肋骨を骨折したみたいだけど、放置してもいいの?
肋骨を傷めると、咳や深呼吸、笑うだけでもかなり痛いですよね。
でも、肋骨骨折の治療って、湿布と安静だけなのでは……
肋骨の痛みに思い当たる原因がない場合、病院に行こうか迷ってしまう人も多いことでしょう。
そこで今回は、「肋骨骨折の治療は放置?」の疑問にお答えしていきます。
また、放置以外の治療法やリハビリ、こわい合併症の詳細もお届けします。
肋骨骨折のセルフケアに最適なテーピングもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
肋骨骨折とは?肋骨骨折の特徴と症状
肋骨は折れやすく、咳やくしゃみ、深呼吸などで痛みます。
肋骨骨折は、胸部のケガで最も多いとされています。
中高年以降は、弱い力で肋骨が折れることもある
胸郭(きょうかく:胸部の骨格)をつくる肋骨は、一番上の第1肋骨から第12肋骨まで左右12対あり、心臓や肺などの臓器を保護し、呼吸運動に関与します。
肋骨は外傷を受けやすい位置にあるので、骨折がとても多く発生し、全骨折の10~20%との報告もあります。
肋骨骨折は第5~8肋骨に好発、特に第7肋骨に多くみられ、第1・2・11・12肋骨の骨折は少ないでしょう。
交通事故やスポーツ中のケガ、転倒してテーブルや椅子、浴槽などのカドに肋骨をぶつけて折れることが多いです。
特に更年期以降の骨粗鬆症の人は、ごく弱い力や激しい咳でも、肋骨が折れることがあるので注意しましょう。
ちなみに幼少期は、肋骨が弾力性に富むため、骨折することはまれです。
ヒビだけで骨のズレがない、不全骨折の症状
肋骨の不全骨折は、一般的に2週間で痛みがとれ、3~4週間で治癒します。
肋骨に沿って、骨折部の圧痛(押したときの痛み)や、前後や左右から肋骨を両手で挟み圧迫したときの痛みがみられます。
骨折部には皮下出血(あざ)や腫れが生じ、骨折側の腕を動かしたときや深呼吸、咳やくしゃみで肋骨の痛みが強くなるでしょう。
骨折部の骨が離れてしまう、完全骨折の症状
肋骨の完全骨折は、一般的に3週間で痛みがとれ、4~6週間で治癒します。
不全骨折の症状に加え、呼吸が浅く、突然咳きこむことがあります。
骨折部のズレが大きいときは、触れると患部が変形しており、深呼吸でギシギシ・グズグズといった軋轢(あつれき)音を触知できるでしょう。
軋轢音は、患者自身も起床時やせき、上体を動かしたときなどに感じることがあります。
胸から背中の広範囲に痛みがあり、息苦しいときは、内臓の損傷が疑われますので、専門医を受診してください。
まずは、近隣の整形外科を受診し、必要があれば各専門医を紹介してもらうとよいでしょう。
※日本整形外科学会 専門医を探す http://www.joa.or.jp/search_doctor.html
受傷原因により、肋骨の折れ方が異なります
墜落や衝突などで肋骨に直接力が加わった場合は、胸郭の内方に向かって曲がる骨折になり、内臓が損傷を受けやすいです。
前後や左右から挟まれるように圧迫された場合は、胸郭の外方に向かって曲がる骨折になります。
激しい咳やくしゃみ、分娩や嘔吐、ゴルフスイングなどの身体運動で、肋骨に付く筋肉が強い力で急に縮んだとき、付着部で骨が引き裂かれる「剥離骨折」をおこすことがあるでしょう。
肋骨に弱い力が繰り返し加わり折れる、「疲労骨折」も多発します。
ゴルフや野球のスイング、投球動作や剣道の素振り、長引く激しい咳などでも受傷するので、ご注意ください。
※肋骨骨折の詳細は、こちらの記事も参考にしてください。
「ぶつけた覚えがないのに、あばらが痛い!もしかしたら肋骨骨折かも?」
肋骨骨折に気づかずに放置したらどうなるの?
