肩が痛くて、なかなか治らない……
五十肩かなと侮っていたら、腱が切れていたなんてことも。
肩関節は、動かせる範囲が広い反面、不安定なので腱の損傷や、脱臼などのケガが起こりやすい部位です。
また、中年以降は肩関節周囲の組織が弱くなり、柔軟性もなくなるので、ちょとしたことで肩を傷めることが多くなります。
今回は、肩の痛みの原因となるケガの種類とその症状、治療などをご紹介します。
肩は、ケガをしやすい関節!
肩の関節は、肩甲骨の関節窩(受け皿)と、丸い上腕骨(腕の骨)の骨頭で構成されています。
ゴルフティーの上に、ボールが乗ったような、とても不安定な状態です。
そのおかげで、前後左右に上げたり、捻る運動が可能になるのですね。
人の関節のなかで最も大きく動く肩、その動きを支えるのは、関節と腱板(けんばん)、滑液包(動きを滑らかにする液体の袋)、靭帯や筋肉です。
加齢や運動不足で、これらの組織の強度が低下したり、硬くこわばってくると、スポーツや作業などで傷つき、炎症がおきて痛みだします。
肩周辺組織の変性が進むと、
「立ち上がろうと後に手をつく」
程度の日常生活動作でも、肩にケガをすることがあるので、注意が必要です。
夜間痛が強い、腱のケガ
腱とは、筋肉と骨をつなぐスジのことで、アキレス腱などが有名ですね。
肩の腱の炎症は、五十肩の原因にもなります。
肩腱板損傷(かたけんばんそんしょう)(肩腱板断裂)
腱板は、肩の運動を支える重要な4つの筋肉(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)と、その腱の束です。
肩腱板損傷は、転んで手をついたり、肩を強打した時、交通事故やスポーツ中の事故、若年者では投球動作でも発生します。
肩腱板の一部(特に棘上筋)は、骨と骨(肩峰と上腕骨頭)の間の狭いところを通るので、使い過ぎると摩耗して傷めやすくなります。
加齢で腱が弱くなっていると、自然に痛み出すこともあり、40歳以上の男性の右肩に多くみられます。
重い物を持つ仕事とか、洗濯物や布団干しのような家事など、肩腱板への繰り返しの負担が原因になるでしょう。
年齢とともに肩腱板への血流が悪くなったり、骨のトゲができても、発症しやすくなります。
70歳以上の約半数に、断裂が認められるとの報告もあるので、高齢化に伴い患者数は増加しています。
肩腱板を傷めると、肩に力が入りづらくなり、腕を挙げ下げする途中で痛みを感じ、ジョリジョリ音がすることもあります。
新聞を読んだり、ドライヤーを使うと、肩がだるくて腕を下げたくなるでしょう。
進行すると、じっとしていても肩の痛みが強くでて、夜間に痛みで目が覚めるようになり、肩甲骨に付く筋肉が痩せてきます。
五十肩と症状は似ていますが、関節の動きが悪くなることは少なく、他の手で支えれば、腕を上まで挙げられます。
X線で腱板断裂が疑われたら、MRIで検査して、診断が確定します。
多くの場合、数ヶ月の保存療法で、症状は軽減するでしょう。
急性期は、三角巾などで固定し安静を保ち、消炎鎮痛剤を内服します。
夜の痛みが強い時は、局所麻酔剤やステロイドの注射が施されます。
痛みが軽くなってきたら、ヒアルロン酸の注射で、腱のすべりをよくして、肩を動かしやすくします。
リハビリは、肩の筋肉を強化して、肩の動きを回復させます。
保存療法で痛みが改善せず、肩に力が入らない場合は、手術で断裂した部分を縫合します。
大きな断裂でなければ、関節鏡視下手術が選択されるでしょう。
手術後は、装具で4週間固定し、早期から2~3ヵ月のリハビリが行われます。
上腕二頭筋長頭腱炎(じょうわんにとうきんちょうとうけんえん)
上腕二頭筋は、二の腕に力を入れるとできる「力こぶ」の筋肉で、肘を曲げたり、手のひらを上に向ける動作のときに働きます。
長頭腱は、上腕二頭筋の上部で、骨のミゾ(結節間溝:けっせつかんこう)を通り肩甲骨に付く、長い方の腱です。
肩や肘の繰り返しの動作や大きな力が加わって、結節間溝付近で腱が擦れて傷つき、炎症がおきた状態を、上腕二頭筋長頭腱炎と呼びます。
スポーツでは、野球やバレーボール、テニスや水泳などの投球動作のような動きで発生しやすいです。
日常生活では、重い物を繰り返し持ち上げる作業などが原因となります。
肩の前面(結節間溝)に押しての痛みや、物を持ち上げた時や投球動作での痛みがみられます。
悪化すると、安静時や夜間の痛みもあらわれてくるでしょう。
腱が断裂すると、肩から腕にかけて痛み、腫れて内出血をおこします。
力こぶが下がって、肘の近くに触れる場合もあります。
肩前面の痛みを誘発させるテストや、MRI検査で診断します。
治療は、アイシングと安静、消炎鎮痛剤の内服や、湿布などで炎症を軽減させます。
