歩くと太ももが痛い、立ちっぱなしで太ももがしびれる、原因不明の腫れや痛みがある……
ぶつけたり、転んでもいないのに、太ももに痛みがあると、不安になりますね。
太ももが痛む原因は、筋肉痛から神経痛、骨折や腫瘍まで、実にさまざまです。
腰やお尻、ふくらはぎの症状を伴うこともめずらしくありません。
今回は、太ももが痛いときに疑われる疾患を原因別にみていきます。
また、高齢者の転倒時の骨折や、歩くと太ももが痛む疾患の詳細もお届けします。
最後にセルフケアの方法もご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
太ももの痛みの原因は、骨・筋肉・神経・血管にわかれる
股関節(脚の付け根)と膝関節の間を「大腿(だいたい)」、膝関節と足関節(足首)の間を「下腿(かたい)」と呼びます。
また、股関節から足の指先までを「下肢(かし)」とも言います。
今回の「太ももの痛み」は、股関節と膝関節を除く、大腿部に生じる痛みをとりあげていきます。
太ももの痛みは、大腿部の骨・筋肉・神経・血管に原因があることが多いでしょう。
- 太ももの骨(大腿骨)の痛みは、骨折や腫瘍など
- 太ももの筋肉の痛みは、打撲や肉離れ、筋肉痛や筋肉疲労
- 太ももの神経の痛みは、腰椎や末梢神経などに原因があるでしょう
- 太ももの痛みが、動脈硬化や動脈閉塞でおこることもあります
それでは、太ももの痛みの原因として疑われる疾患を、主な症状を目安にみていきましょう。
ケガや神経痛でおこりやすい太ももの痛み
骨の痛みは転倒や転落、腫瘍が原因
- 高齢者が転んで、太ももの付け根が痛く、立ち上がれない……大腿骨頚部骨折(股関節のすぐ下の骨折)
- 高齢者が転んで、太ももが激しく痛み歩けない、変形している……大腿骨骨幹部骨折(大腿骨の真ん中の骨折)
- 高齢者が転んで、膝の近くが腫れて痛み、歩けない……大腿骨遠位部骨折(体の中心に近い部位を近位、遠い部位を遠位と呼ぶ)
※骨折は、交通事故や労働災害、転落やスポーツでもおこります。 - 若年者の太ももが、原因なく腫れて痛み、ときに硬いしこり……良性の骨腫瘍(骨軟骨腫、線維性骨異形成症、骨巨細胞腫、類骨骨腫)
- 若年者の膝近くの腫れと痛みが、ずっと続き悪化する……骨肉腫(骨のがん)
- 30歳以降で、太ももの上部に硬いしこり(痛みが弱いことも)……軟骨肉腫(軟骨を形成する悪性の骨腫瘍)
- がん患者で、太ももの上部の痛みや腫れが長引く……転移性骨腫瘍(肺、乳、前立腺、腎、甲状腺がんなどが、手足の骨や背骨に転移しやすい)
※骨折は整形外科、腫瘍もまずは整形外科、必要に応じて専門医を紹介してもらいましょう。
筋肉の痛みはスポーツや筋肉の使いすぎ
- 太ももの前面が、スポーツや立ち仕事、ハイヒール歩行のあと、腫れて痛み、膝が曲げにくい……大腿四頭筋炎(太もも前面の筋肉の炎症)
- 太ももの外側が、歩きすぎたり、股関節と膝関節を使い過ぎて痛い……大腿筋膜張筋炎(太もも外側の筋肉・靭帯・腱の炎症)
- 太ももの後面が、ダッシュやジャンプしたあと、痛くて歩けない……ハムストリングス炎(太もも後面の筋肉の炎症)、肉離れ
※筋肉の痛みは、整形外科を受診しましょう。
太ももの神経痛は4つ
- お尻から太ももの後面や外側にかけて、痛みやシビレ、歩行障害や麻痺がある……坐骨神経痛
- 太ももの前面に痛みやシビレがあり、うつ伏せで膝をまげると痛みが強くなる……大腿神経痛
- 太ももの外側から前面にかけて、焼けるような痛みやシビレがあり、知覚が鈍くなる……外側大腿皮(だいたいひ)神経痛、感覚異常性大腿痛
- 太ももの内側や脚の付け根に痛みやシビレ……閉鎖神経痛
※神経の痛みは、整形外科や神経内科を受診してください。
血管やその他の原因は?