肋骨骨折の痛みが軽い場合は、打撲や肋間神経痛などと勘違いして、放置してしまうケースもあるでしょう。
特に思い当たる原因がはっきりしない疲労骨折では、『肋骨を骨折した』という自覚がないかもしれません。
また、骨が弱くなっている高齢者では、室内のどこかに肋骨を軽くぶつけて骨折しても、覚えていないことが多いものです。
日常生活での寝返りや、横の物を取るなどの身体を捻る動作、せき・くしゃみなどが原因の場合は、まさか肋骨が折れているとは思わないでしょう。
骨折に気づかない程度の肋骨の損傷で、合併症がなく、強い外力による大きな転位(骨のズレ)がなければ、肋骨骨折は自然に治癒します。
しかし、放置すれば骨折部に負担がかかったり、不安定になり、痛みがしつこく続くことも多いでしょう。
骨折の保存療法では、固定をして患部の安静を保つことで骨癒合(骨がつく)を早め、痛みを消炎鎮痛剤などでコントロールします。
したがって、肋骨骨折を放置すると、軽症であれば自然治癒しますが、病院で治療を受けた場合と比べ、痛みや骨癒合の期間は長びくと考えられます。
肋骨骨折を放置しても良いの?ダメなの?
放置も選択肢の一つですが、合併症が疑われたら病院に急ぎましょう。
軽症であれば放置もアリ……でも固定した方が楽!
軽症の肋骨骨折で、痛みを我慢できるのであれば、放置しても良いかもしれません。
しかし、できれば固定や湿布をした方が、楽に過ごせますし、痛みも軽くなるのは間違いありません。
肋骨のヒビや打撲程度であれば、ドラッグストアやネットなどで手軽に入手できる、胸部固定帯(バストバンドやリブバンドなど:1,500~2,000円前後)で固定することをおすすめします。
こんな肋骨骨折は放置してはダメ!こわい合併症
強い外力により受傷した肋骨骨折に生じる、絶対に放置してはいけない合併症をみていきましょう。
原因は、交通事故や転落、刺し傷や切り傷などで、X線などの検査と入院治療が必要な場合が多いです。
フレイルチェスト(動揺胸郭)
1本の肋骨が2ヶ所以上で折れ、それが連続する2本以上に及ぶ場合、胸部が支持されず動揺性胸郭となります。
骨折による不安定な部分が、息を吸うとき凹み、息を吐くとき出っ張る、奇異呼吸が特徴です。
胸の痛みや呼吸困難、チアノーゼや皮下気腫(肺から漏れた空気が皮下に溜まる)などがみられます。
呼吸時の激しい痛みのため呼吸障害をおこし、低酸素血症や高二酸化炭素血症、無気肺(肺がつぶれた状態)や肺炎などを合併することもあります。
肺を損傷していることも多く、重症例ではショック症状があらわれ、生命に危険がおよぶこともあります。
フレイルチェストが疑われたら救急搬送が必要ですが、救急隊が来るまでの間、患部に厚手のタオルを当て、患側の胸から背中までテープで固定するとよいでしょう。
X線やCTなどで検査、人工呼吸療法により内側から骨折部を固定したり、手術による外固定が検討されます。
外傷性気胸
外傷性気胸では、胸の痛みと突然の咳や呼吸困難におそわれます。
肋骨骨折により損傷を受けた肺から、胸腔(肺と肋骨の間)に空気が漏れて溜まり、肺が縮んでおこる症状です。
空気が大量に漏れる重症の気胸(緊張性気胸)では、心臓が圧迫されて血圧が低下し、ショック症状に至ることも。
胸部X線やCT検査などで診断、胸腔に貯まった空気を吸い出す処置が施されます。
注射針や細いカテーテルで吸引したり、肋骨の間からチューブを挿入(胸腔ドレナージ)し持続的に装置で吸引する処置がされるでしょう。
肺の損傷が大きい場合、出血による血胸の治療も必要になります。
血胸
肺や心臓、血管の損傷により、胸腔内に血液がたまり、胸痛や呼吸困難、発熱やチアノーゼなどが生じます。
大量に出血(全血液量の20%以上)し、出血性ショックをおこした場合は、緊急処置が必要になります。
早期は、不安感、冷や汗、呼吸が浅く速くなる、末梢の脈が弱くなる、手足が蒼白く冷たくなるなどの症状があらわれるでしょう。
