橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)活動的な高齢者は要注意!?







手をついて転んだあと、手首が変形して、すごく痛い!

その症状は、「橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)」かもしれません。

50~70歳代の女性に多く発生する、高齢者の四大骨折のひとつです。

年間約10万件と推計され、60歳以降の女性の14.5%が受傷すると言われています。

閉経後の女性、活動的な高齢者は要注意の「橈骨遠位端骨折」について、治療法を中心に詳細をお届けします。

 

骨粗鬆症患者の受傷が多く、手術はプレート固定法で

 

肘と手首をつなぐ2本の骨(橈骨:とうこつ、尺骨:しゃっこつ)のうち、親指側の橈骨が手首寄り(遠位端)で折れる橈骨遠位端骨折は、手首の骨折の中では最も多く発生します。

(体の中心に近い方を近位、遠い方を遠位と呼び、遠位は末梢寄りをあらわします)

 

中年以降の女性が、手のひらをついて転んだ時に骨折しやすく、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)との関連が指摘されています。

 

橈骨遠位端骨折は、他の高齢者の骨折(大腿骨頚部や上腕骨近位端)と比べ、患者数のピークは60歳代と比較的若く、屋外での受傷が多い(3分の2)のが特徴です。

転んだ時とっさに手が出る、活動性の高い高齢者が手首を骨折しやすいためとされます。

 

受傷の仕方や年齢により、様々なタイプの骨折がおこりますが、骨が転位(ズレる)していると合併症や後遺症が生じやすいので、早期の正確な診断と適切な治療がもとめられます。

早くから手首が動かせる「ロッキングプレート」というプレート固定法が近年開発され、手術時に多く使用されるようになりました。

特に、粉砕骨折や関節におよぶ骨折の場合は、手外科専門医がいる施設での手術が薦められます。

 

『橈骨遠位端骨折』骨の折れ方による分類

 

・コレス骨折

橈骨の遠位骨片(指先側の骨折部)が、手の甲側に転位した骨折を、コレス骨折と呼びます。

フォークを伏せて置いたように見える変形が特徴で、橈骨遠位端骨折のなかでは、一番多いタイプです。

手のひらをついて転んだときに、手首を反らす方向に強い力が加わり、受傷します。

 

・スミス骨折

橈骨の遠位骨片(指先側の骨折部)が、手のひら側に転位した骨折を、スミス骨折と呼び、コレス骨折と逆の変形が生じます。

手の甲側をついて転んだときに、手首を曲げる方向に強い力が加わり、骨折します。

自転車やバイクのハンドルを持ったまま転倒したり、スポーツなどで手の甲に打撃を受けた時にも受傷するでしょう。

 

・バートン骨折

骨折が手首の関節面に及び、手の甲側の部分が骨折してズレると「背側バートン骨折」、手のひら側の部分が骨折してズレると「掌側バートン骨折」と呼びます。

関節内の骨折では、粉砕骨折(骨折部がいくつかの骨に分かれる)を生じやすく、手術を選択する場合が多いでしょう。

 

『橈骨遠位端骨折』年齢別の原因と特徴は?

 

・小児の骨折

走行中やスポーツ中、手をついて転んだ時に発生します。

若木骨折(わかぎこっせつ:若木や青竹を曲げたように、ミシミシと折れる)が多く、変形があっても元に戻りやすく、骨のつきも良いです。

主に保存療法(シーネやギプス固定)になりますが、転位が大きい症例では手術が検討されるでしょう。

 

・青壮年の骨折

自転車やバイク乗車中の転倒、スポーツや交通事故、高い所から転落して手をついたときなどに受傷します。

骨折部に大きな力が加わるので、骨が大きくズレたり、関節内の骨折になりやすいでしょう。

合併症や後遺症がおきやすいので、手術の適応が多い骨折です。

 

・高齢者の骨折

骨がもろくなった高齢者では、ちょっとした段差につまずいて転び、手をついて骨折する場合が多いです。

転位が少なければ保存療法、転位が大きい時や関節内の骨折は、手術が検討されます。

 

『橈骨遠位端骨折』は短時間で腫れや痛み、変形が生じます

 

