“マムシ”斎藤道三の娘 織田信長正室 濃姫の実像とは?







美濃の斎藤道三の娘にして戦国三英傑のひとり織田信長の正室《濃姫》は、謎の多い女性です。

謎が多い理由は、濃姫に関する史料や文献が少ないことです。後世の織田信長ファンが尾ひれ尻びれのついた話をでっち上げたとか、豊臣秀吉や徳川家康が自分にとって都合のよろしくない資料を処分させてしまったからであるとも言われています。

赤鬼とも称されるほど気性が荒く、厳しい織田信長と長年添いとげた濃姫の実像についてお話を展開しましょう。

 

斎藤道三の娘 濃姫(帰蝶)

 

織田信長の正室の濃姫はマムシの二つ名がつくほどしぶとい斎藤道三の娘で、斎藤家と織田家の政略結婚のために織田信長に嫁ぎました。

濃姫と呼ばれるので、名前はお濃さんなのではないかと勘違いする方もいるかと思いますが、濃姫の本名は帰蝶(きちょう)という可愛らしい名前です。

濃姫の由来は「美”濃”から嫁にきた”姫”」ということで、織田信長が考えたとされています。

 

織田信長は家臣たちに「赤鬼」と呼ばれるほど、気性が荒く、厳しい殿様だったようですが、そんな彼に長年添い遂げた濃姫もとい帰蝶という女性はどのような女性だったのでしょう?

今回は「織田信長正室 濃姫(帰蝶)の実像」をテーマとしてお話ししましょう。

 

輿入れ前夜の強気発言

 

お姫様がお嫁にいく(結婚する)ことを輿入れと言います。

輿入れは武家の通過儀礼で、結婚式当日には輿に乗り、豪華な嫁入り道具、行列とともに新郎の待つ嫁ぎ先へ移動します。

その前夜には、両親の目前で三つ指をついて拝礼し、今まで育ててくれたことに対する感謝の言葉、並びに嫁いでからの抱負を口上(決意表明)することが慣例でした。

これからお話するエピソードは斎藤道三と濃姫の輿入れ前夜のものです。

 

濃姫は例のごとく斎藤道三の寝室にて拝礼し、感謝と結婚後の抱負を口上しました。

斎藤道三はというと恥ずかしかったのか、このときは濃姫に背を向けて腕を組みながらそれを聞いていたそうです。

 

斎藤道三「帰蝶よ、お前に父から贈り物がある」

 

斎藤道三は振り返り様にそう言うと濃姫の前にしゃがんで懐から一振りの懐刀を取り出しました。その懐刀は黒塗りで、柄と鞘に金色の蝶の絵があしらわれていました。

 

斎藤道三「折あらば、これで信長を討てっ」

 

濃姫はその懐刀を受け取ると、強気な返答をしました。

 

濃姫「わかりました。されど、この懐刀は父上を刺すことになるやも知れません」

 

なんということでしょう?

相手は油売りから戦国大名へと下克上を果たした斎藤道三です。娘とはいえ、一国一城の主にここまで強気な発言をできる人はなかなかいません。

 

濃姫は信長も折れるほどの肝っ玉の持ち主

 

信長は斎藤道三の死後、その息子の斎藤義龍とも孫の斎藤龍興とも戦をして何度か濃姫の実家を攻撃しました。

ついに斎藤龍興は籠城戦を展開したのですが、むなしくも軍配は織田軍に上がりました。

敗戦国は戦の代償として、経済的制裁や人質の強要、臣従などを受け入れなければなりません。

斎藤龍興は濃姫の兄義龍の息子で信長にとっても甥っ子にあたります。

その妻に対し、信長は斎藤龍興が所有していた希少な壺を所望しました。

すると龍興の妻は「戦でごたごたしていたので、どこにしまったのかわかりません」と答えました。

これが信長の導火線に着火してしまいました。

 

「嘘つくな小娘っ」

と怒鳴った信長の顔は「赤鬼」を彷彿とさせる恐ろしい形相でした。そして、おびえている義理の姪を殺せと家臣に命じました。

それを見ていた濃姫は躊躇なく信長の前にズカズカと進み出て「信長殿がこの子を殺めよというのならば、私が先に死にます」と言って懐刀を取り出しました。

 

信長がギョッとしているのもつかの間、家臣たちが我も我もと濃姫に続いて自刃しようとしました。

信長は瞬時に義理の姪の命と妻+家臣の命を天秤にかけ、信長が折れるかたちでこの一件を落着させました。

 

信長LOVEが止まらない

 

織田信長と濃姫が結婚したのは西暦1548年の2月、信長が15歳、濃姫が14歳のころでした。

当時織田信長は政務に精を出さず、やっていることといえば女形の踊りや不良行為、さらには城下町に出かけて食べ歩きなどをして領民や家臣たちからは「うつけ殿(バカ殿)」と呼ばれていました。

しかし、新婚ホヤホヤの濃姫はそのように思っておらず浮気をしているかもという疑いを持ちました。

そしてある日、外出しようとしている信長の袖を引いて「私もついていきたい」というようにお願いをしたそうです。

信長はあっさりこれにOKし、従者のそばを離れないという条件で外出に連れていくことにしたのです。

 