症状が改善せず、痛みが強いときは、結節間溝に局所麻酔剤やステロイドの注射が施されるでしょう。
肘を伸ばして腕を後ろに引く、上腕二頭筋のストレッチや、筋トレが有効な場合もあるので、担当医に相談してお試しください。
保存療法が無効な症例には、関節鏡下での切腱術や腱固定術などの手術が検討されます。
クセになりやすい、肩の脱臼
脱臼が一番起こりやすい肩関節は、習慣性になることが多いです。
外傷性肩関節脱臼
「肩がはずれた」状態が肩関節脱臼、大きな関節の脱臼の約50%を占めるといわれています。
肩は、関節の安定性を筋肉や靭帯などに頼り、動きが大きく不安定なため、最も脱臼しやすいのです。
転倒や転落、スポーツや交通事故などで、肩を外側に上げる、外側に捻る、腕を水平に上げて後へ引くなどの動作が強制されて発症します。
スポーツでは、ラグビーやアメフト、柔道などで肩を強打したり、手をついたりしておこります。
中高年では、歩行中バランスを崩して後ろに手を付いて転び、肩を脱臼することもあるので、要注意です。
また、もともと体質的に肩の関節がルーズで、ちょっとした動作で脱臼してしまうケースもあります。
外傷性肩関節脱臼の95%は、上腕骨が肩甲骨の前側に外れる「前方脱臼」です。
受傷時は、ガクッと音がして激しく痛み、関節が動かせなくなります。
無理に動かそうとすると、痛みとバネ様の抵抗があることが多いでしょう。
丸みのある肩の筋肉がへこみ、肩先の骨(肩峰:けんぽう)が出っ張って見えます。
前方脱臼では、上腕骨の頭が、肩関節の前下方に触れます。
脱臼時に神経を傷めると、肩の外側にシビレがおきることもあるでしょう。
また、中高年者の脱臼では、腱の損傷を合併するケースもみられます。
脱臼した側の手や腕を、反対の手で支えて来院する患者さんの状態と、受傷した時の状況から、肩の脱臼を疑います。
骨折などの合併症の確認ため、X線検査を行い、脱臼の整復(骨の位置をもとに戻す)を施します。
整復が困難なときは全身麻酔を使用する場合もありますが、リスクを伴うので、入院が必要です。
整復後は4週間固定し、5週目より動かす範囲を制限した運動を開始、7週目より全方向の運動療法が可能になります。
以前は内旋位(肘をまげて、肩関節を内側に捻る)固定でしたが、外旋位(小さく前にならえの肢位)固定のほうが、予後が良好との報告もあります。
固定期間中に、関節包(関節を包む袋)の傷が癒えていない状態で運動を始めると、脱臼の再発や「反復性肩関節脱臼」に移行しやすいので、固定期間は必ず医師の指示を守ってください。
また、中年者以後の患者さんは固定により、関節が固まって動きが悪くなる状態が回復せず、痛みが続く場合もあるので、慎重なリハビリが勧められます。
合併症には骨折や神経麻痺などがあるので、できれば肩関節外来のある病院を受診しましょう。
反復性肩関節脱臼
肩の「脱臼ぐせ」がついてしまった状態を、反復性肩関節脱臼と呼びます。
外傷性肩関節脱臼後に不安定性が残り、わずかな力でも、肩の脱臼や亜脱臼を繰り返します。
スポーツ以外に、日常生活動作や寝ている時に外れてしまう場合もあります。
10~20歳代に初めて肩関節を脱臼した人の90%近くは再発し、反復性肩関節脱臼に移行しやすいとされています。
また、脱臼の回数を増すごとに、弱い力でも肩が外れるようになるでしょう。
もともと不安定な肩関節は、反復性脱臼が最も多くみられる関節です。
外傷性に脱臼すると、肩関節の安定性を保つ、肩甲骨側の受け皿の縁(関節唇:かんせつしん)が、はがれたり切れたりして関節がより不安定になり、脱臼しやすくなるためです。
また、関節を包む袋がゆるんだり、上腕骨の頭が欠けてしまうことなども原因となるでしょう。
特に若年者は、受傷の原因となる活動が多く、軟部組織が柔らかいので、再度受傷するケースが多いと考えられています。
脱臼していない時の症状は、腕を外側に上げたり、外側に捻るときに不安感があり、肩関節の前面が不安定で押すと痛みます。
脱臼しても、自分で簡単に整復できる人もいますね。
X線検査で脱臼の状態と、骨折の有無を確認します。
関節造影やCTなどで、関節唇などの損傷の程度を診断することもあります。
スポーツや日常生活において、わずかな力でも脱臼を繰り返し、活動に支障がある時は、手術を検討します。
術式はさまざまですが、関節の動きを優先するなら内視鏡、安定性を求めるなら関節切開が選択されるでしょう。
関節鏡視下の手術の場合、入院期間は平均約4日間、退院後3週間は装具で固定します。
通常約1ヶ月で、デスクワークなどの軽作業やランニングが可能となり、日常生活での不自由がなくなります。
