ぶつけた覚えがないのに、あばらが痛い!
それは、もしかしたら肋骨の骨折かもしれません。
とくに40代以降の人では、弱い力でも骨折しやすいケガのひとつです。
肋骨はとても治りやすい骨ですが、受傷の仕方によっては、こわい合併症もあります。
さらに、胸の痛みの原因は肋骨骨折だけでは、ありません。
放置してはいけない病気やケガも……。
「あばらが折れてるかも?」とご心配のかたにお知らせしたい、肋骨骨折の原因や症状と治療、そして他に疑われる病気などを解説していきます。
肋骨は折れやすいので、特に中年以降は気をつけましょう
肋骨は左右12対あり、かご状に内臓を取り囲んで、胸郭(きょうかく)を形づくり、一番上が第1肋骨、一番下を第12肋骨と呼びます。
胸の前の骨(胸骨)とは肋軟骨で、背骨とは肋椎関節(ろくついかんせつ)で、つながっています。
肋骨は、心臓や肺、肝臓や脾臓、腎臓の一部を保護し、呼吸をする時に働きます。
肋骨骨折は、胸のケガでは最も多く、全骨折の10~20%を占める、発生頻度の高い骨折です。
更年期を過ぎた女性に多発しやすく、寝返りや激しいせきでの発症もしばしば見られます。
肋骨は、折れても骨がつきやすい組織ですが、呼吸運動で常に動いているため、固定による安静が保ちにくいという特徴があります。
しかし、骨がずれていなければ、放置しても自然に治る場合が多いでしょう。
もちろん、適切な治療を受けた方が、早く痛みがとれて治りますので、肋骨の骨折が疑われたら、整形外科を受診するようにしましょう。
若者はスポーツや交通事故が原因、年配者は疲労骨折にご注意
大きな外力による肋骨骨折は、重症になりやすいです。
若年者に多く、コンタクトスポーツ(ラグビーやサッカー、野球のクロスプレーなど)や交通事故、高所からの転落や転倒、殴られたり、蹴られたりして受傷します。
また、高年の方ではゴルフやテニススイング、野球の投球動作やバットスイング、剣道の素振りなど繰り返しの動作が、肋骨の疲労骨折をおこす原因となります。
スポーツ初心者に発生しやすく、利き手の反対側の肋骨を傷めることが多いと言われています。
ゴルフの場合、40歳代以降の運動不足の人が、練習場で集中的に過度のスイングを繰り返した時に、疲労骨折しやすいので気を付けましょう。
高齢者や骨粗鬆症の患者さんでは、テーブルや浴槽の角などに胸をぶつけたり、せきやくしゃみ、振り返りや寝返りだけでも骨折するケースがあるので、注意しましょう。
第5~第8肋骨が折れやすく、せき・くしゃみで痛む
肋骨への力の加わり方により、折れ方が異なります。
局所的に外力を受けたときは、その箇所が内側に骨折します。
横から挟むように外力が加わると、肋骨がたわみ、前胸部や背部が、外側に向かって折れます。
前後から挟むような外力の場合、わき腹が外側に向かって折れます。
12対の肋骨のなかでも、第3~第10肋骨が折れやすく、とくに第5~第8肋骨の骨折が多いです。
症状は、骨折部の痛みと圧痛、腫れや内出血、軽く押したときの骨がきしむ音などです。
体幹や腕を動かしたとき、せきやくしゃみ、深呼吸などで痛みが強くなります。
いくつかの隣り合う肋骨が、2ヶ所以上で折れると、胸部外傷のなかでも重症のフレイルチェスト(動揺胸郭)になることがあります。
呼吸困難とチアノーゼ(皮膚などが紫色になる)、血痰(けったん)や皮下気腫(皮下組織内に空気がたまった状態)などがみられたら、病院での適切な呼吸管理が必要なので、救急車を呼びましょう。
また、胸の痛みが耐えがたく、いつまでも続いたり、血圧が低下する場合などは、内臓や血管の損傷、疾患が疑われるので、直ちに救急病院を受診してください。
肋骨骨折部以外の症状があれば、内臓の合併症を疑いましょう
骨折の本数が多いほど、肺や他の内臓を傷める可能性が高くなります。
胸から背中にかけて、広い範囲の痛みや息苦しさがあれば、気胸や血胸を疑います。
- 気胸……肺が傷ついて破れ、空気が漏れている状態 せきや胸痛、呼吸困難や血圧低下(救急科、呼吸器内科、呼吸器外科へ)
- 血胸……骨折部からの出血が、胸腔(肋骨の内側と肺の外側にある空間)にたまった状態 呼吸困難や胸痛、チアノーゼや冷や汗(呼吸器外科、救急科へ)
- 肺挫傷……肺が破損したり圧迫されて、肺の組織が傷つき、肺の中に血液や血のかたまり、液体がたまった状態 呼吸困難や胸痛、血痰やチアノーゼ(呼吸器内科、呼吸器外科へ)
第1~第8肋骨骨折では、大血管や気管、頚椎や頚髄の損傷、肺挫傷などを合併しやすいです。
第9~第12肋骨骨折では、肝臓や胆道、脾臓の損傷を合併する場合があります。
特に左下位の肋骨骨折では、約20%に脾臓損傷が報告されています。
また、骨が軟らかい若年者では、骨折がなくても臓器の損傷がおこる場合があるので、要注意ですね。
肋骨骨折は、呼吸のたびに痛むので、呼吸が浅くなってしまい、無気肺(肺の一部が縮小)や肺炎などの合併症がおこりやすくなります。
3本以上の肋骨骨折では、この合併が生じる可能性が高いとされ、特に高齢者では死亡率も高くなっています。
