真珠湾攻撃が陰謀であったという説を唱える本は、アメリカで何度か出版され、日本でも信じる人がいます。
これは「全ての陰謀説」に言えることですが「説明できると、証明された」は全然違います。
ルーズベルトの真珠湾陰謀説とは――
ルーズベルトは号解読により、真珠湾攻撃を事前に知っていました。
そして、彼は戦艦部隊を犠牲にして、新しい主力兵器となる空母を逃がしたのです。
真珠湾を攻撃した日本海軍はそんな旧式戦艦を沈めただけで満足して去りました。
これによって、ルーズベルトは第二次世界大戦に「裏口」から参戦することがでるようになったのです。
ヨーロッパの戦争に参加しないと公約したルーズベルトは日本と戦争になることを望んでいました。
それは日本がドイツ、イタリアと三国同盟を結んでおり、日本と戦争になれば、ドイツとも戦争ができ、ヨーロッパの戦いに参戦できるからです。
――というような、筋書きが「ルーズベルトの真珠湾陰謀論」の大まかな部分ではなでしょうか。
さて、現実にそんなことはありえたのでしょうか?
暗号解読され、真珠湾攻撃は筒抜けだったのか?
確かに1941年1月の段階で、アメリカ国務長官ハルにペルーは、公使・リカルド・シェライバーから「日本が真珠湾攻撃を狙っている」という情報を得ます。
しかしこれは「流言である」と判断されています。史料が残っています。
また、駐日大使ジョセフ・グル―は1941年11月に日本に開戦意図があることを本国に伝えています。
アメリカ側は日本の開戦意図は掴んでいました。これは確かです。
日本の外交暗号は「パープル」と呼ばれていました。暗号機が複製され解読され、その情報は「マジック」という名で呼ばれていました。
これらの暗号の解読に成功したのは1940年11月ごろです。
たしかにアメリカは日本が開戦することは掴んでいたようです。ただ、どこで先端が開かれるかまで分かっていませんでした。日本海軍のD暗号はまだ解読が進んでいなかったのです。
確かに一部には「日本海軍による真珠湾攻撃の可能性はある」と考える者もいました。
戦前にアメリカは真珠湾攻撃を想定した演習も行っています。
しかし、それは確信のある情報でもなんでもなかったのです。あくまでも多くある可能性の中のひとつとして、だったのです。
日本の暗号は全てが筒抜けであったような印象があるかもしれませんが、日本海軍の作戦暗号が解読されるのは、もっと後になります。
しかも日本海軍は頻繁に乱数表を変更するので、アメリカにとってもマニュアル片手で楽々と暗号を解読していたわけではありません。
そして、前述の1941年1月時点では、日本国内で真珠湾攻撃が正式には決定していません。
山本五十六が「飛行機でハワイを叩けないものか」と言ったのは1940年10月の海軍の演習中です。
その後、大西瀧治郎、源田実のラインで原案がまとまとまり、連合艦隊専任参謀であった黒島亀人がチェックして海軍として連合艦隊として真珠湾攻撃の意図が決定したのは1941年4月、海軍として実行が正式に決定したのは10月です。
つまり1941年1月の段階の「真珠湾攻撃」は風説の域をでていません。
ルーズベルトは日本が開戦するだろうということは知っていましたが、まさか空母6隻を引き連れて真珠湾を攻撃してくるなどとは思っていませんでした。
ルーズベルトが暗号解読により、真珠湾攻撃を知っていたという話は資料を付き合わせれば「与太話」以外のなにものでもないことが分かります。
徹底的に過小評価された日本海軍
そもそも、空母6隻を集中運用して、真珠湾を攻撃するなどという作戦自体が、難易度が高すぎてできないとアメリカは考えます。日本国内でもその考えから反対派が多かったのです。
そして山本五十六はその反対意見を抑え込んで無理やり真珠湾攻撃を実行するのです。
日本国内ですら「無理」と考える者がいたくらいですので、それ以上にアメリカは無理と考えます。
そもそも、ハワイに太平洋艦隊を集結させたのは「抑止力」として脅せば日本は屈するだろうという読みがあったからです。
ルーズベルトは、そもそも対日戦には積極的ではなく、経済封鎖で日本は折れるだろうと思っていたのです。そして、開戦になったとしても、その能力は相当低いとみていたようです。
アメリカ海軍が、戦前に日本海軍の空母に関し戦力分析していますが、かなり下方で分析しています。
実際、ミッドウェー海戦で飛龍を沈めたパイロットに対し「君の沈めた空母は飛龍だ」と言ったところ「俺の沈めた空母がそんな小さな空母なわけないだろ!」と怒り出したという話もあります。
