最近「腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)」という病名を耳にする機会が増えてきました。
70歳以上の50%が罹患するとの報告もあり、超高齢社会を迎える日本では、今後もさらに患者数は増加するでしょう。
また、腰部脊柱管狭窄症は、65歳未満の要介護認定を受ける要件として、自立困難の原因となる、16の特定疾病のひとつです。
立つ・歩くなどの移動能力が低下して、日常の生活動作や生活の質に影響を与える、中高年者も要注意の疾患ですね。
今回は、50歳以降に増えるこの疾患の、症状と原因や治療について詳しく徹底解説していきますので、ぜひ参考にしてください。
歩行中、脚に異常を感じたら要注意
少し歩くと
- お尻から脚にかけて痛みやしびれが出る
- 重だるくなる
- つっぱるなどの症状がある
- 歩きづらくなる
- 途中歩けなくなるが、前屈みで少し休むと、また歩けるようになる
お尻や脚に、この様な症状はあるようでしたら、腰部脊柱管狭窄症を疑ってみましょう。
また、立ち続けたり、洗濯物干しなどの上向き仕事で、腰を反らしても同じような症状がでます。
安静にしている時は、痛みやしびれは軽いですが、病状が進行すると、安静時でも症状が強くなってきます。
やがて、脚に力が入らない、足の裏に異物感がある、股間がほてる、残尿感や失禁、便秘などの症状がみられるようになるでしょう。
脚の動脈硬化でも歩きづらくなる
歩くと痛くなり、休むと歩ける「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」が、腰部脊柱管狭窄症の特徴ですが、脚の動脈硬化が原因の「閉塞性動脈硬化症」でも、同様の症状がでます。
違いは、休む時に、腰を屈めると楽になるのが、腰部脊柱管狭窄症です。
閉塞性動脈硬化症では、症状の軽減に休憩時の姿勢は関係ありません。
診断には、足の甲の脈の触診や、腕と足の血圧を比較する検査が必要です。
脚の痛みやしびれの原因は様々
腰から足先にのびる神経に障害が生じると、お尻や脚に痛みやしびれがでます。
ちなみに、坐骨神経にそって痛みがある場合は、神経に障害が無くでも「坐骨神経痛」と呼ばれます。
- 腰椎椎間板ヘルニア
- 腰椎分離すべり症
- 腰椎変性すべり症
- 腰部脊柱管狭窄症
- 腫瘍やガンの転移
- 梨状筋症候群
- 帯状疱疹
- 変形性股関節症
などが原因になります。
治療にあたっては、専門医による、適切な検査と正確な鑑別診断が必要です。
腰部脊柱管狭窄症の原因は、加齢と労働
脊柱管(せきちゅうかん)は、背骨や椎間板、関節や靭帯などで囲われたトンネルで、脊髄や馬尾神経(足へのびる神経)の通り道です。
加齢や労働による負担の蓄積、背骨の病気などで、脊柱管が狭くなると、脊柱管狭窄症を発症します。
背骨や関節が変形し、椎間板がつぶれて突出したり、靭帯が厚くなって神経が圧迫され、神経の血行が悪くなると症状があらわれます。
腰部脊柱管狭窄症はX線やMRIなどで検査
お尻や脚の症状が改善せず、悪化する場合は、整形外科を受診し検査を受けましょう。
単純X線撮影では、 背骨の変形やずれ、側弯の有無などを診ます。
腰部脊柱管狭窄症が疑われたら、MRI検査により、神経の圧迫状態の詳細を確認し、診断を確定します。
脊椎椎体骨折や転移性脊椎腫瘍、感染性脊椎炎などとの鑑別診断にも役立ちます。
手術適応の判断や術式決定のために、脊髄造影が必要になることもあるでしょう。
腰部脊柱管狭窄症は画像と医師の診察で診断
検査により、神経を圧迫している状態は把握できますが、必ずしも、症状の程度とは一致しないのが一般的です。
画像だけでは症状の有無を判別できないので、年齢や病歴、症状の聞き取りと身体チェックなどを合わせての診断が、重要と言えるでしょう。
病院を受診する際は、ご自分の病歴や自覚症状と経過を詳しくメモして、正確に担当医に伝えるようにしてくださいね。
「腰部脊柱管狭窄症」初期は保存的な治療が有効
腰部脊柱管狭窄症は軽度から中等度の患者さんは、神経の機能が急に悪化することは少なく、30%から50%の方は、自然に症状が軽減するとされています。
両脚に症状が出て、歩行障害が進行したり、排尿排便障害がみられる重度の患者さん以外は、まず薬物療法や理学療法などの保存治療が選択されます。
