け、薬物療法や理学療法、ブロック療法などにより治癒しやすいです。
筋力の低下や強い痛みが長期間続く場合は、手術が検討されます。
頚椎症性脊髄症(けいついしょうせいせきずいしょう)
加齢により骨や椎間板が変化して、首の骨のトンネルを通る脊髄が圧迫され、首や肩の痛みが出始めます。
やがて、手や指のしびれや、手の巧緻運動(ボタンかけ、箸、書字など)に支障がでます。
進行すると、触覚や痛覚が低下し、足がもつれたり、階段が昇降しづらく、排尿障害を伴うことも。
MRIで診断、保存療法を施しても、症状が進行する場合は、手術が検討されるでしょう。
頚椎椎間板ヘルニア
加齢により、椎間板が後方に飛び出して、神経根や脊髄を圧迫して発症します。
首や肩、腕に痛みやしびれが出たり、巧緻運動や歩行に障害が出ることも。
MRIで診断、保存療法で改善せず、生活に支障が出る場合、手術が検討されます。
中年以降に多い疾患ですが、20~30歳代でも見られ、頸椎症より発症が急激で、痛みがより強いことが特徴です。
後縦靱帯骨化症(こうじゅうじんたいこっかしょう)
首の骨をつなぎ補強する、脊髄の前の後縦靭帯が、骨のように硬くなり、脊髄を圧迫して発症します。
首の後の痛み、上肢の痛みやしびれで始まり、脚のしびれや感覚の障害、巧緻運動や歩行の障害が出るようになります。
30歳代から靭帯の骨化が進み、50歳ごろから発症することが多いです。
X腺やCT、MRIで診断、生活指導や保存療法で改善せず、進行性の場合などは、手術が検討されるでしょう。
頚肩腕症候群(けいけんわんしょうこうぐん)
首や肩、背中や腕の痛みやしびれ、筋肉のこわばりがあり、頭痛やめまいがあらわれることも。
デスクワーク、スマホなどの悪い姿勢や無理な体勢で、筋肉が疲労して起こります。
生活習慣や姿勢の改善、運動療法や温熱療法で改善しなければ、薬物療法や理学療法、トリガーポイント注射などが施されます。
体に合わない枕やストレスも原因になるので、ご注意ください。
首の痛みには、このツボ
寝違えには、特効のツボ「落枕(らくちん)」
手の甲側で、人差し指と中指のこぶしの間から、手首に1cm近づいたくぼみ、押すと首に響くところです。
すばやく1秒間押して、パッと離す要領で、断続的に指圧を繰り返します。
押している間に、首をゆっくり動かすと、楽になりやすいですよ。
首のこりに、万能ツボの「合谷(ごうごく)」
手の甲側で、親指と人差し指の骨の付け根で、やや人差し指よりの押して響くところ。
痛気持ちいい強さで、3~5秒押しては、ゆるめるを3分間繰り返してください。
肩こりや、手のしびれにも効きますよ。
外関(がいかん:手の甲側、手首の中心から肘へ指3本分のところ)、曲池(きょくち:肘の内側の横じわの親指側先端)も有効なので、お試しください。
寝違えには、この方法もおすすめ
SMTテクニック開発者の鈴木一登先生おすすめの、寝違え対処法です。
- 脇の下の後側、肩甲骨の外側の筋肉を反対側の指でつまみます
- 下から上に探っていき、硬い部分を圧迫したまま、首をゆっくりと数回左右に回します
- 反対側の脇の下も、同様に行ってください
- 次に鎖骨の下の筋肉を探り、硬い部分をみつけてください
- 脇の下と同様に、圧迫したまま首をゆっくりと回し、反対側もおこないます
- 脇の下と鎖骨の下を、3回繰り返して終了です
※詳しい方法は、コチラの動画をご覧ください。
首の筋肉を傷めたときは、テーピングが有効
寝違えなどで、首の筋肉を傷めたときは、伸縮性のテープを貼ると楽になります。
ドラッグストアなどで入手できる「キネシオテープ」などの、伸び縮みするテープを使用します。
テーピングにより、関節の動きを適度に制限し、筋肉の働きを助けて筋肉を保護するので、症状緩和が期待できます。
首を左右に倒すと痛いときは、中斜角筋テープ(2.5cm幅テープ:長さ15cm)
- 左首が痛い場合は、右側に首を倒します
- 左首の側面で耳の下、顎のつけねにテープの一端を貼ってください
- 首の側面に沿って、鎖骨の外側に向けて貼っていき完成です
(右首が痛いときは、左側に首をたおして、右首に貼りましょう)
首を左右に回すと痛いときは、前・後斜角筋テープ(2.5cm幅テープ:長さ15cm)
- 左首が痛い場合は、テープの一端を左首の側面の中間に、背中に向けて貼ります
- 首を少し前に倒し、右側を向いてください
- テープを肩甲骨に向け、背骨と平行に貼って完成です
(右首が痛いときは、左側を向いて、右首に貼りましょう)
- 左首が痛い場合は、テープの一端を左首の側面の上部に、鎖骨に向けて貼ります
- 首を右側に倒し、左側を向いてください
- テープを左鎖骨の中央に向けて貼り完成です
(右首が痛いときは、首を左側に倒し、右側を向いて右首に貼りましょう)
首を前後に曲げると痛いときは、後頚筋Y字テープ(5cm幅テープ:長さ15cm、切れ込み10cm)
- 首を前に倒し、首の後の骨の出っ張りより少し上に、Y字テープの切れ込みのない一端を下向きに貼ります
- 切れ込みを入れた側のテープを、背骨を挟むように、それぞれ貼っていき完成です
テープは引っ張らずに、肌の上に置くように貼ってください。
痒くなければ、2日間くらい貼っておけます。
お風呂でテープが濡れたら、ドライヤーか乾いたタオルで叩いて、テープを乾かしてください。
痒みがでたり、症状が悪化するときは、使用を中止してください。
安静にしても治らず、いつもと違う症状があれば病院へ
首の痛みの原因となる主な疾患をご紹介しましたが、いかがでしたか。
他に高血圧やうつ病、狭心症や心臓発作、がんの頚椎転移なども原因の場合があります。
普段と違う痛みや腫れ、しびれや熱感などがみられたら、病院で診てもらいましょう。
特に、頚椎や脊髄の疾患が疑われる場合は、脊椎脊髄病専門医の受診をおすすめします。
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