医師からは、肺の病気予防のため、約1時間に1回、せきや深呼吸をするよう指示されるでしょう。
肋骨の骨折は診察とX線検査で診断します
触診では、肋骨にそって触れていくと、ピンポイントで圧痛があり、軽く指先で叩くと響きます。
さらに、胸郭を前後や左右から挟むように圧迫すると、骨折部の痛みが増します。
骨折が疑われたら、気胸や血胸、肺挫傷などの合併症の確認も兼ねて、X線検査を行います。
X線では、肺の影や肋骨同士が重なって、骨折が解りにくい場合がありますし、肋骨前部の肋軟骨は写りません。
また、骨のひび(不全骨折)では、受傷時は確認できず、2~3週間後の撮影で判明することもあります。
胸部CT検査は、X線で写りにくい骨折や合併症のチェックに有用とされ、3D再構成像を組み合わせて診断すると、見落としが少ないと言われています。
ただし合併症がなく、X線で解らない程度の転位のない骨折と医師が診断したら、CT検査は不要かもしれませんね。
息苦しさがある症例では、末梢まで酸素がどれだけ届けられているかを調べる「パルスオキシメーター」を使い、肺の損傷をチェックする場合もあります。
肋骨骨折の治療は、主にバンド固定
合併症がみられず、骨のズレが大きくない肋骨骨折は、マジックテープで着脱できる胸部固定帯で固定します。
リブバンド、バストバンドと呼ばれ、男性用と女性用があります。
男性は脇の下、女性は乳房のすぐ下にバンドを当て、息を吐ききった状態で、少しきつめに巻いて、圧迫固定しましょう。
肋骨の痛みが落ち着くまでは、バンド固定を続けてください。
消炎鎮痛剤の内服や湿布が処方され、痛みを感じる動作や姿勢は避けるように指示されます。
強い痛みが続く場合は、押して痛い箇所などに、トリガーポイント注射(局所麻酔薬)が施されることもあります。
転位(骨のズレ)が高度のケースでは、手術が検討されるでしょう
通常、骨のひび(不全骨折)は、約2週間で痛みがとれ、3~4週間で治癒します。
明らかに骨折していれば、痛みがとれるまで約3週間、治癒するまで4~6週間要する場合が多いです。
ただし、骨折の状態や患者の年齢によって、完治に要する期間は大きく異なってきますよ。
受傷後1週間経過しても、まだ痛みが強いときは、再度X線撮影して、骨折部のズレや血胸、気胸などの有無を確認します。
軽度の気胸や血胸は、自然治癒するので、数日おきのX線撮影で、経過観察します。
重症例では、呼吸器外科で、胸腔ドレナージ(胸腔にチューブを挿入し、たまった血液や空気を排出する処置)を行います。
その胸の痛みは肋骨じゃないかも!?胸が痛くなる、呼吸器や循環器などの病気
肋骨骨折や合併症と、似たような症状があらわれる病気です。
該当する症状を感じたら、専門医を受診しましょう。
- 胸膜炎……肺の表面をおおう胸膜の炎症 胸痛や呼吸困難(呼吸器内科へ)
- 膿胸……胸膜に細菌感染症がおこり、胸膜腔に膿がたまった状態 発熱や胸痛(呼吸器内科へ)
- 狭心症……動脈硬化や冠動脈のけいれんにより、心臓が必要とする血流が得られなくなった状態 胸部中央から左側に、一時的に締め付けられるような痛みや圧迫感(循環器内科へ)
- 心筋梗塞……血栓(血のかたまり)により冠動脈が突然ふさがり、心筋の一部への血流が途絶えた状態 胸の中央から背中やあご、左腕にかけての激痛、冷や汗や吐き気、呼吸困難(救急科、循環器内科、心臓血管外科へ)
- 大動脈解離……動脈硬化などにより血管が裂ける病気 突然引き裂かれるような激しい胸痛、意識障害や失神(救急科、心臓血管外科へ)
- 肋間神経痛……帯状疱疹や圧迫骨折、原因不明でおこる神経痛 背部から胸部や腹部にかけて、ピリピリした痛み (整形外科、神経内科、皮膚科へ)
- 悪性腫瘍……肺がんや他の臓器からの転移 胸痛やせき、倦怠感や体重減少(呼吸器内科、呼吸器外科へ)
- 心臓神経症……不安や過労、ストレスが原因だが、検査で何も異常を認めない胸痛 ズキズキ、チクチクする胸痛、動悸や息切れ、呼吸困難やめまい(心療内科、精神神経科へ)
- 肋軟骨炎……胸骨と肋骨をつなぐ肋軟骨の慢性炎症で、多くは原因不明 動作や深呼吸時の胸痛(整形外科、内科へ)
- 胸骨骨折……交通事故などによる打撲や転倒、転落でおこる、胸の真ん中にある胸骨の骨折 骨折部の痛みと圧痛、深呼吸やせきでの痛み(整形外科へ)
肋骨骨折のまとめ
肋骨骨折は、治りやすい骨折ですが、受傷原因によっては合併症もおきるので、注意が必要ですね。
あばら骨をぶつけた後、呼吸困難などがあれば、放置せず整形外科を受診してください。
中高年のスポーツ愛好家は、頑張り過ぎると疲労骨折をおこしやすいので、ほどほどに楽しみながらのプレーをおすすめします。
また、更年期以降の女性で骨粗鬆症のかたは、弱い力でも骨折することがあるので、気を付けてください。
胸の痛みの原因が、中年以降におきやすい病気の場合もあるので、胸の痛みに不安を感じたら、病院で診てもらいましょう。
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