濃姫の疑いはすぐに晴れました。

信長が行っていたのは水泳や乗馬、剣術の練習。

地図の作成や食べられる草花の採取、保存食の実験などをしていたのです。

 

これ以降、信長は濃姫を外出に連れて行くようになりました。いわゆるデートです。

正式な記録としては、信長の祖父と父が代々所領した津島という漁港のお祭りに濃姫を連れて参加した記述があります。

また、このとき従者として付き従っていたのは若かりしころの池田恒興と丹羽長秀だったそうです。

 

濃姫は母親になることへの憧れがあった

 

ゲームやドラマで描かれる濃姫は妖艶でおしとやかな女性ですが、実際はちょっと天然な一面ももっていたそうです。

濃姫のいちばんの悩みは正室でありながら信長との世継ぎを産めていないことにありました。

実際、信長が嫡長子の信忠を授かったのは22歳のころ。濃姫と結婚して7年が経過しています。

信忠を産んだのは側室の乃(きつの)さんという女性で、元未亡人の方でした。

乃さんは結婚して間もなく夫を亡くし、身寄りがなくなっているところを信長が不憫に感じて側室に迎えた女性でした。信長よりも6歳年長で、慎み深く落ち着いた女性でした。

 

信長は濃姫を正室として立てていた部分があり、気配りを怠らなかったと伝えられています。それ故、乃さんが妊娠したときは濃姫の顔色をうかがっていました。

また、乃さんは物分かりがよい女性で、嫌味にならないよう妊娠したからは極力濃姫に近づかないよう配慮していました。

ところが、意外にも濃姫から信長に「乃さんと赤ちゃんに会う機会を作ってください」と頼んだそうです。

 

濃姫と乃さんが対面する当日、乃さんが幼名奇妙こと信忠を抱いた乳母と一緒に濃姫に会いにいきました。

信長は心配してこの場に同席し、ケンカが始まらないか内心ハラハラしていました。

濃姫はメラメラと嫉妬心を燃やすことなく世間話から切り出して出産時の感想や奇妙(信忠)のことを質問しました。

そしてついに「私も母親の気分を味わいたいので、赤ちゃんを抱かせてほしい」と乃さんに頼んだそうです。

 

乃さんはこれに承諾して奇妙(信忠)を差し出したのですが、周りにいる家臣や信長は嫉妬のあまり奇妙(信忠)に危害を加えないか気が気ではありません。

幸い濃姫に抱かれた奇妙(信忠)は泣き出すことなく濃姫の顔を見てキャッキャッと笑っていたそうです。

 

すると濃姫は「かわいい男の子じゃっ、信長殿に似ておる」と喜びました。

続いて「赤ちゃんを1日貸してくだされ」とお願いしたそうです。

信長は「そろそろ返してやれ」と声をかけたのですが、「いやです」と断られ濃姫の視線は乃さんに注がれました。

正室にここまでせがまれると断るわけにはいきません。

乳母が奇妙を取り返そうと伸ばした手を乃さんが制止すると、濃姫は急に立ち上がってまだ首の座っていない奇妙を抱きかかえ、小走りで城中を練り歩きました。

 

乃さんはこの後も信長の次男と長女を出産します。

第3子を出産して数年後、乃さんは病気のためこの世を去るのですが、そのとき濃姫が信忠を養子として迎えました。

信長が「お前の子ではないのにすまないな」と謝ったとき濃姫は「腹を痛めずに子が授かりました、私って幸せ者ですね」と笑ってみせたそうです。

 

怖気づく信長に痛烈な喝を入れる

 

織田信長は桶狭間の戦いに出立する前夜、とてつもない不安に襲われました。

何を隠そう桶狭間の戦いの相手は甲斐の虎武田信玄、越後の龍上杉謙信と肩を並べる今川義元です。

このとき織田信長はまだ尾張という小国を統一したばかりの小大名で、対する今川軍とは圧倒的な兵力差がありました。

家臣の前では常に強気で赤鬼を演じきっている織田信長でさえ恐怖を感じ、つい最愛の妻に対して次のような弱音を吐きました。

 

「此度の戦、死ぬやも知れぬ」

 

すると濃姫と織田信長の間では次のようなやりとりがありました。

 

濃姫「信長殿は死にませんよ」

織田信長「なぜそう言える?」

濃姫「あなたは私の手で殺すからです」

織田信長「ほほう、左様なら濃の手にかかるために、俺は生きて帰らなければならんな」

 

数日後、絶望的な逆境のなか織田軍は数倍の兵力差がある今川軍に勝利しました。

桶狭間の戦いは織田信長の名前を世に知らしめるキッカケとなった戦です。

もし、濃姫に一喝されていなかったら雨降る夜に野生の勘で飛び出す織田信長の姿はなかったかもしれません。

 

まとめ

 

織田信長正室の濃姫の実像は、強気なお転婆娘といったほうが良いかもしれません。

私の大好きな真・戦国無双や信長の野望などのゲームに出てくる濃姫のイメージとは明らかにかけ離れていて、親近感さえ覚えます。

夫婦はよく似ると言いますが「赤鬼」とあだ名された信長に付き合いきれるのは、それに引けをとらない強気っぷりを誇る濃姫だたひとりなのではないでしょうか?










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