消炎鎮痛薬や血流改善薬などの薬物療法、ブロック注射、温熱治療や電気治療、運動療法などの理学療法、手技療法やハリ治療などが施されるでしょう。
症状がお尻や脚だけで、治療の初期から効果がみられる患者さんは、長期にわたり症状が悪化しにくいとの報告もみられます。
早期に適切な治療を受けることで、この病気と上手に付き合っていけるということですね。
ただし、神経の症状が急に悪化した場合は、腰椎椎間板ヘルニアや転移性脊椎腫瘍など、他の病気との鑑別が必要になります。
簡単な体操も、腰部脊柱管狭窄症にとって大切な治療となります
保存治療とともに、日常生活に注意しながら、積極的に運動療法を取り入れましょう。
腰部脊柱管狭窄症の、代表的なエクササイズをご紹介します。
- 仰向けに寝て、両手で両膝を抱えこみましょう
- 息を吐きながら、ゆっくりと膝を胸に近づけていきます
- 5秒間キープを、10回繰り返します
慣れてきたら、1日数セットを目標に行ってください
最初は無理せず、痛みを感じたら休止しましょう
これだけ体操(3秒間の腰痛体操)の考案者、関東労災病院の松平 浩先生が監修した体操も、簡単で効果があるので、ぜひお試しください。
※詳しい方法はコチラ 「腰を屈める簡単な体操」:http://www.research.johas.go.jp/22_kin/docs/manual_kyotsui.pdf
ステッキやシルバーカーを使ってのウォーキングや、自転車運動も有効ですので、症状が悪化しない程度に加減しながら続けてみてください。
「腰部脊柱管狭窄症」手術は十分検討して、適切な時期に
保存療法を数ヶ月間続けても、症状が改善しない、あるいは悪化する場合は、手術が検討されます。
神経の圧迫を取り除くために、背中側から骨を部分的に取り、靭帯を切除する「椎弓切除術」が一般的です。
また、背骨が不安定だったり、大きなずれがある時は「固定術」が施され、どちらも内視鏡下での手術が可能になってきました。
通常、手術時間は30分から3時間で、翌日から歩行器を使用しての歩行訓練を開始します。
1~2週間で退院となりますが、3~12ヵ月の通院が必要となる場合が多いでしょう。
職場や学校へは、1~2ヵ月で復帰可能ですが、症状や手術の方法により、2~6ヵ月の安静を指示されることがあります。
神経へのダメージが長期にわたると、神経そのものがもとに戻らない状態になります。
その結果、手術後、間欠性跛行や安静時の痛みは改善しやすいのですが、安静時のしびれや麻痺は残る場合があります。
「腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン 2011」には、「主治医が手術適応と判断した場合には、速やかに手術治療も考慮することが推奨されている」とありますが、手術の時期については、合併症(神経損傷や創部感染など)も含めて十分な検討が必要でしょう。
腰部脊柱管狭窄症と上手に付き合う方法
腰部脊柱管狭窄症の患者さんは、腰を少し屈めて、神経が通る脊柱管を広げる姿勢で、生活しましょう。
炊事などの立ち仕事は、低めの台に片足をのせると、楽に作業ができます。
買い物や移動には、自転車を利用するとよいでしょう。
患者さんにとって、前屈みは楽なのですが、腰に負担のかかる姿勢でもあるので、時々腰を伸ばすようにしてください。
近年、腰痛の85%は「原因は特定できないが、心配のない腰痛」といわれています
原因が特定できる15%に、腰部脊柱管狭窄症は含まれます。
MRI検査の結果から、脊柱管が狭くなっている状態の説明を受け、治らないとの印象をもたれる人も多いでしょう。
しかし、適切な治療を受け、日常生活に注意して、疾患と前向きにとりくむことで、「心配のない腰痛」と同様の経過が期待できるのです。
中年以後に発症した患者さんは、加齢変性が疾患の基盤にあるので、完全な治癒は難しい場合が多いでしょう。
それでも、症状を軽減し、腰部脊柱管狭窄症と上手に付き合いながら暮らしていくことは、充分可能ですので、どうかあきらめずに治療に挑戦してください。
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