しわがれ声やかすれ声、声が出ないなどの「声の異常」は、誰もが経験する症状の一つですね。
カラオケの歌い過ぎやスポーツ観戦の応援などでの、一時的な声の異常は心配いらないでしょう。
しかし声が戻らず、声のかすれや声枯れが続くときは、放置しても治らない、病気が原因の声の異常かもしれません。
また、病院を受診してもなかなか治らない、原因不明の声の病気も増えています。
今回は、声の異常の詳細と、原因となる病気の症状や治療などをお届けしますので、ぜひ参考にしてください。
声の異常の主な原因は、声帯のヒダにある
呼吸時の空気の通り道(気道)は、鼻腔・咽頭・喉頭・気管・気管支からなり、肺に至ります。
喉頭(こうとう)は、男性の「のどぼとけ」の位置にあり、声をだすための声帯(せいたい)があります。
声帯は粘膜に覆われたヒダで、呼吸時は開き、発声時には左右の声帯が接近し閉じます。
閉じた声帯の粘膜を呼気(吐く息)が震わせることで、声がでるのです。
この声帯に異常が生じると、しわがれ声やかすれ声などの声の障害(発声障害)がおこります。
また、ホルモンの異常や薬の副作用などでも、本来の声がでなくなる場合があります。
声の音質・高低・大小の異常と原因について
「声が変だ」「声がいつもと違う」状態を音声障害と呼びます。
声の質・高さ・大きさなどに異常が生じます。
声が枯れるとき(嗄声)の症状と原因疾患
嗄声(させい)と呼ばれる「しわがれ声」「かすれ声」は、さまざまな病気が原因となります。
声の音質の異常から疑われる原因疾患をみていきましょう。
がらがら声:粗糙(そぞう)性嗄声
喉頭炎、声帯ポリープ、喉頭がん
かすれ声、息もれ:気息性嗄声
反回神経マヒ、一側声帯マヒ(喉頭がん)
しぼりだす声、力んだ声:努力性嗄声
けいれん性発声障害(仮声帯発声、機能性発声障害)、喉頭がん
弱々しい声:無力性嗄声
声帯マヒ、音声衰弱症
声の高さや大きさなどの異常があるときの原因疾患
平均的な声域から外れた声
ホルモンの異常、声帯ポリープ、喉頭がん、喉頭の外傷
声の大きさを調節できない
難聴、脳の障害、声帯ポリープ、喉頭がん
鼻声や鼻に抜けてしまう声(鼻音症:びおんしょう)
鼻の疾患、口蓋裂(こうがいれつ)、軟口蓋(なんこうがい)マヒ
音声障害をおこす他の原因
「音声障害」は声帯の他、呼気(吐く息)や聴覚、生活習慣やホルモンの異常なども原因となります。
なお、特に声帯が原因の音声障害は、「発声障害」ともいいます。
呼気の異常
気管支や肺の病気による、肺活量の減少
聴覚の異常
先天性難聴による、声の調節不良
喫煙や飲酒
タバコのタールや強いお酒は、のどを刺激して、声帯に炎症をおこす
加齢
声帯がやせ細り、閉じたときに隙間ができるため、息がもれて声がかすれる
ホルモンの異常
変声期の不安定な声の高さが続く状態
性腺機能低下により、男性の声が低くならない
薬の副作用
男性ホルモンやステロイド薬の治療により、女性の声の低音化や翻転(ほんてん:声がひっくりかえる)
「声帯ポリープ(喉頭ポリープ)」は声の使い過ぎが原因
声帯ポリープは、声をよく使う仕事に従事する人や喫煙者に多く発生する、声が枯れる病気です。
声を使い過ぎたり、風邪などで声帯に炎症が生じると、声帯の粘膜が充血します。
さらに声帯に負担をかけ続けると血腫(血のかたまり)ができ、やがてポリープになるでしょう。
ポリープができると、声帯の閉じ加減や振動に異常が生じ、嗄声になっていきます。
息もれや声の低音化がおこり、まれに呼吸困難などの症状がみられます。
内視鏡検査で診断し、初期のポリープは声帯の安静と消炎剤の内服やネブライザー(吸入)治療が行われます。
症状が改善しない場合は、喉頭顕微鏡下で「声帯ポリープ切除術」などの手術が検討されるでしょう。
声帯ポリープの予防は風邪に気をつけて、声を出すときに、のどに力を入れないように心掛けてください。