受傷後すぐ手首に強い痛みがあり、短時間で腫れてきます。

痛みや腫れは手首のシワより近位の親指側にあらわれやすいでしょう。

圧痛も強く、上下左右どこから押しても痛みます。(打撲の場合、圧痛が限局されます)

折れ方によっては変形したり、手がブラブラして動かせず、痛くない方の手で支えるようになります。

折れた骨で神経が傷ついたり、腫れで圧迫されると、指がシビレたり、つまむ動作が難しくなる場合もあります。

 

 

『橈骨遠位端骨折』は、さまざまな合併症や後遺症がみられます

 

橈骨遠位端の骨折時に、となりの尺骨の先端や、やや手前の部分を同時に骨折することがあります。

また、骨折部で親指を伸ばす筋肉の腱や、指と手首を曲げる筋肉の腱が切れてしまうケースもみられます。

 

骨折部の腫れにより、手首の手のひら側にある神経の通り道が圧迫されることがあります。

手根管症候群と呼ばれ、正中神経が障害を受け、親指から薬指までのしびれや痛み、運動障害が生じます。




固定期間が長い場合や、十分なリハビリが行われないと、関節が硬くなって、動きが悪くなります。

可動域に制限があると、スポーツや日常生活で支障が出たり、無理に動かすと痛みを伴うでしょう。

また、骨折部の変形、特に関節面に段差が残ると動かしての痛みが生じやすく、変形性関節症になってしまい痛みが治まらないケースもあります。

 

骨折部が不安定だったり、血行不良などがあると、いつまでも骨がつかない、偽関節(ぎかんせつ)という状態になります。

固定や手術後、無理に動かしたり、再受傷した場合も、骨折部が転位してしまうことがあるので、気を付けましょう。

 

ギプスなどで固定後、骨折部の腫れが増すと筋肉内の血流が悪くなり、コンパートメント症候群になる場合があります。

固定後、強い痛みや手指の蒼白、脈拍消失や感覚の異常・麻痺がみられたら、病院へ急ぎましょう。

筋肉が壊死してしまう「フォルクマン拘縮」にいたると、取り返しがつかないので、注意が必要です。

 

手術後の傷に細菌感染がおきると、赤く腫れたり滲出液が増える場合があるので、術後痛みが増悪したら、早めに病院を受診してください。

また、プレート固定の手術をして半年経った頃から、親指を曲げる筋肉の腱とプレートが擦れて、腱が切れてしまうケースがみられます。

術後半年ほどで、早めにプレートを抜く手術をするのが、予防になると言われています。

 

 

『橈骨遠位端骨折』の診断はX線やCT検査

 

骨折の程度により治療法が異なるので、まずX線により検査します。

単純な1ヶ所の骨折なのか、複数の粉砕骨折なのか、骨折が関節面におよんでないかなどを診断します。

CT検査では、関節内の骨折や粉砕骨折の状態を正確に診断できるので、手術が必要な症例では有用とされています。

 

症状に応じて、保存療法か手術が選択されます

 

麻酔で患者さんの痛みを和らげてから、ズレた骨を元の位置にもどす整復(通常は牽引と圧迫)をおこないます。

手部を牽引する力をゆるめても、転位がおきない場合は、ギプスなどで固定します。

なお現在は、ギプスは石膏ではなく、水で固まる合成樹脂を巻き、キャスト固定とも呼ばれています。

骨がつくまで、4~6週を要するので、ギプス固定期間中(3~4週)に転位がおこらないようにする工夫と、関節可動域や筋力の低下を防ぐリハビリが重要ですね。

 

牽引する力をゆるめると骨がズレて、元の位置が保てない場合や、手首の関節におよぶ骨折は、手術が検討されます。

また、骨折した骨が皮膚を突き破って出てしまう開放骨折では、緊急手術が必要です。




青壮年者や活動性の高い高齢者は、変形が残ると機能障害が生じる可能性が高いので、手術が薦められるでしょう。

小児の場合は、自ら変形を治す力が強く、骨のつきも早いので、通常は手術せずにギプス固定などで治療します。

 

手術には、鋼線(針金のようなもの)を刺し入れて固定する「経皮的鋼線固定法」、骨折部にピンを刺してそこに牽引装置を装着し、創の外から固定する「創外固定法」、そして現在主流の「プレート固定法」があります。

 

手術の主流は、掌側ロッキングプレート固定術!