術後3ヵ月間までは、体側よりも後ろで手を使わないでください。
特に、後ろ手で体をおこしたり、ブラジャーのホックかけは厳禁です。
3ヶ月でキャッチボールなどの軽負荷のスポーツや作業、6ヶ月でスポーツ活動や重労働への復帰を目指します。
特にスポーツ復帰には、適切なリハビリテーションが重要なので、担当医師や理学療法士とよく相談してください。
肩鎖関節脱臼
肩鎖関節は、鎖骨の外端と肩甲骨の肩峰(けんぽう)が、靭帯や関節円板でつながる関節のことです。
鎖骨を外側に向かってさすっていくと、肩先の骨とぶつかる部位ですね。
柔道・ラグビー・アメリカンフットボール・サッカー・レスリング・相撲などのコンタクトスポーツや、バイク・自転車・スキーなどの事故、作業中の転落・転倒などで発生します。
衝突や転倒で、肩の外側を強く打ちつけたり、肘から転倒した時に、靱帯や筋肉を傷め、肩鎖関節がずれます。
受傷後、肩鎖関節の安静時の痛みや押しての痛み、動かした時の痛みや腫れがあらわれますが、動かせる範囲はあまり制限されません。
脱臼が生じると、鎖骨が上方へ移動して階段状に飛び出し、上から押すとピアノの鍵盤のように動きます。
長期間放置していると、腕を上げた時の痛みや脱力感、違和感が残るでしょう。
捻挫や亜脱臼の状態であれば、三角巾や装具で安静を保ち、痛みや腫れが軽減したら、運動療法を開始します。(固定は2~3週間)
脱臼の場合、中高年の事務職や管理職の人には保存療法が、活動的な若者と、スポーツや重労働者などで肩をよく使う人には、手術が勧められます。
なお、2ヵ月間は重量物の持ち上げやコンタクトスポーツは禁止になります。
高齢者に多い、上腕骨近位端骨折(じょうわんこつきんいたんこっせつ)
高齢者の転倒による4大骨折の一つ「上腕骨近位端骨折」は、二の腕の付け根に近い部位の骨折です。
事故や運動などで、転んで手や肘をついたり、肩から落ちて強打した時に発生します。
若い人はスポーツや交通事故などで、 高齢者では転倒などの弱い力でも受傷します。
上腕骨の頭のすぐ下にある、外科頚(げかけい)部分で折れる骨折が多いです。
肩の激しい痛みと腫れ、変形と内出血などが生じ、腕を上に上げることはできません。
X線で診断が可能ですが、治療方法を決めるためにCT検査が必要な場合もあります。
上腕骨の外科頚は、比較的骨がつきやすいので、多くの場合保存療法で治療します。
固定にはギプスを使わず、三角巾とバストバンド(肋骨骨折で使う胸の固定バンド)を用いる方法があります。
固定中も、手指の運動は積極的に行います。
固定後、1~2週間で痛みが軽減したら、肩の運動療法を慎重に始めましょう。
五十肩のリハビリと同様の振り子運動を、三角巾をしたまま行います。
固定期間は、約3週間ですが、肩の可動域の回復には、3~4ヶ月かかるでしょう。
骨折部が不安定で、整復した位置が保てなかったり、血行障害や神経麻痺を伴う症例では、手術が選択されます。
肩のリハビリテーショントレーニング
肩のリハビリテーションの目的は、関節の動く範囲と筋力を元に戻すことです。
受傷後は患部に負担がかからない範囲で、動かせる関節の運動から始めます。
患部の痛みが軽減してきたら、肩関節を動かさず筋肉に力を入れる、アイソメトリックトレーニングを開始しましょう。
肩の運動が可能になったら、無理なく動かせる範囲で、軽い運動を行います。
症状によってトレーニング方法は異なるので、担当医や理学療法士とよく相談してすすめてください。
軽いケガの治療や予防には、テーピングやサポーターが有効な場合もあるので、お試しください。
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トワテック リサーチ https://www.towatech.net/research/features/kine_cate/2
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肩のケガのまとめ
肩のケガの代表として、肩関節や肩鎖関節の脱臼、腱板の断裂や上腕骨の骨折をご紹介しました。
不安定な肩関節は、受傷しやすく、治療が長びいたり、手術が必要な例も少なくありません。
原因は、スポーツや交通事故のほか、転んだり階段から落ちても傷めます。
特に中年以降は、骨や筋肉、腱や靭帯などが弱くなってきますので、激しい運動や重労働には注意しましょう。
また、高齢者では、つまづいたり、滑って転ぶケガが増えてきますので、気を付けるようにして下さいね。
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