カラオケで歌い過ぎたり、スポーツ観戦中の大声での応援などは原因となりますので、声帯の乱用は程々にしましょうね。
男の子の声枯れは、「声帯結節(けっせつ)」かも
声帯結節とは、声の使い過ぎで声帯の両側にタコができて、声が枯れる病気です。
ポリープと同様に、結節により声帯の閉じ加減や振動に異常が生じます。
のどが重い、声が裏返るなどの症状で始まることが多いでしょう。
やがて声が枯れて、息がもれたり硬い声になっていきます。
声が出にくくなるので、声帯により負担をかけて発声するようになり、症状が悪化してしまいます。
学校の先生や保育士さん、歌手やインストラクターなど声帯を酷使する人がなりやすく、仕事のため患部の安静が保てないので、治りづらいでしょう。
また声帯結節は、若い女性と学童期の男子に多く発症するという特徴があります。
内視鏡検査で診断し、治療は声帯ポリープと同様になります。
薬物治療と併せて、音声治療(発声の指導)も症状改善と予防に有効でしょう。
むせやすくなったら「反回(はんかい)神経麻痺」の疑いあり
反回神経麻痺は、「声帯麻痺」「喉頭麻痺」とも呼ばれる、声帯が動かなくなる病気です。
声帯の開閉を調整する「反回神経」に障害があると、声がかすれて空気が抜けるような声になります。
声を出し続けることが難しくなるので、会話中の息継ぎが頻繁になったり、電話での会話が苦手になるでしょう。
反回神経がマヒすると、誤嚥(ごえん:食物や唾液などが気管に入る)や呼吸困難がおこることもあるので、注意が必要ですね。
食道がんや肺がん、喉頭がんや甲状腺がん、がんのリンパ節転移や大動脈瘤、脳の疾患やウイルス感染、頚・胸部の手術や外傷などが原因となるでしょう。
各種検査による原因疾患の特定と治療が優先されます。
「声帯萎縮」は、声がかすれて弱くなる
加齢や声帯の病気などで、声帯が萎縮すると隙間ができるので、声がかすれたり発声が弱くなります。
先天性や炎症により声帯のふちに溝ができる「声帯溝症」や「声帯麻痺」などが原因疾患になります。
内視鏡検査により診断し、声の出し方の訓練(音声治療)を行います。
アテロコラーゲンやヒアルロン酸、自分の腹部の脂肪などを声帯に注射したり、甲状軟骨の手術療法も検討されます。
喫煙者や大酒家は要注意の「喉頭がん」
声帯がある「喉頭」に悪性腫瘍ができると、声がかすれます。
喉頭がんは、喫煙や飲酒の影響が強いため90%は男性といわれ、耳鼻咽喉科で最も多いがんです。
嗄声から始まり、食事や呼吸時の違和感などが生じるでしょう。
比較的早期に見つかりやすいがんですが、無症状のままリンパ節転移に進行する場合もあります。
薬物療法や音声治療、手術療法などが検討されます。
治療においては、発声や飲食、呼吸の機能温存がポイントになります。
2週間以上、嗄声が治らないときは、耳鼻咽喉科で診てもらいましょう。
声がでない!若い女性に多い「けいれん性発声障害」
「けいれん性発声障害」は、声帯そのものには異常がないのに、話そうとすると声がつまったり声が震えてしまう、20歳~40歳代の女性に多い病気です。
自分の意思と関係なく、声帯を開閉する筋肉が勝手に緊張し、声がだしづらくなる病気で、正確な原因はいまだ解っていません。
けいれん性発声障害の9割は「内転型」
けいれん性発声障害の症状は日により、また環境により変化し、精神的に緊張する場面や電話、知人や家族との会話でも悪化しやすいです。
声帯が強く閉じすぎてしまう「内転(ないてん)型」では、声が出ない・つまる・とぎれる・ふるえる・かすれるなどの症状がみられ、全体の9割を占めます。
会話時は「ア行」「ハ行」が発声しにくく、裏声や歌唱時は症状が軽くなるでしょう。
声帯が開きすぎる「外転型」では息がもれてしまうために、声がとぎれる・ささやき声・言葉にならない・声が裏返る・声が鼻にぬけるなどの症状があり、「サ行」「ハ行」が話しづらくなるとされています。
治療法の「ボトックス注射」とは?