急激に血圧が低下して、意識障害や呼吸不全をおこし、多臓器不全に至る場合もあるので、細心の注意が必要です。
胸部X線検査で診断、胸腔ドレナージで胸腔に貯まった血液を吸引しますが、重症例では手術が検討される場合もあります。
子供や若年成人の内臓損傷
胸郭が弾力性に富むため、大きな外力が加わったときに、肋骨の変形を伴わず内臓を損傷することがあるので、要注意です。
腎損傷、膀胱破裂
第11・12肋骨を強打したときに受傷し、腹痛や血尿がみられます。
肺の疾患
肋骨の痛みにより十分に息が吸えないために、肺炎などをおこしやすくなります。
肺の疾患を予防する目的で、1時間毎に深呼吸か咳をするように指示されるでしょう。
骨折部に手のひらやクッションを当てると、深呼吸や咳をしたときの痛みを軽減できます。
また、心臓・気管・横隔膜の損傷、胸膜炎などの合併症がおこることもあります。
肋骨骨折による死亡例は、内臓や血管の損傷、肺炎によりもたらされます。
肋骨骨折の合併症が疑われたら、早期に専門医による適切な治療を受けましょう。
放置以外の肋骨骨折治療は?
合併症のない肋骨骨折の、整形外科での治療とリハビリを解説します。
肋骨骨折治療は、バンド固定と消炎鎮痛剤
骨折治療の基本は固定ですが、呼吸により常に動いている肋骨は、完全な固定が難しいので、治療においては不利といえます。
しかしながら、肋骨はきわめて骨折が治りやすい組織なので、軽症であれば放置しても骨はつきます。
治療の目的は、骨癒合を早め、今現在の痛みをとり、肋間神経痛などの後遺症を残さないこととなります。
患部の安静を保つために、マジックテープで着脱が容易な、胸部固定帯(バストバンドなど)で固定します。
就寝時以外は、息苦しくない程度の強さで装着し、肋骨の痛みが落ち着くまで続けます。
急性期で寝ていても痛みが強いときは、ゆるめにバンドを巻いて就寝してもよいでしょう。
肋骨骨折の痛みには、消炎鎮痛剤の内服や湿布・塗り薬、痛みが強い場合は肋間神経ブロック注射が施されるでしょう。
日常生活では、上体をひねったり重い物を持ち上げるなど、肋骨骨折部に痛みを感じる動作を避けます。
骨が弱っていて肋骨を骨折した患者さんは、骨粗鬆症の治療も並行して行われます。
合併症や高度の転位(骨のズレ)がなければ、肋骨骨折で手術が検討されることは、ほとんどありません。
リハビリは、筋力低下や関節可動域と肺機能低下の改善を目指します
肋骨を骨折すると体を動かしたときに痛むので、どうしても関節の動きが悪くなり、筋肉が弱くなります。
肋骨骨折の治療中は、骨折部に負担のかからない範囲で、ストレッチと筋肉トレーニングを行いましょう。
リハビリはやり過ぎたり、ひどく痛いのを我慢して無理に行っては、逆効果になりかねません。
運動は、主治医や理学療法士の指示に従い、下肢と肘や手関節を中心に少しずつ始め、徐々に強度を増していきます。
特に肩関節の運動は肋骨の痛みを伴うので、より慎重に行ってください。
また、肋骨の痛みによる浅い呼吸は肺炎などの原因となるので、呼吸法の指導も受けて訓練しましょう。
肋骨骨折の治療後は、衰えた心肺機能と体幹の筋肉のリハビリを行います。
速足や大股のウォーキング、軽いジョギングなどで、少し息が弾む程度の運動から始めます。
また、腹筋や背筋、股関節の筋肉のストレッチと筋トレも重要なので、主治医と相談しながら行ってください。
健常者のリハビリは肋骨骨折受傷から、1~2ヵ月での重労働やスポーツ復帰を目標にするとよいでしょう。
入院治療を受けた高齢者では、廃用(長期安静による心身の機能低下)の予防と日常生活への復帰を目指します。
肋骨骨折の後遺症は、肋骨の変形、肋間筋の痛み、肋間神経痛、肺活量の低下などです。
後遺症が残らないように、早期から主治医に対処法などを相談しましょう。
肋骨骨折のセルフケアは、テーピング!
