あなたのしつこい首肩こりや、手のしびれは大丈夫でしょうか?
もしかしたら、背骨の病気による、脊髄障害が原因かも知れませんよ。
脊髄は、生命の維持に重要な役割を果たす、大切な中枢神経です。
傷めると、日常生活に支障のある痛みや、麻痺が生じることもあるので、要注意です。
今回は、脊髄障害の原因疾患の症状や治療、リハビリをご紹介しますので参考にしてください。
脊髄は、脳とからだを結ぶ神経の通り道
脊髄は、脳の下から背骨のトンネルの中を走る、神経繊維の束です。
脳の指令を筋肉に伝えて筋肉を動かし、皮膚や筋肉などの感覚の情報を脳に伝えてくれます。
また、ほとんどの器官を支配し、自動的に調節する(呼吸、循環、消化、代謝など)、自律神経(交感神経と副交感神経)の経路でもあります。
脳と体の各部分を結ぶ、神経の連絡路ですが、とっさの動き(反射運動)や内臓・血管のコントロール(自律反射)などの、中枢神経の役割も担っています。
原因や症状は様々なので、専門医の診察が必要です
運動神経や感覚神経、自律神経が通る脊髄が傷むと、障害を受けた部位により、特有の症状があらわれます。
筋力の低下や麻痺、感覚の鈍化や消失、尿失禁や便失禁、勃起障害や背部痛など多様ですね。
脊髄障害の原因は、背骨の骨折などのケガ、背骨や椎間板の老化などによる疾患、靭帯が骨化する疾患、腫瘍や感染症、そして脊髄そのものの疾患などです。
病院では、神経学的検査やMRI検査などで、診断を確定します。
体の動きや感覚に異常を感じたら、専門医・専門病院の受診をおすすめします。
脊髄障害を症状から見ていきましょう
首肩こり
頚椎椎間板ヘルニア、頸椎症性脊髄症、後縦靭帯骨化症、悪性腫瘍の転移など
若い人は筋肉の疲労が原因の肩こりになりやすいですが、中高年では、首の骨や椎間板、靭帯などの老化による首肩こりも多いです。
たかが肩こりと放置すると、手足が麻痺することもあるので、ご注意ください。
しつこい肩こりやしびれ、手足の動かしづらさがみられたら、専門医を受診しましょう。
手がしびれる
頚椎症性脊髄症、頚椎椎間板ヘルニア、後縦靱帯骨化症、脊髄腫瘍など
脊髄が首の骨や椎間板、靭帯などに圧迫されて、手がしびれます。
内科疾患が原因の場合もあるので、しびれが強くなったり、範囲が広がる時は、専門医を受診してください。
肩や腕、手が痛い
頚椎症性脊髄症、頚椎椎間板ヘルニア、後縦靱帯骨化症、脊髄腫瘍など
脊髄が首の骨や椎間板、靭帯などに圧迫されて、痛みがでます。
脊髄から枝分かれした神経の根が圧迫される頚椎症性神経根症や五十肩、胸郭出口症候群などでも痛みが出るので、鑑別が必要です。
手足の麻痺、手足が動かしづらい
頚椎症性脊髄症、後縦靭帯骨化症、黄色靱帯骨化症、脊椎腫瘍、脊髄腫瘍、頚椎椎間板ヘルニアなど
脊髄が障害されると、箸が使いにくい、ボタンの掛け外しがしにくいなど、指の細かい運動が困難になります。
また、脚がよろけたり、つま先立ちがしづらい、スリッパが抜けやすいなどの症状も脊髄障害の特徴です。
思い当たる原因が無く、徐々に悪化する時は、早めに病院にいきましょう。
脚が痛い
脊椎腫瘍、脊髄腫瘍など
背骨や脊髄の腫瘍、転移したガンが脊髄を圧迫して、脚に痛みがでます。
筋肉や関節の痛み、腰部脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアなどとの鑑別が必要です。
寝ている時など、安静時も脚が痛かったり、脚に力が入らない時や、排尿や排便に異常を感じたら、早めに専門医を受診しましょう。
脊髄障害の原因疾患の治療とリハビリ
頚椎椎間板ヘルニア(けいついついかんばんヘルニア)
椎間板は、首の骨と骨の間にある、クッションです。
椎間板の外側の繊維輪が加齢や負担で傷つき、中心の髄核が飛び出した状態が、頚椎椎間板ヘルニアです。
ヘルニアが中央に大きく突出し、脊髄を圧迫すると、足のもつれや歩行障害などの脊髄障害の症状がでます。
40~50歳代に多く、首の骨を上から数えて、4・5・6番目の骨の間におこりやすいです。
症状が軽い場合は、保存的治療として、安静の指示と薬物療法(鎮痛剤、筋弛緩剤、神経障害に対するビタミン剤など)や神経ブロック注射、装具療法が施されます。
急性期を過ぎたら、温熱療法や牽引療法などの物理療法、運動療法などの理学療法も有効です。
リハビリは、物理療法に加えて、首や肩、背中の筋肉や筋膜などの柔軟性を取り戻すために、マッサージやストレッチなどを行います。
神経症状の進行例(運動麻痺や筋力低下、排尿障害など)では、手術が検討されます。
手術前から歩行障害などがあるケースでは、手術後、数週間から数ヶ月間のリハビリが必要となるでしょう。
頚椎症性脊髄症(けいついしょうせい せきずいしょう)
加齢により変形した骨や変性した椎間板、厚くなった靭帯などで、脊髄が圧迫されて発症します。
悪い姿勢や重労働、激しいスポーツなども原因になると考えられています。
細かい動作(ボタン、箸、書字など)がしづらく、脚がもつれたり階段で手すりが必要になります。