現在、けいれん性発声障害の治療は対症療法のみで、根本的治療法はありません。
保存的治療はボトックス注射(ボツリヌス療法)と音声治療、重症例や注射が無効のときは手術が検討されます。
ボトックス注射は、異常に緊張した声帯の筋肉を一時的にマヒさせる「ボツリヌストキシン」を、のどぼとけ付近から注入する治療法です。
緊張した筋肉がゆるむので症状は軽減しますが、治療効果は3~4ヶ月と短いため、年に複数回の注射を継続させる必要があります。
ボトックス注射の副作用は、内転型では息もれや誤嚥、外転型では息切れです。
なお、けいれん性発声障害のボトックス注射は、2018年6月より保険適応になりました。
けいれん性発声障害の相談は、音声専門の耳鼻咽喉科へ
けいれん性発声障害の患者さんは上手く会話ができないため、コミュニケーション機能が低下し、仕事や人間関係に支障がでてしまいます。
複数の病院を受診しても、「異常ありません」「ストレスが原因でしょう」といわれることが多い「けいれん性発声障害」。
診断の難しい病気なので、症状を訴えても納得のいく診断や治療を得られず、お悩みの人も多いようです。
ネット上のセルフチェックなどを利用し、けいれん性発声障害が疑われたら、「音声専門の耳鼻咽喉科」の受診をおすすめします。
その他、声に異常を起こす病気
声帯炎
風邪をひくと、声帯が炎症をおこしたり、激しい咳(せき)により声帯の縁を傷めることがあります。
仕事で大声をだす人は、声帯炎が慢性化しやすいでしょう。
ポリープ様声帯
声帯がむくんで、腫れあがった状態です。
愛煙家に多く、ガラガラ声になります。
声帯のう胞
声帯の縁にできる良性腫瘍で、声が枯れます。
声帯出血
声帯粘膜の毛細血管が出血し、声が枯れたり重く感じます。
安静をとらず声帯を酷使すると、ポリープや結節になることもあります。
喉頭腫瘍
喉頭にできる腫瘍は、角化症や白班症、乳頭腫などで、悪性化することもあるので、注意が必要です。
喉頭がんの初期は、軽いかすれ声で進行すると、ガラガラ声になるでしょう。
声のセルフケア
風邪や飲酒、大声を出した後などの一時的な声枯れは、声帯の粘膜の乾燥が原因の場合が多いようです。
セルフケアで、声帯をいたわってあげましょう。
声帯の乾燥防止
加湿器や濡れたタオルなどで湿度を60%ほどに保ってください。
口呼吸や喫煙はいけません。
乾燥時はマスクを使用しましょう。
常温のスポーツドリンクもおすすめです。
カフェインは控えたほうがよいです。
声帯を休める
大声をださず、会話は必要最小限にしましょう。
声帯を冷やさない
首にストールやタオルを巻いて、のどを温めましょう。
温かい飲み物もおすすめです。
声帯を使い過ぎない
カラオケや応援、講演などは、適度に休憩をとってください。
声帯をクールダウン
適切な水分補給やアメなどがよいでしょう。
声の異常に隠れた病気に要注意
声に異常をおこす原因をみてきましたが、いかがでしたか。
声枯れなどは、日常的によくおきる症状なので軽視しがちですが、怖い病気が隠れていることもあります。
特に喉頭のがんや、反回神経麻痺の原因となる病気による声の異常は、見逃してはいけませんね。
声がかすれて、むせやすくなったり、声の異常が2週間以上続くときは、一度耳鼻咽喉科で診てもらいましょう。
コメントを残す