軽症の肋骨骨折や、治療後も肋骨に痛みが残るときは、テーピングが有効です。
伸縮性のテープ(キネシオテープなど)は、肋骨の動きをある程度制限して、痛みを和らげます。
また、血液やリンパ液の循環が良くなるので、肋骨骨折の治癒を早める効果が期待できますね。
テープは、ドラッグストアやネットなどで入手できる、5cm幅の伸縮性のテープを使用します。
長さ15cmのテープを1枚、10cmのテープを3枚用意してください。
- 肋骨が痛む側の腕を挙げて、上体を起こします
- 骨折部が15cmテープの真ん中にくるように、ほぼ真横に貼っていきます
- 骨折部が10cmテープの真ん中にくるように、縦に15cmテープと直角になるように貼りましょう
- 縦に貼った1枚目の10cmテープの右側2分の1に重ねるように、2枚目の10cmテープを縦に貼ります
- 次に左側2分の1に重ねるように、3枚目の10cmテープを縦に貼り完成(1枚目の10cmテープは隠れます)
※テープにカブレにくい人は、テープの中心を軽く引っ張って貼るとより効果的です(テープの端は引っ張らないでください)
肋骨骨折の治療後も肋間神経が痛むときは、長さ40cmのテープを1枚用意してください。
- 肋骨が痛む側の腕を挙げて、上体を反対側にひねります
- テープの1端をみぞおちの横(骨折側)に貼ります
- そのまま痛む肋骨に沿って、テープを引っ張らずに、背中に向けて貼っていきましょう
- 腕を降ろしたとき、テープがわき腹をはさんで、U字型に貼れていれば完成です
テープは、痒くなければ2~3日、貼っておけます。
入浴してテープが濡れたら、乾いたタオルで叩くか、ドライヤーで乾かしてください。
痛みが強くなったり、痒みやカブレがみられたら中止してください。
※スポーツ復帰を目指す人は、コチラのテーピング動画も参考にしてください。
トワテック リサーチ キネシオロジーテープ貼り方講座
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肋骨骨折は、合併症と類似疾患の鑑別が重要!
軽症の肋骨骨折は、放置しても自然と治りますが、病院で治療した方が早く楽になります。
肋骨骨折は整形外科での治療も勿論大切ですが、何よりも合併症の鑑別が重要と言えます。
肋骨の痛みが咳やくしゃみで強くなり、肋骨の上に指を置き、その上から軽く叩いて響けば、肋骨骨折を疑ってもよいでしょう。
肋骨骨折の合併症は、専門医にしか診断できません。
また、胸の痛みや呼吸の異常を感じる類似疾患(心臓や血管、神経などの病気)も多く存在します。
肋骨を傷めたあとに、息苦しい、咳や痰がでる、冷や汗や吐き気などの異常が見られたら、放置してはいけません。
迷わず近隣の専門病院へ急ぐことを、強くおすすめします。
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