ルーズベルトに限らず、日本人、有色人種に対する偏見は今よりもずっと強く、その能力も低く考えられていました。
真珠湾攻撃という難易度の高く、空母の集中運用というアメリカでもまだ実施していない作戦を仕掛けてくるなど、思ってもいなかったというのが、本当のところでしょう。
アメリカ海軍にとって真珠湾攻撃は「敵を過小評価するな」という教訓となります。
その後、アメリカ軍は最後まで日本海軍を「過大評価」して戦うことになるくらいの教訓になりました。
三国同盟ではアメリカはドイツに参戦できない
そもそも、日本を挑発して戦争になったとしても、三国同盟では、アメリカとドイツは戦争になりません。
三国同盟は、自分から仕掛けた戦争に対し、他国は参戦の義務を負わないからです。
ですので、独ソ戦が始まっても、日本はソ連と戦争にはなっていません。
よって、日本から仕掛けた対米戦によって、ドイツは参戦する必要はなかったのです。
ただ、ヒトラーが閉塞していた戦争の流れを変えるためなのか、または大西洋を経由して送られてくるアメリカの物資を止めたかったのか、どの道アメリカとの戦争は避けられないと判断したのか、そのあたりは不明ですが、ヒトラーは対米戦争に踏み切ります。
ドイツとアメリカの戦争は、ドイツから仕掛けました。
大西洋での緊張も高まっており、戦争は時間の問題でした。
であるならば、アメリカに二本面作戦を強いることができる好機であると考えたのかもしれません。
否定されても蘇る「ルーズベルトの真珠湾陰謀論」
真珠湾はルーズベルトによって仕掛けられた罠で、それ日本はまんまと嵌った。
この説は、アメリカ内部でかなり早い時期にでています。
1944年の大統領選でも対立候補の共和党のトマス・E・デューイが「暗号を解読して知っていたのにルーズベルトは何ら対策しなかった」と攻撃しています。
これは「暗号を解読していた」という部分は正しいのですが、それでも真珠湾攻撃まで予見できたわけではないのです。
ただ、この暗号解読の問題が、何度も「ルーズベルトの真珠湾陰謀論」を浮上させます。
暗号解読に関する政府関係史料は中々公開されませんでした。国家の最高機密文書なのですから当然です。
その部分が憶測を呼び、何度も何度も「暗号解読していたはず」という論拠の元に、陰謀論が浮上するのです。
根底にある有色人種に叩きのめされた屈辱
その根本にあるのは、陰謀でも無ければ日本人に叩きのめされ、ボロ負けするわけはなかったという思いがあるのでしょう。
今のアメリカ海軍は「真珠湾攻撃」を最高の軍事作戦であったと持ち上げています。
これも「最高の作戦だったのだから、やられるのは仕方ないよね」といった言い訳ともみえてしまいます。
アメリカには戦った敵を異様に褒めることで「自分たちはこんな強敵を打ち破ったのですごい」と自慢する部分があります。
そして、また有色人種であった日本人に奇襲を食らったというのは、何とも情けない認めたくない事実と考える人たちもいたのです。
言ってみれば「ルーズベルトの真珠湾陰謀論」はある種の人種偏見から生じた「陰謀論」です。
そんな陰謀論を日本人が信じるというのはなんともバカバカしい話ではないでしょうか。
米国「アメリカの歴史の汚点だ」 米研究所が暴く太平洋戦争の『真実』が話題に
今回は、過去にアメリカ大統領選挙にも出馬経験のある、
ロン・ポールが設立したシンクタンクによる太平洋戦争の記事からで、
アメリカが日本に対して意図的に真珠湾攻撃を仕向けた事、
そして原爆投下は戦争犯罪であった事に焦点が当てられています。
記事はまず、トルーマン大統領と原爆を投下したパイロットたちが、
戦後に戦争犯罪で裁かれる事がなかった唯一の理由は、
「アメリカが戦争に勝利した為」と指摘。
また日本が戦い続けた理由は、戦後の天皇の立場が保証されていない、
「無条件降伏」を突きつけられた為だと断じています。
そして「本土に上陸すれば双方にさらなる犠牲が出ていた」
というアメリカでよく聞かれる主張に対しては、
「戦争において兵士たちは命を賭けて戦う事が本質であり、
兵士を助ける事を目的に一般の女性や子供や高齢者の命を奪う事は、
単に戦争犯罪であるだけではなく、臆病な行為」だと非難。
また、真珠湾攻撃自体も、米国への侵略が目的ではなく、
ルーズベルト大統領が行った対日石油禁輸措置が原因であり、
攻撃はアメリカ側が仕向けたものであるとしています。