 

近年開発された、ロッキングプレートの手術により、橈骨遠位端骨折の治療成績は、格段に向上しました。

通常チタン製のプレートにネジ切りがしてあり、スクリュー(ネジ)とプレートが一体化することで、かなり薄くて小さいプレートでも、しっかりと固定できるようになりました。

粉砕骨折や弱くなった骨、転位の少ない骨折も本手術の対象となっており、橈骨遠位端骨折の約60%がロッキングプレートによる治療との報告もあります。

 

手首の手のひら側を約5cm切開し、転位を整復してからプレートと数本のスクリューで固定します。

手術時間は約1時間、入院期間は2~3日で、手術の翌日には退院し、通院によるリハビリをおこないます。

ギプス不要の場合は、翌日から手首を動かす訓練を、固定が必要な場合も1週間以内には、手首のリハビリが可能になります。

早期の機能回復訓練で、正常な関節の動きと筋力を、術後4~12週間で獲得できるでしょう。

日常生活や仕事、家事でも積極的に手を使うことが薦められますが、プレート固定でも骨がつくまでの期間は、ギプス固定と同様に4~6週なので用心は必要です。



手首を元通りにするために、リハビリは欠かせません

 

骨折治療の目的は、痛みを無くし、関節の動く範囲と筋力、形をケガする前の状態に、元通りにすることです。

そのためには、ギプス固定後あるいは手術後すぐに、リハビリテーションを始めなければなりません。

 

保存療法(手術以外の治療)の症例では、ギプスなどで固定後、まず指の曲げ伸ばし運動をしましょう。

筋力低下や関節が硬くなるのを防ぎ、腫れやむくみの解消に役立ちます。

肘や肩の運動も、手首に負担がかからないように気を付けながら、おこなってください。

 

受傷後3週で、指に抵抗を加えながらゆっくり動かす筋トレも可能になってきますので、主治医に相談のうえ、おこないましょう。

積極的な運動療法が薦められますが、手首がしっかりと固定されていることが大前提なので、ギプス固定などが緩いと感じたら主治医に伝えてくださいね。

 

固定除去後は、痛みの状態を見ながら、やさしくゆっくりと手首を動かしていきます。

動かす方向は、手首を手の甲側に反らす、手のひら側に曲げる、手のひらを上に向ける、手のひらを下に向けるの4つです。

手のひらを返す時は、「小さく前にならえ」の形で、肘を固定して確実に手首を回しましょう。

動かす方法は、痛くない方の手でじわじわと力を加えていく他動運動と、自分の力だけで動かす自動運動の2通りを毎日おこないます。

 

ロッキングプレート固定の手術から2週間ほどは、やさしく手首を動かし、熱感があればアイシングします。

指や肘、肩の関節は積極的に動かしましょう。

術後2週〜6週で、温熱療法とマッサージなどを併用しながら、弱い負荷をかけての筋肉トレーニングを始めます。

6週以降は、徐々に負荷を上げていき、積極的な筋トレに切り替えていきます。

 

運動療法と同時に、日常生活をおくるために必要な動作の回復をめざして、様々な作業を通じて訓練する作業療法も大切なリハビリです。

骨折した手が、生活で問題なく使えるようになることを目標に、手術した翌日から作業療法を開始します。

病室内での動作、トイレ動作、食事動作、更衣動作、整容動作、余暇動作などが指導されるでしょう。



専門医の診療とリハビリで、完治を目指しましょう

 

手をついて転び、手首に痛みがある時は、手指が動かせても骨折の可能性があります。

痛みや腫れが強いときは、心臓より高い位置に手首を保持して、整形外科を受診しましょう。

放置すると、変形したまま骨がついて、さまざまな機能障害や合併症をおこすことがあるので、注意してくださいね。

専門医による正確な診断と、適切な治療を受けることをお薦めします。

リハビリテーションでは、理学療法士などによる運動療法はもちろん、自宅で自ら行うリハビリがとても重要です。

また、「生活できる手」を目標に、日常生活において無理のない範囲で、手を使う作業療法も積極的に取り入れていきたいですね。










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