薬物療法やトリガーポイント注射、温熱療法や軽い運動療法などで様子を見ますが、症状が改善せず悪化する場合は、手術が必要になるでしょう。
手術後のリハビリは、術後1~2週間は、頚椎カラーの使用と座位・立位バランスや、歩行器歩行訓練を行います。
術後2~4週間は、首の運動療法を始め、可能なら独歩自立訓練を行います。
頚椎後縦靱帯骨化症(けいついこうじゅうじんたいこっかしょう)、黄色靭帯骨化症(おうしょくじんたいこっかしょう)
脊髄の前側には、背骨の骨と骨をつなぐ後縦靱帯が、後側には黄色靭帯があり、背骨の位置を保ち、動きを制御する役割を果たしています。
靭帯が厚くなって骨に変わり、神経を圧迫すると発症する、40~50歳代の男性に多い病気です。
後縦靱帯の骨化は頚椎に、黄色靭帯の骨化は胸椎に多く発生します。
原因は、体質や遺伝、ホルモンや背骨への負担、糖尿病との関連などが指摘されていますが、未だ不明です。
首や肩・背中の痛み、手足のしびれや動かしづらさに加え、つまずきやすく、歩行や階段の昇降が困難になってきます。
病気の進み方の正確な予測が難しいので、まずは注意深い経過観察と保存的治療が選択されます。
転倒や転落などで脊髄に大きな負担がかかると、麻痺などの症状が急激に悪化することがあるので、生活指導も重要です。
症状が軽い場合は、頚椎カラーなどで安静を保ち、消炎鎮痛剤などの薬物療法や物理療法、運動療法を慎重に行います。
運動障害や歩行障害が進行してきたら、手術が必要となる可能性が高いでしょう。
手術の翌日には、歩行器による歩行訓練を開始し、通常2週間程度で退院できます。
ただし、手術前から歩行障害などがある場合は、リハビリが数週間から数ヶ月間必要となります。
脊髄腫瘍(せきずいしゅよう)
脊髄を包む硬膜の外にできる「硬膜外腫瘍」、硬膜と脊髄の間にできる「硬膜内髄外腫瘍」、脊髄内の「髄内腫瘍」の三つに分類されます。
硬膜外腫瘍では、肺がんや乳がん、前立腺がんや消化器がんなどが、脊椎に転移して脊髄を圧迫する場合が多いです。
腫瘍が発生した部位により、首や背中、腰の痛みで発症し、脊髄を圧迫すると運動麻痺、知覚障害、膀胱直腸障害が生じます。
治療は、転移もとのがん治療とともに、放射線治療や化学療法、手術などが選択されます。
硬膜の内側の腫瘍は良性の場合が多く、症状に応じて腫瘍の摘出手術が検討されるでしょう。
脊髄損傷の完全麻痺は、動かない、感じない!
脊髄損傷とは、背骨の骨折や脱臼などにより脊髄が傷つき、運動や知覚などの麻痺が生じた状態のことです。
頚椎の完全麻痺では、手足が全く動かず、感覚も消失し、肛門括約筋を自分で締めることができません。
自律神経が損傷され、体温調節が困難になったり、呼吸筋が麻痺して、人工呼吸器が必要になることもあります。
受傷直後の「脊髄ショック」を脱しても完全麻痺であれば、回復の可能性はとても低いでしょう。
不全麻痺では、運動機能や感覚の低下はみられますが、肛門括約筋を締めることはできます。
原因は交通事故が最も多く、転落事故や転倒、スポーツ事故のほか、腫瘍や血行障害など非外傷性の原因もあります。
後縦靱帯骨化症や頚椎症の人は、転んだだけで脊髄を損傷することがあるので、注意が必要ですね。
治療は、不安定な背骨の固定や脊髄の圧迫を除去する手術が行われます。
脊髄障害治療の展望
名古屋大学 整形外科 今釜史郎先生によると、「近年は脊髄損傷に応用できる薬剤や細胞移植などの基礎研究が進んでおり、国内・国外で臨床治験も始まっている」そうです。
再生医療の分野でも、骨髄や神経の幹細胞を用いた神経再生の研究が進んでいるので、将来に期待したいですね。
脊髄損傷のリハビリの目的は、残された機能を生かして、日常生活動作を可能にすることです。
脊髄は脳と同じ中枢神経なので、一度傷つくと二度と再生しないため、失われた機能を回復させることはできません。
残った機能を評価してゴールを設定し、体位変換や呼吸の訓練、関節可動域訓練などのリハビリテーションを行います。
脊髄障害をおこす病気は、加齢変性が原因の場合が多いです。
40歳代以降は、骨の変形や椎間板の変性、靭帯の肥厚などがおこるので、要注意ですね。
また、頚椎変形のある高齢者では、ちょっとした刺激での脊髄損傷が増加しています。
思い当たる原因が無くても、普段と違う痛みやしびれがある時は、専門医を受診してください。
※脊髄外科認定医・指導医を検索 http://www.neurospine.jp/original6.html
参照・参考:日本整形外科学会 https://www.joa.or.jp/public/sick/body/spinal_cord.html
日本脊椎脊髄病学会 http://www.jssr.gr.jp/sick/index.html
日本脊髄外科学会 http://www.neurospine.jp/
日本脳神経外科学会 http://square.umin.ac.jp/neuroinf/medical/index.html
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