- 歩くと下肢に痛みやシビレ、だるさがおこり休むとよくなる、足先が冷たい……閉塞性動脈硬化症
- 不整脈があり、急に下肢の痛みや脱力、麻痺などがおき、足が紫色に……急性動脈閉塞症
- 運動後や動き始めに、脚の付け根から、お尻や太ももに痛みがある……変形性股関節症の関連痛(原因と異なる部位の痛み)
- 腰痛があり、お尻や太ももの前面、外側に漠然とした痛み……腰椎椎間関節症の関連痛
- 成長期の男子が急に痛がり、数分から1時間ほどで治まる……成長痛(遊び疲れやストレスなどが原因とされる)
- 消化器や泌尿器、生殖器の病気があり、腰痛を伴う太ももの痛み……内臓性腰痛(痛みが運動で悪化せず、安静で軽減しない)
※血管内科、循環器科、整形外科、消化器科、泌尿器科、婦人科などを受診してください。
高齢者の4大骨折の1つ「大腿骨頚部骨折」
大腿骨頚部骨折は、股関節のすぐ下の細いくびれ(頚部)と骨の出っ張り(転子部)周辺の骨折です。
高齢の女性に多く(男女比 1:4)、原因の95%は転倒とされています。
受傷直後から、太ももの付け根が激しく痛み、立ち上がれなくなります。
まれに歩行可能な場合もありますが、無理に動かすと骨がずれやすいので、急ぎ整形外科を受診しましょう。
本骨折は、骨がつきづらく、血管の損傷があれば壊死のリスクも高いので、患者さんの体力が許す限り手術の適応となります。
術後、寝たきりにならないためには、早期のリハビリテーションが必須です。
手術の翌日からベッドに座る訓練を開始し、その後車イスへの移乗、歩行訓練へとすすみます。
特に高齢者においては、長期臥床に伴う合併症(深部静脈血栓症・肺塞栓症・膀胱炎・床ずれ・認知症など)が起こりやすいので、要注意です。
骨粗鬆症の治療と適度な運動、転倒防止のための環境づくりなどが予防になるでしょう。
※4大骨折:橈骨遠位端骨折(手首)・上腕骨近位端骨折(肩)・脊椎圧迫骨折(背骨)・大腿骨頚部骨折
歩くと痛み、休むと楽になる疾患は、「腰部脊柱管狭窄症」と「閉塞性動脈硬化症」
中年以降で、歩くとお尻や太もも、ふくらはぎやすねに、痛みやシビレなどが生じる疾患です。
長い時間歩けませんが、休めばまた歩けるようになるのが特徴です。(間欠跛行:かんけつはこう)
腰をかがめて休めば、また歩ける腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)
太ももが痛む坐骨神経痛の原因はさまざまですが、腰では腰椎椎間板ヘルニア や 腰椎分離症 、 腰椎すべり症 や腰部脊柱管狭窄症などが多いでしょう。
なかでも、近年MRI検査の普及により、腰部脊柱管狭窄症の診断を受ける患者さんが急増しており、70歳以上の半数近くが患うと言われています。
腰部脊柱管狭窄症は、加齢や重労働、スポーツなどで脊髄の通り道(脊柱管)が狭くなり、足にいく神経が圧迫されて発症します。
治療の初期は薬物療法やブロック注射、理学療法などの保存療法が施されますが、症状が悪化して日常生活に支障があれば、手術も検討されます。
歩行中痛くなったら、腰かけるかしゃがんで、腰を曲げる体勢をとり休むと、また歩けるようになります。
また、ステッキや手押し車を使うと、比較的楽に歩けるので、痛くない範囲で歩行を続けることが、この疾患と上手に付き合う一つの方法でしょう。
姿勢に関係なく、休めばまた歩ける閉塞性動脈硬化症(へいそくせいどうみゃくこうかしょう)
閉塞性動脈硬化症も「間欠跛行」がみられますが、腰を屈めなくても、休めばまた歩けるようになります。
脚の血管に動脈硬化がおこり、動脈が狭くなったり塞がってしまい発症、足への血行障害による症状があらわれます。
太ももの付け根や膝裏、足のくるぶしや足の甲で、動脈の拍動が減弱あるいは消失します。
足先が冷たくなりシビレや間欠跛行が生じ、やがて安静時も刺すような痛みに悩まされるでしょう。
さらに悪化すると、潰瘍や壊死に至り、切断するケースもあるので、注意が必要ですね。
両腕と両足の血圧の比率や血管エコー検査、造影CT検査などで診断します。
血液を固まりにくくする薬や血管を拡げる薬などが処方され、運動療法と禁煙が指示されるでしょう。
薬物療法などで改善しなければ、カテーテル治療とバイパス手術が検討されます。
動脈にカテーテルを入れて、風船で血管を拡げたり、ステント(網状の筒)で血管を内側から支えて、血流を改善します。
バイパス手術は、人工血管や自分の足の静脈で、新しく血液の道を作って血流を確保します。
動脈硬化は、脚に限らず全身におこる病変です。
脳の血管の動脈硬化は脳梗塞、心臓では狭心症や心筋梗塞の原因となるので要注意です。
閉塞性動脈硬化症は、肥満や高血圧、糖尿病や脂質異常症、喫煙やストレスなどが関与する生活習慣病です。
治療と予防には、食事や運動など日常生活の見直しも重要と言えるでしょう。
太ももの痛みに効くセルフケアは?
ご自宅でできる、トリガーポイント治療は、痛みを和らげる助けになる場合があるので、担当医に相談のうえ、ぜひお試しください。
トリガーポイントとは、痛みの原因となる筋肉のしこりで、必ずしも痛い部位と一致しません。
トリガーポイントは、押すと離れた部位にひびいたり、症状が再現する治療ポイントです。
代表的なトリガーポイントを目安に、ロープ状に緊張した筋肉の中から、押すとひびく「しこり」を見つけてください。
痛きもち良い強さで、トリガーポイントを20~30秒押します。
ひびく感じが弱くなってきたら、少しずつ押す強さを増していってもよいでしょう。
また、「5秒押して、3秒離す」を繰り返す方法も有効です。
なお、押すと創口を触るような個所は、炎症があるので、押さないでください。
※太ももの痛みの原因となる疾患があれば、その治療を優先してください。
太ももの痛みの部位別に代表的なトリガーポイントをあげますので、その周辺を探ってみて患部にひびくしこりがあれば、そこが治療点です。
太ももの前の痛みのトリガーポイント
- 太もも内側の筋肉の中央
- 骨盤前面の骨の出っ張り(上前腸骨棘:じょうぜんちょうこつきょく)の上方
- 上前腸骨棘と恥骨を結ぶ靭帯の中央から指幅3本下
- 上前腸骨棘の内下方
- 太もも前面の筋肉の中央
太ももの後の痛みのトリガーポイント
- 太もも後面の筋肉の中央、やや外側と内側
- 尾骨先端と、太もも外側の骨の出っ張り(大転子:だいてんし)を結ぶ線の中間点とその少し上
- 大転子の少し上
太ももの外側の痛みのトリガーポイント
- 太もも前面の外側で、膝の皿から指幅3本上
- 上前腸骨棘の外下方
- 大転子の少し上
- 腰椎の骨の出っ張りから、指幅1.5~3本外側
- お尻の下の横じわ付近
太ももの内側の痛みのトリガーポイント
- 太もも内側の筋肉の中央
- 太もも前面の内側で、膝の皿から指幅3本上
- 上前腸骨棘の内下方
坐骨神経痛の特効ツボは
ツボの位置は、トリガーポイントと共通する場合が多いので、併用すれば効果が期待できます。
- 腎兪(じんゆ)……へその裏側から、左右に指幅2本外側
- 志室(ししつ)……へその裏側から、左右に指幅4本外側
- 陽関(ようかん)……骨盤の上端を結ぶ線と交差する背骨突起のすぐ下
- 大腸兪(だいちょうゆ)……陽関から左右に指幅2本外側
- 胞肓(ほうこう)……背骨の下にある仙骨の上から2つ目のくぼみから、指幅3本外側
- 環跳(かんちょう)……股関節を深く曲げたときに、お尻の外側にできるしわの前側先端
- 殷門(いんもん)……お尻の下の横じわ中央と、膝裏の横じわ中央を結んだ線の中間点
- 委中(いちゅう)……膝裏の横じわの中央
※神経痛には温熱療法が有効なので、ツボに「せんねん灸」のような温灸を利用してもよいでしょう。
普段と違う太ももの痛みやシビレがあれば整形外科へ
太ももの痛みを見てきましたが、原因は本当にさまざまですね。
なかでも注意が必要なのは、高齢者が転倒したときの「大腿骨頚部骨折」で、2030年には患者数が30万人に急増すると推測されています。(大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドラインより)
また、思い当たる原因がないのに、太ももが腫れて痛むときは、腫瘍も念頭におき、早めに専門医を受診することをおすすめします。
安静時や夜間の痛みが強く、症状が進行性の場合は、何らかの病気が隠れている可能性が高いので、放置しないでください。
加齢や生活習慣による太ももの痛みも増加していますので、普段と違う痛みやシビレを感じたら、整形外科を受診してください。
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